モモクリ3年、餓鬼8年

【任意の作家の文体を真似】した小説を1時間で完成させる。

選んだ作家:西尾維新先生

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 1 ぼうっと歩けば犬に当たる。


「よぉ、お兄ちゃん。その腰のくれないか?」


不審者だ。

不審者に声をかけられた。

声をかけてきたのが見目麗しい美女でもなければセクハラだと訴えられかねない発言に僕は目を白黒させた。

いや、最近は男性のセクハラ被害もちゃんと扱われるようになったと聞くし、たとえ美女であろうと男性の下半身を揶揄するような発言は出るところに出て白黒つけられるのかもしれない。


とはいえ、流石に僕も彼女が言っているが男性特有の器官でなく腰に下げた「御守り」のことだというのは分かる。

故郷を旅立つ時に育ての親に渡されたもので、奈良の公卿くぎょう由来の珠である。


鬼退治に出るにあたり、連れ立つ仲間探しの良縁祈願にと持たされたお守りが早速効果を発揮したようだった。


「その腰につけてるの、吉備真備きびのまきびの三宝珠だろ? 見知らぬ他人から貰えば頼みごとを引き受ける代わりに剛力無双の力を授けるとかなんとかいういわれのあるスーパーボールじゃんかよ。 つまりアタシがそいつをもらえば、すっげえ強くなれるんだろ? ほら、早く寄越しな」


「寄越しな…って、これを受け取ったら頼みごとを引き受けなきゃいけないことを知ったうえで言っているんですよね? いいんですか、そんな簡単に。僕が何のためにこの珠を持って故郷を出たのかとか聞かなくて大丈夫です?」


「ああん? あのさあ、お兄ちゃんよ。その辺りの事情を迂闊に聞いてでもして『見知らぬ人』じゃあないって珠に判定されたら最後、簡単に強くなれるレベルアップイベントを逃すことになるんだぜ。互いに名乗ったり素性を確かめたりする前にまずは珠の受け渡しだろうが」


言われてみればそのとおりである。

僕は腰の珠を取って渡し、私終えてから名を名乗った。


「ふーん、それがお兄さんの名前ね。アタシの名前は狗尾草えのころぐさじゃらし。それで、お兄さんの頼み事ってのは何なわけ?」


鬼退治だと打ち明けると、じゃらしさんは犬歯をむき出して笑った。


 2 猿もおだてりゃ木に登る。


次なる仲間を求めて出会ったのは知性の結晶であるところの装身具、つまるところ眼鏡をかけた女性だった。じゃらしさんは、彼女と面識があるらしく凄く嫌そうにしていたが、どんなお願いをされるかも分からずに引き受けてくれる人なんて滅多にいないのだから僕としては是非とも仲間に加えたいところだ。それに武闘派のじゃらしさんが既に味方になってくれた以上、策謀に長けた人物を引き込もうというのは理にかなった判断のはずだ。別に眼鏡に惹かれたわけではない。


「ほな、よろしゅう。私の名前は猿模えんもゆかり。『無限の猿頁サルページ・タイプライター』って名乗った方がわかりやすかったりする?」


驚いた。まさか、まさかのジョーカーだ。

無限の猿頁サルページ・タイプライター』だって?

それがわかっていれば、流石の僕でも仲間に引き込もうなんて言い出したりしなかっただろう。どうして、じゃらしさんは忠告してくれなかったんだ。

僕の表情が歪むのを見て、猿模えんもゆかりはキキキと笑った。


 3 キジも鳴かず飛ばず。


3人目の仲間として加わったのはサングラスにアロハシャツの派手なお兄さん。

名前は希雉木ききじき聞耳ききじ

胡散臭いの化身のような男だったが、まんまと話術に乗せられて気づけば珠を渡していた。3人の仲間を女性陣で固めるハーレム計画を潰えさせるとはとんでもない。


 4 鬼さんどちら?


3人の活躍についてはもはや紙幅を割くまでもない。

圧倒的な戦闘力のじゃらしさんに、『無限の猿頁サルページ・タイプライター』の策謀を振るうまでもなく、希雉木ききじき聞耳ききじが鬼の宝を意図もたやすく譲渡してもらい鬼ヶ島は無血開城。

目的だけが達成されて、条件である「鬼退治」がなされなかったことで契約は切れず。僕ら3人の珍道中が始まることになるのだが、それはまた別の話。


《Mimicry 1Hour》 is End.



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