第7話 入学式
「王子ってさ、思ったよりも抜けてるんだな」
「あんた、それ王子の前で絶対言っちゃだめだからね」
「いやでもさ、あのターニャとかいうやつとの話聞いてたけどよ、王子はそういったこと直接言ってほしいっぽいぜ?」
「でも、相手は王子だし、私は気が引ける」
波乱の幕開けとなった朝の時間から数刻、新入生一行は広間へと集められていた。
新入生のほかにも、保護者や教員、先輩たちが一同に集合している分、人が密集してがやがやと落ち着きのない雰囲気が漂っている。
そんな中でユースの話をする青い髪を男女二人、この二人もユースと同じ1-Aの生徒だ。
「俺、今から王子と喋ってこようかな」
「え、ちょっと本気?私たちがそう気軽に話しかけていいわけないじゃん」
「何言ってんだよ、王子も俺たちと同じ生徒なんだぜ。それだけで十分理由になってるだろ」
「で、でも……」
「でももへったくれもあるか、はじめの一歩を踏み出せないやつにはぼっちの寂しい暮らしが待っている、そういうことで俺は行く。いやならお前はここにいろよ」
「もう待って!私も行くから!」
それから二人は人、人、人、数えきれないほど人の間をすり抜けていきようやくユースを見つけた。
「ここにいる連中はお前みたいな考えの奴が多いんだろうな」
「それが普通ってことよ」
人が密集しているこの広間で、ユースの周りだけ、無人の空間ができていた。
ユース自身できれば皆と気兼ねなく友達のように接したいと思っているがそうもいかないのが現実。
無礼を働いてしまうことを恐れ近づこうとするものは誰もいない、それこそこの無人空間こそが皆との心の距離を顕著に再現している。
王子だから仕方ない。いつもそう言って割り切っているが寂しいものは寂しい。
「貴様、嫌われているのか?」
「そうじゃないと思うんだけど、もしかしたらそうなのかもしれない」
騎士学校にいるのは大半が平民、王族とは天と地ほどの差がある。その広すぎる差のせいだと思うが、現実を見てみれば嫌われているのと何ら変わらないかもしれない。
はあ、とため息をついていると、周りがざわざわとどよめきだした。
「いったい何……」
確認のために周囲を見回していると、いつの間にか横にいた青い髪の少年とバチっと目が合った。その少年の後ろには少年と同じ髪色の少女が隠れるようについていた。
「君達は?」
「初めまして王子、俺の名前はトーロ・ミツクラウと言います。で、後ろにいるのが従妹のイーロ・ミツクラウです。俺たち王子と同じ1-A組なんですよ」
「ミツクラウって、あの騎士家系の?」
「はいそうです!王子に知っててもらえてるなんて光栄っす!」
「いやいや、僕の方こそ有名な騎士家系の君たちとこれから同じ学び舎で学んでいけるなんて誇りだよ」
ミツクラウ家とは代々優秀な騎士を輩出している上位貴族でノライトートス王国直属の騎士団にもたくさんのものが在籍している。
剣技における技量だけでなく補助魔法も得意としていて戦闘では超人的な身体能力を発揮する。
「それはそうと王子、見た感じ一人っぽかったですけど、実は寂しかったんじゃないですか?」
「あはは、実はそうなんだ。ここに来てから色んな人に話しかけようとしたけどターニャ君以外には避けられて、そのターニャ君もどっか行って、自分じゃどうしたらいいのか分からなくて」
「王子って案外__」
「__ふ、普通ですね」
それまで後ろに隠れていたイーロがトーロの言葉を遮るとそう言った。
「普通、そうかな?今までそんなこと言われたことないけど」
「い、いえあの!王子ってもっとお堅い人なのかと思っていて私たちともこんな風に砕けた話をしてくださるとは思っていなくてですね」
「お前もっと落ち着いて話せよ」
ユースは笑顔で話しかけ、イーロは慌てて早口になり、トーロはそれを指摘する。
寂しかったユースの心の壁も二人のおかげで気にすることはなかった。
それからも三人は他愛無い話を続けていると。
「これよりノライトートス騎士学校、入学式を始めます」
アナウンスされたその一言で喧騒としていた空気が静まり返る。
「はじめに本校の生徒会長による挨拶です」
広場でひと際注目を集める場所、皆が見やすいように足場を高く設置されたステージに一人の青年が上がっていく。
「どうも新入生の皆さん、入学おめでとう。私がお言葉を預かった生徒会長のハイベル・ミツクラウだ。覚えてもらえると嬉しい___」
着々と進められていく生徒会長の話は拍手とともに終わった。この学校の生徒会長なのだから年は十七、八くらいにもかかわらず堂々としたその態度は挨拶というよりもまるで演説を聞いているようだった。
「なんかすごかったね。さすが生徒会長って感じがした」
「そうでしょう、あの人は俺の自慢の兄ですから!」
「あ、やっぱりそうなんだ。ミツクラウって言ってたからそうなんじゃないかと思った」
トーロは自慢げで何より誇らしげだった。彼の顔を見れば彼がどれだけ素晴らしい人間なのか窺える。
その後も入学式は進んでいき、
「続きまして、新入生代表挨拶」
新入生代表挨拶まで来た。
「あ、僕の番だ」
「あ、やっぱ王子だったんですね」
「がんばってください」
新入生代表挨拶は入学試験主席の生徒に与えられる特権。毎年選ばれた生徒は注目され今後の成長を大きく期待される。
「よければ二人とも、近くで僕のこと見ててくれないかな?知らない人たちの前で話すより、知ってる人が近くにいてくれるだけできっと心強いから」
「いいっすよ!王子の頼みとあらば!」
「私も同意見です」
「ありがとう、二人とも。それじゃあ行こうか」
ユースたちはステージの方へと向かった。
三人が通る場所には自然と道ができ、まるで王の凱旋のようですらある。
ステージの手前まで来ると、ミツクラウの二人は頑張ってくださいと王子に一言かけると王子は少し泣きそうになり、「ありがとう」、そう言って壇上に上がった。
「王子ってさ、いい人だしイケメンだよね」
「何だ?惚れたのか?」
「ば、ばか!そうじゃない!」
顔を真っ赤にして怒るイーロはトーロを小突く。
「王子ってもっとお堅い人だと思ってた」
「話しかけて正解だっただろ?」
「癪だけど」
「そこはその通りだね、でいいだろ。相変わらず可愛げのない奴」
眉を顰めるイーロは胸の奥で苛立ちを感じた。
「…やっぱ王子イケメンだな。トーロの百倍くらい」
「おま、百倍は言いすぎだろ!せめて五十倍くらいにしとけ」
「……五十倍もなかなかだと思うけど」
拍子抜けしたイーロはこんな奴に苛立つなんて馬鹿馬鹿しいと思った。
二人がそんな会話をしているとは露知らず、ユースは代表演説を進めていき、無事終了させた。
緊張した、と笑顔を浮かべながら戻ってくるユースに二人はお疲れ様と言った。
ユースは涙を流しそうになるのを堪え、ありがとうと一言、その言葉を契機に入学式は終了した。
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