四方火蛇《 よも かがち 》
本日のお題:【スタンド】
補足ルール:【スタンド】という語句の解釈は自由ですが、なんらかの二次創作でワンドロする場合はハーメルンなどの二次創作作品が投稿可能な場所にお願いします(カクヨムは指定された作品以外の二次創作は不可)
_ _ _
「なあ、
「危ないなあ。誰かがタバコのポイ捨てでもしたのかな」
火事になっても困るし、消しておいたほうがいいだろう。
そう思って僕は足を止め、空き地に向かって体を向けた。
すると、突然ススキから上がっていた細い煙は勢いを増して赤く燃え上がった。
「うわあ!? マズいぞ。このままじゃあ、火事になってしまうッ」
慌てて消火のために駆け寄ろうとする僕を
「待ちな。なんかあの炎、怪しいぜ」
「怪しいとか怪しくないとかじゃあないだろう!? このままじゃあ、火事に…!」
「いや。既にもう、手遅れみたいだぜ?」
ススキについた炎は勢いを増している。
そして一陣の風がこちらに向かって吹き付けると…
炎がこちらにむかって移動し始めた。
「な、なんだあ!?」
まるで生きているかのように炎は動き、僕らの方へと近づいてくる。
信じられないような超常的、怪奇的な現象だ。
「逃げるぞ、
振り返ると炎はこちらを追ってきている。
「おいおいおい。またかよぉ!」
そう、普通なら目を疑うような光景に僕らが出くわすのはこれが初めてじゃあない。
今年に入ってから、もう3回は災難に見舞われている。
何か良くないものに憑りつかれてしまうと、続けざまに怪異現象に合いやすくなるなんて話を聞いたことがあるけれど、どうやらその噂は正しいらしかった。
「とにかくどこか、安全なところに逃げないと。」
「安全なところってどこだよ?」
普通なら水場が安全なんだろうけどこの辺りには水なんてない。
火、炎、…安全な場所…
「スタンドだ。この近くに『ガソリンスタンド』がある! そこへ向かおう!」
「ガソリンスタンド? どう考えてもそれだけはねーだろ! 爆発事故につながっちまうぜ!」
「いや、そうじゃあないんだ。ガソリンスタンドは火災時に最も安全な場所のひとつだと言われているんだよ」
ある町で大規模な火事が起こり多くの建物が焼ける中で、一軒の建物だけがほぼ無傷のまま残っていたという話がある。
その建物はガソリンスタンドだった。
大量の油やガソリンなどの扱いをする関係上、ガソリンスタンドを建てるためには消防法によって定められるいくつもの基準をクリアする必要がある。
それ故に、ガソリンスタンドは現代日本の一般的な町並みに於いて、最も炎に対して安全な施設なのである。
「それにガソリンスタンドにはまず間違いなく『消火器』があるッ!」
「なるほどな、分かった。ガソリンスタンドを目指すぞ」
* * *
「まさか、閉じ込められるとは思わなかったぜ…」
逃げ込んだ先は幸か不幸か自動車が止まっていなかった。
他人に迷惑をかけることがないという点では幸運だが、
助けを求められないという点では不運だったろう。
駆け込んだガソリンスタンドに僕らは閉じ込められている。
四方を炎に囲まれて。
「
炎にまつわる怪異を順番に思い出す。
こんなにのんきに考えていられるのは炎がガソリンスタンドの建物の中に入ってこずにスタンドの建物の周りを回っているからだ。
ガラス張りのスタッフステーションにかけこむとすぐに耐火ガラスのドアを閉めた。
ガラスは通常、高温にさらされると内部からひずみ割れてしまう。
だが、耐火ガラスは違う。
炎にさらされてもびくともしない。
先ほどから宙を浮いて舞っている4つの火の玉はガラスに阻まれて中へは入ってこれない。
しかし、これでは外に出ることもできない。
炎の妖怪…
蛇のようにうねりながら追ってくる怪異…
ああ、そうだ!
なんで思いつかなかったんだ。
「これ、
蛇のようにうねる炎。
4つで1つの怪異。
対処法は…
「こいつは3を嫌うんだ!」
「3? なんで3を?」
「
その時。
「なんだぁ、うるせーぞ! セルフスタンドだからって人がいねーと思ったのか!? こういうセルフステーションにもよお、ちゃんとスタッフがいるんだぜ。お客様じゃなくて騒いでるだけのガキならとっとと出ていきなあ!」
た、助かった!
スタッフステーションの奥から一人の男が出てきた。
「た、大変なんです火事が!」
「ああああ、なんだあ! 燃えてるじゃねーか!」
「そうなんです、だから人を呼びに!」
「うおおお。待ってろすぐに『消火器』もってくるからよお!」
ガラス戸の向こうの炎は男の姿をとらえると困ったようにくるくるとその場で回り、
動きを止め、『普通の火』になった。
ガソリンスタンドのスタッフが消火器をもってきて噴射すると、
不可思議なことは起こらずそのまま消えた。
僕らのいたずらなんじゃあないかと疑われたが、マッチ1本、ライター1つすら火の元になるものを持ってないことを示すと解放された。
もし、もしもあの時にスタッフステーションの中に人が二人いたら…僕たちはどうなっていたんだろう。
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