バイオテック・トナカイ・レース

本日の課題:【バイオテックトナカイ】をテーマにした小説を1時間で完成させる。


_ _ _


スタートラインに5頭のトナカイが並ぶ。

最速の生体改造トナカイを決める戦い、BTRレース(バイオテック・トナカイレース)が始まろうとしている。


私は手綱を握りソリに乗る。

大丈夫、決勝戦に向けて用意した秘策がある。

落ち着いていくよ、相棒。

そう念じながら自分の身を任せる生体改造トナカイ『スレイプニール』を見る。


「悪いが今年も優勝はワシがもらっていくぞい」

そう横から声をかけてくるのは”悪魔の息子”サタン・サンニコラウス。

生体改造トナカイ『ルドルフ』と共に前年度のBTRレース優勝をさらった男だ。


「歴史の浅い女ジョッキーごときが勝てるほどBTRレースは甘くない。とっとと家に帰っておままごとでもしてるんだな」


試合前のトラッシュトークで揺さぶりをかけてくるのは、このクソおっさんの常套手段だ。つられてはいけない。心を冷静に保つんだ、私。

もう一度、強く手綱を握りしめる。


レースの開始を告げるスタートランプに目をやる。

まだランプは赤く光っている。

このランプが青くなると同時にスタートだ。

心の中でカウントをしながらフライングに気を付けつつ最速でのスタートダッシュに意識を傾ける。


その瞬間である!


ニコラウスの『ルドルフ』の鼻が強く発光した!!

周りのトナカイと騎手は赤い閃光に目をくらまされる。


「汚いぞ! 反則だ!」


観客がニコラウスに罵声を浴びせるがBTRのルールはシンプル。

【トナカイの形状を維持する限り、どんな生体改造も許される】


よって一見、卑怯に思える目くらましも反則ではない。


出鼻をくじかれた4頭の先をルドルフが機先を制していく。

負けじと他のトナカイも速度を上げる。


ペスト医師を思わせるガスマスクを装着した騎手が鞭を振るうと彼の生体改造トナカイ『ペイルライダー』がジェット噴射を思わせる急加速をした。


体内に溜めたバイオガスを尻から噴射して加速したのだ。


ガスの直撃を受ける位置にいる他の騎手が昏倒し落トナカイした。

騎手もまた直撃を受ける位置にいるわけだがガスマスクにより放屁の悪影響を受けずに手綱を操ることができるというわけか。


閃光と匂い。

ふたつの悪影響を『スレイプニール』が受けずに済んだのは感覚器の調整によるものだ。

目を潰して方向を体内磁石によって知覚する『スレイプニール』の走行妨害対策が上手く機能している。


予選でも複数の感覚器妨害が飛び交っていたが、あえて通常の感覚器官を廃した『スレイプニール』の生体改造はそれらのデバフを跳ねのけて私を決勝戦まで導いてくれた。

騎手である私が冷静さを失わなければ、『スレイプニール』もそれに応えてくれる。



コーナーが迫ってきたところで私は鞭を取り『スレイプニール』に指示を出す。

方向転換の合図であると同時に決勝までとっておいた奥の手を披露するためだ。


いや、奥の脚と言うべきか。


スレイプニールが体内に格納していた2本の脚が姿を現す。

4足歩行に加えた追加の2脚で、コーナリングのバランスを取り力強い踏み込みが前進する力を跳ね上げる。


6本足の『スレイプニール』は先頭を走る『ルドルフ』をとらえ…追い越した!


そのまま。ゴールラインを超えて私と『スレイプニール』が一着になった。


会場に歓声が上がり、ニコラウスと『ルドルフ』が悔しそうに2着に甘んじる様を見て笑うものもいた。


そして審判がジャッジを下す。

私は初の女性優勝者としての栄冠を受けることに胸を躍らせ、その瞬間を待つ。


「脚が6本ある生物などもはやトナカイではない! BTRレース規定にのっとり失格! 優勝は繰り上げでニコラウスと『ルドルフ』とする!」

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