バトルシーン1時間耐久訓練

今日のテーマ【バトルシーンを1時間ひたすら書いてみる】


冒険者パーティのセオリーは15人編成だとされている。

5人ずつの3分隊に分かれて、それぞれの役割を受け持つ。

モンスターとの戦闘を専門とする攻撃部隊。

ダンジョン内の鉱石や植生から資源を得る採取隊。

そして未踏破区域の地形をマッピングする先発偵察隊。


この3分隊がローテーションでダンジョンを探索する。

攻撃隊がモンスターなどの脅威を排除して安全を確保。

安全地帯で採取隊が資源を回収しダンジョン外に持ち帰り資金源とする。

先発偵察隊は確保された安全区から先を探索し、モンスターを見つけ次第引き換えし、どのようなモンスターだったか、地形など他の危険はあるかを調べて持ち帰り攻撃隊に引き継ぐ。


通常、危険を被るのは攻撃隊と先発偵察隊であり、採取隊は安全区域での活動になる。

…もちろん、ダンジョンにおいて安全が常に保障される場所などありはしない。

それは安全区域でさえも例外ではない。




採取隊の構成員は壊滅的な被害を受けていた。

5人のメンバーのうち4人が昆虫系モンスターの奇襲に合って傷を負い行動不能。

応急処置を施して今は隠れてもらっているけれど、すぐに帰還して治療しないと危険な状態だ。


定時になっても採取隊が帰還しなければ戦闘隊が救助に来る手筈だが、

今回の奇襲は採取開始から半分と時間が経たずに起こった。

このまま救助を待っていては死人が出るかもしれない。


ならば動ける私ひとりで助けを呼びにいくしかあるまい。

そう思って駆け出したものの巨大なクワガタムシを思わせるモンスターはすぐに私に気づいて追ってきた。


危険はあるが好都合だ。

自分を追っている間、少なくとも採取隊の他の仲間は安全なのだから。


戦闘職種ではないとはいえ、ダンジョンに挑むパーティの一員である。

なんとかこいつを引きつけながらダンジョンから脱出し一層前で待つ攻撃隊に助けを求める。それが今、私のすべき戦いである。


薬師ポーマスとして自分が持ち歩く薬剤をチェックする。

今回の採取では獣除けなどのポーションを多く持ち込んでいたが、昆虫系が襲ってくるのは予想外だった。先発偵察隊の報告にはなかった系統のモンスターだ。


それでもこれまでの経験から対処法を探ることはできる。

取り出したのは『月の雫』と呼ばれる解呪薬。


ルナリセージの歯に溜まった朝露を用いて、邪術士ウォーロックの呪いを祓うのに使われると伝承される薬だ。

実際には水溶性の薬効成分が重要なので朝露でなくても磨り潰した葉を水で練ればそれで呪い祓いには使える。


ルナリセージは昆虫に食い合わされないように昆虫の外殻を構成するマキチン質を溶解させる成分を表面に持つ。

『月の雫』には同様の効果は望めずともルナリセージの香りが強く出ている。

ポーション瓶をスリングショットに装填し、迫りくるクワガタの顎を狙う。


ガラスよりも固い外殻にあたりポーション瓶は割れ、中身がぶちまけられる。


反応は…単に怒りを誘発したにすぎなかった。

薬効成分は虫除け程度には働いても興奮状態のモンスターにまでは効かない。


勢いを怯ませることはできてもクワガタの顎は止まることなく私の体を刺し貫いた。



鞄を咄嗟に突き出したことで中に含まれる多数の薬剤が混ざりあう。

薬も過ぎれば毒となる。

無茶な薬剤の混合により薬精フェアリーの拒絶反応が霊障を起こす。


スリングショットで放つには調合が間に合わなかった危険な霊障調合。

それが私ごとクワガタの頭部を包む。


ドス黒い波動をまとった呪的汚染の小規模爆発。

私の中で爆発するそれを直後に治癒する『月の雫』の薬効。

これだけは一緒に巻き込むわけにはいかなかった。

だから最初に射出した。


物理的なダメージは避けられずとも、それ以上の呪波汚染は抑えられる。

至近距離での共倒れ同然の自爆攻撃にクワガタは動きを止める。

ざまあみろ。


薬師ポーマスだってやるときはやるのだ。

私は自分の脇腹の損傷を確認して辺りを見回す。

手持ちの薬剤は全てが呪波汚染で腐ってしまったが、少し歩けば帰り道での採集用に残してきたヒーリングポーションの材料がある。

そこまで辿り着けば、調合して自分を癒しながら帰ればいい。


私は止血の応急処置だけ終わらせ帰り道を進む。

少しでも早く4人を助けるために。


たとえ私が報告した後で死んでも4人を助けるために。


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