ゆりのまラグランジュ・ポイント!
本日の課題:【ラグランジュポイント】をテーマにした小説を1時間で完成させる。
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物理の授業で先生の話が教科書から脱線し、L点の話になった。
二体問題に一点を加えることで天体の三体運動の複雑さは跳ね上がるという話を嬉々として語る先生。
「3つの点がちょうどよく収まる特殊解、それがラグランジュ・ポイントです。」
その言葉を、今僕は思い出していた。
重たい二つの天体とその間で揺れる軽い天体。
それらの『おさまりがよくなる』場所をL点…ラグランジュ・ポイントと呼ぶ。
ボクは今、人間関係のL点にいる。
部活の女友達2人との関係性は良好で「異性間の友情」があるのだとボクは知ることができた。いや、そう思っていたと過去形で言うべきなのかもしれない。
引っ込み思案で時折、奇抜な事を言う有栖川さん。
オタクに優しいギャルって実在するんだと驚いた宇佐美さん。
2人との友情関係は心地よく、とても素敵な青春を遅れてきたと思っている。
だけど、今日。
下駄箱に手紙が入っていた。
差出人の名前はなく。ただ放課後に呼び出すだけの手紙で…
とはいえ、その意味が分からないほどボクは子供じゃない。
多分、手紙は有栖川さんからだと思う。
恥ずかしがり屋なのに時に大胆な彼女のキャラクター性と「下駄箱に呼び出しの手紙」というシチュエーションはぴったりはまる…気がする。
いや、でも宇佐美さんか?
ああ見えて以外に乙女っぽいところがあって少女漫画に憧れていたりするタイプなんだよな。
どちらにせよ、まさかまさかだ。
ボクにとって2人は「ただの友達」で、恋愛相手として強く意識しないからこそうまくやってこれた。何を上手くやってこれたかと言えば…百合妄想である。
気持ち悪くもオタク君は同級生の二人を百合カップリングとして近くで見続けていたのだ。
百合の近くで見ている男だった。
間違っても百合の間に挟まる男になるまい、と固く誓っていたのだ。
だからこのラブレターは何かの間違いで、間違ってもボクは2人の間に割って入るべきじゃなく。とはいえ健全な男子高校生として2人を恋愛対象として見たことが全くないわけでもなく。
その時、脳裏によぎったのがラグランジュポイントだった。
5つあるL点のうち、3つは天体2つの間に3つ目の天体が挟まれる。
でも。そうじゃない場所で安定することもある。
2天体の間から外れた外側で安定する特殊解。
つまるところ。2人ともから距離を取ろうというのが僕の考えた拙い策である。
男女の友情は終わりだ。
これからは女性同士の尊みを、ボクは近くからでなく遠くで眺めることにしよう。
そう決意して、呼び出しには応じずに校門に向かう。
「なっ、言ったとおりだろ? こいつ絶対意気地なしだから来ないで帰るって」
「うん、宇佐美さんの言ったとおりだったね」
そこには2人が待ち構えていた。
「逃げるのは許さないぞ、チキン野郎」
「そ、そうだよ。ちゃんと私たちの告白を聞いてもらわないと」
…私たち?
「あのね、私たち2人で一緒に告白しようって私が宇佐美さんに言ったんだよ。そうしたら、宇佐美さんがね。服部君はどっちも選ばないと思うって言ったの」
「言ったとおりだったろ? でも、アタシはそういうビビりなお前を逃がさない。どうせ私たちの関係に配慮して、とか考えてたんだろ?」
「だからね、その…3人でお付き合いするっていうのはどうかな?」
L点は2点の間に収まらない特殊な位置をとることがある。
仰角60度。三角形を描く位置で安定する「トロヤ点」と呼ばれるポイント。
僕は百合の間に挟まるのでなくトロヤ点におさまることになりそうだ。
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