第6話 失言に失言
教室の中は思いのほか静か、互いに知らない者同士が多いからか壁を感じているのだろう。
指定されている場所へと移動し座る。
既にほとんどの席が埋まっていて、どうやらユースは遅めの登場だったようだ。
___まずは始めが肝心だよね。
ユースは意を決した。
これから学園生活を充実させていくうえで必要なのは友達、スタートで躓いたら波に乗り遅れて独りぼっち、そんなのは絶対嫌だ。
左隣の席はまだ空いているようなので、右隣の人。
「やあ、僕ユースフォン・ノライトートスって言うんだけど知ってるかな?」
「……チッ、知ってるに決まってるでしょ」
右隣の少年は少し驚いた表情をした後、舌を鳴らした。
ユースは同い年の人と話すことは滅多にない、有ったとしても王子としての立場的なものであってこういう世間話なんかはやり方を知らない。そのためにどうしてもぎこちなさが出てしまう。
「そ、そうだよね!知ってるよね!あ、あはは」
「知らないほうがおかしいですよ。あれでしょ?堕ちた期待、でしょ?」
「……え?」
赤い髪の少年、右隣の少年の赤い瞳がユースの両眼を射抜く。
「歴代最速で魔力に目覚めながらも魔法を使うことができない、民に期待させておきながらその期待を裏切った王子様、でしょ?」
まさかの返答に、硬直するユース。
「何も言い返さないんですか?それとも本当のことすぎて言い返せないんですか?全く羨ましいですよそんな才能持っていながら……」
少年の言葉が止まる。王子に対する不敬、それを承知にうえで語ったであろう少年の言葉が止まったのは、ユースのせいだ。
しかしユースは憤るわけでもなく落ち込むわけでもなく、泣いていた。
「ありがとうぉ」
しかもその涙の理由は嬉しかったから。
侮辱する発言を嬉々とした感情で受け止めるユースに少年は驚きを通り越して若干引いていた。
「みんな陰でこそこそ言っててね、直接言ってくれたのは君が初めてだよ、改めてお礼を言うよ、ありがとぉ」
母から受け継いだ端正な顔を涙でぐちゃぐちゃに崩しながら感謝の気持ちを伝える。
「よかったらこの機会に僕と友達になってくれないかな?」
「この機会ってどんな機会ですか……」
真っ直ぐ向けられる瞳に少年は、
「はぁ、好きにしてください」
渋々了承した。
「やったありがとう!僕の名前はユースフォン・ノライトートス。一応この国で王子をしているんだ。これからよろしくね!」
「だから知ってますって、俺の名前はターニャ・レグ。あなたが王子だろうと俺は言いたいこと言いますからね。友達ならなおのことです」
「ありがとう。むしろそっちの方がいいよ」
はぁ、と短くため息をこぼすターニャとは裏腹にユースは満面の笑み。
一風変わった友達の作り方が行われている中、教室の入り口が開かれた。
紫紺の髪と瞳をした綺麗な女性、かつかつとヒールの音を鳴らしながら入ってくると教壇の前に立った。
「皆さん時間内の集合、とても素晴らしいです。先生は感動のあまり泣きそうです」
そう言いながら先生と名乗る女性は笑った。
「突然現れたこの綺麗なお姉さん、一体何者?そう思っている人がほとんどだと思います。その疑問にこたえるべく。まずは私の紹介から始めましょう」
彼女は黒板にでかでかと文字を書いた。
「私の名前はレムート。この1-Aを担当しますピチピチの二十代です。レムート先生でもお姉さんでも気軽に呼んでくださいね」
___何がピチピチのだ。実年齢言わない時点で年齢気にしてるのバレバレだっつーの。
きゃぴきゃぴした雰囲気で楽しそうに自分を紹介するレムート、彼女の紹介を受けて、隣でターニャがそう呟いた。
すると、瞬間移動でしたかのごとくレムートはターニャの前へと現れた。
「君は確かターニャ君でしたよね?ご入学おめでとうございます。それで、さっき私のことなんか言いましたか?」
レムートは笑顔で話しかける。しかしその笑顔には異様なまでの威圧感が備わっていて、
「あ、とてもお若いなと」
王子にすら皮肉を言ってくるターニャすらも怖気付かせてしまった。
よろしいと一言言うと、物騒なオーラは引っ込み今度は隣の席のユースと視線が合った。
「あ、王子様じゃないですか!どうでしたか?先ほどの私の自己紹介、ぜひ王子様から直接ご講評していただきたいです!」
「講評なんてお恥ずかしい。ですが、先生の頼みならば仕方ありませんね」
「ありがとうございます王子!」
コホンと喉を鳴らす。
「最初から最後に至るまでとても楽しく聞かせていただきました。それも先生の明るい口調あってのことだともいます」
「うんうん」
「しかし、そんな口調とは裏腹に動きの一つ一つに至るまで気品に満ち溢れた上品な方なんだと思いました」
「うんうん」
「ほんと、二十代とは思えない、三十代と言われても通用しますよ!」
「うんう……」
幻聴かもしれない。しかしこの場にいるユース以外の全員がピシ、という空気が一瞬で凍り付く音が聞こえた。
「ちょ、ちょっと王子、今の発言はちょっと」
「え?何かおかしかった?僕的には満足してるけど」
空気に耐えきれなくなったターニャがユースに話しかけるが、空かさず追い打ちをかけるように再びピシ、と空気が凍った。
「ターニャ君、今の発言はちょっと、何ですか?」
「あっれ?も、もしかして今、矛先は僕ですか?」
「矛先?何のことですか?先生には皆目見当もつきません。まあ、王子が、王子でなく学校の生徒でもなかったらこちらもどうなっていたか皆目見当もつきませんけどね?」
「だからせめて王子ではない僕に八つ当たりを?」
「八つ当たり?何のことやら。先生はただ単に王子に怒りをぶつけるんが怖いので、代わりにあなたにぶつけてるだけですよ?」
「それを八つ当たりというんです!」
ターニャがそんなとばっちりを受けている間、ユースはルシウスと話していた。
「こ、これはどういうことでしょうか?」
「まあ、あれだな。この女は年齢を気にしているのにそこにお前が三十代だなんて言うからこうなったんだろうな」
「それじゃあ僕が悪いみたいじゃないですか」
「いや、お前が悪いだろ」
「とにかくさっきの言葉を訂正すればいいんですね。要は先生は年齢を気にしているから若く言えばいいと」
「まあそういうことだな」
自分で引き起こしたことならば自分で落とし前をつけなければ、よし!と心の中で自身を奮い立たせる。
「先生!」
「な、何でしょうか?王子」
絶賛八つ当たり中のレムートは予想以上の大きな呼びかけにびっくりする。
そこにユースは一言。
「さっきの言葉、訂正します。先生はとても若いです!そう、その若さは赤子と言っても通用するほどです!」
その瞬間、教室から音が消えた。それと同時に、皆の心は同じことを言っていた。
___それは言いすぎでしょ。
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