始まりと終しまいの事件簿

その指先は、まっすぐにはじめ まりの方へ向けられていた。

「あなたが、犯人ですわ」

自称『高校生探偵』であるところのおわり長女、おわりシャーロットの推理ショーが始まろうとしている。



「それでは皆様。これから、私が、華麗に、この女の罪を暴いて差し上げますわ!」

名探偵一同集めてさてといい、とでも言いたげな趣ではあるけれど。

実際のところ部屋にいるのは…


容疑者として指を突き付けられた、 はじめまり。

探偵役として指を突き付けた、おわりシャーロット。

そしてもう一人。

シャーロットの妹、おわりエマ。


この3人だけである。


何をしているかと言えば彼女たち、ミステリー研究会の少女たちの間で流行っている推理ゲームである。


まずは出題役の先輩、まりが推理小説を読む。

推理小説ならなんでもいいわけでなくいくつかの条件を満たす推理小説である必要がある。その条件に見合う推理小説が見つかるまで、まりは何本か推理小説を読むことになる。

該当する小説を見つけたらゲームが始められる。


見つけるべき小説に求められる条件は以下の3つ。


1つ目。

おわり 姉妹の双方が未読の小説であること。


2つ目。

ハウダニットであること。


3つ目。

犯人がミスを犯したか、偶然の介入によって、証拠を押さえることができた作品であること。



それぞれの条件を見ていこう。


1つ目、未読性。

これは推理ゲ―ムをフェアに行うための条件である。

「読んだことがあるから」で謎解きを進められてはたまったものじゃないし、

ましてやプレイヤーである姉妹の片方にのみ、その有利があるのでは公平性を欠く。


2つ目、方法問題。

ハウダニットはミステリーの小ジャンルのひとつで、推理すべき要素が「誰が犯人か」でなく「どうやって犯行を成し遂げたか?」という点にある。


3つ目、完全性の破綻。

ここが推理ゲームの肝であるのだが、ハウダニットもので探偵役や警察組織が犯人の手口を見破る際に「犯人のうっかり」「想定外のトラブル」などによって証拠を現場に残し、そこから方法を特定されることがある。

そう言った「完全犯罪が失敗した作品」こそがこのゲームにふさわしい。



出題役ゲームマスターまりが、二人に読んだ推理小説の事件を再現し伝える。

この時、「犯人のミス」などの失敗要素を省いて伝えるのがこのゲームのミソである。

こうして疑似的に再現された「完全犯罪」を解決に導けるか?という推理ゲームなのだ。


はじめ まりがこの奇妙なゲームを提案してから2ヶ月。

ようやく条件に合う小説を見つけたのでゲームを開始してからさらに4カ月。

実に半年も経って、ついにゲームが決着しようというのだ。


「さて…」

そう言って語りだすシャーロットの推理を卒業前に聞けたことを、まりは嬉しく思った。


始まりと終姉妹の事件簿


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テーマ「その指先は、まっすぐに始まりの方へ向けられていた。」で書き出される小説。





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