豆猫さんのワンドロ小説

宇宙漁港《コスモポート》には未来がある

「宇宙漁港（コスモポート）には未来がある！」

そう言って、何人もの星間移民がやってきた。

ああ、まさに彼らの言う通りだと私は思う。

宇宙漁港（コスモポート）には未来がある。

宇宙漁港（コスモポート）の朝は早い。

星系中心恒星（たいよう）の昇る前から漁業ロケットを飛ばす家も少なくないから、宇宙漁港（コスモポート）のライトは日の出よりも先に灯る。

老人の目覚めは早く、老体を気遣うように父親は祖父よりも早く起きて宇宙船小屋（ドッグ）の気圧調整をする。

仕掛け（トラップワーム）の準備や電磁網（ライオネット）の準備に精を出す父親より先に起きないわけにはいかないと、母親もまた家事を始める。

宇宙漁港（コスモポート）の子供の成長は起床時間で判断できる。

赤子の起床は遅ければ遅いほど良い。

母親の手を煩（わずら）わさないからだ。

自分で身支度のできる新星幼子（スターチャイルド）は身支度が間に合うように早く起きてほしいが、

早すぎては勝手に念動力（PK）で遊びだしたりして結局は手がかかる。

ちょうどよい時間までは寝ていてほしい。

家事のできる女の子は母のすぐ後に起きて手伝いができるのが良しとされる。

男の子は小さなうちはまだ漁支度の手伝いはさせてもらえない。

漁は命懸けだから、下手な手伝いはないほうがいい。男の子の朝は遅い。

成長してたくましくなり、電磁網（ライオネット）を結ぶ意思力と技量が得られたなら、息子の朝も早くなる。

子は親の時間に合わせて育つのが健全な成長で、

だから宇宙漁港（コスモポート）の大人は宇宙漁港（コスモポート）の子供の未来で、子は親の後を追うように年を重ねる。

火星蛸壺（マーシャンポット）漁の一家の息子は宇宙遊泳魚（アステロ・マグロ）の漁（と）り方を知る必要はない。

ただ、火星蛸壺（マーシャンポット）の洗浄法や、仕掛けるのに向いている宙域や、どれほど向いていても仕掛けてはならない他所（よそ）の共同体（コロニー）のナワバリだとか、そう言ったことを覚えればいい。

宇宙遊泳魚（アステロ・マグロ）について知っていればいいのは去年一番デカいのを釣った家が、どこの共同体（コロニー）かということくらいだ。

なぜって火星蛸壺（マーシャンポット）漁師の子供は火星蛸壺（マーシャンポット）漁師になるから。宇宙遊泳魚（アステロ・マグロ）漁師ではなく火星蛸壺（マーシャンポット）漁師に。

宇宙漁港（コスモポート）には未来がある。

自分がこれからどういう大人になるのか？

答えが目の前の光景にある。

子は親の背中を見て育つ。

宇宙漁港（コスモポート）を出るには学を付けることだと星貴族（プラネタリ・ノーブル）は言う。

だが、宇宙漁港（コスモポート）には教育機関がない。

火星蛸壺（マーシャンポット）の回収の仕方も宇宙遊泳魚（アステロ・マグロ）の解体の仕方も、親から教わればよいのだ。

朝早く船（ロケット）を出し、疲れて体を壁にバンドで止めて眠る親に、勉強を教える暇などないし、そもそも星間移民として連れられてきた労働力には学業の覚えもない。

学問などできずとも、壺底（つぼぞこ）に張り付いた火星蛸を取り出せるのなら怒られることはない。

学のつかない私は、子供に勉強を教えることができずとも、

火星蛸壺（マーシャンポット）を繋ぐ電磁網（ライオネット）を絞める結び方は教えられる。

そんな大人になるのだろう。

私はそんな宇宙漁港（コスモポート）が、嫌いだ。

それでも、目の前の親は未来の私の写し鏡だ。

私だけでなく新星世代（スターチャイルド）はみな、親に自分の未来を見る。

宇宙漁港（コスモポート）には未来がある。

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課題：【最初と最後を同じ台詞で終わらせる】小説を1時間で完成させる