私先生に恋をしています~ただそれだけで幸せなのです。

東雲三日月

第1話 先生が好きです

──先生のことが好きになるなんて思ってもいなかった。


 ──叶わない恋。


 ──禁断の恋。


「おはよう!」


 学校の門のところに何時も立っているのは、風紀指導の茂泉遼 もいずみりょう先生だ。


「茂泉先生おはようございます」


 軽く頭を下げにこやかに挨拶をし終えると、先生の目の前をそそくさと通り抜けようとした途端、またもや呼び止められてしまったのである。


「おいゴラァ、矢島未来 やじまみくストップだ。スカート丈ギリギリセーフ、ん!? 髪の色はどーした? これじゃアウトだ、アウト。まだ黒髪に戻してないんだな」


「あの、茂泉先生、この髪の毛の色は地毛なんです? だから色が赤いんですけど」


「そんなことある訳ないだろ! とりあえず職員室に後で来なさい」


「……」


「ほら、矢島未来返事はどーした?」


「……はい」


 よし、ならHRの後できちんと来るように。先生待ってるからな!


 ☆


「今日もご苦労様です! 茂泉先生」


 そう言って職員室の自席に着くと、わざわざお茶を持ってきてくれたのは、まだ新人の道元小百合 どうげんさゆり先生だった。


「わざわざ済まないね! いただきます。お茶どうもありがとう」


 何故か今年から風紀指導に回されてしまったのだから仕方なくやっているが、出来ればこんな役回りはやりたくないという思いしか無い。


 ……が、他にやってくれる先生がいる訳では無いので、とりあえず、今まで通りやって来たことをこなす作業を毎日つづけている。


 それは、毎朝門のところに立ち生徒達への挨拶の呼びかけと身だしなみチェックの取り締まりだった。


 お陰で、生徒からはかなりの嫌われ者だ! なりたくてなった訳でもないのに、生徒からの扱いが変わり、酷く憎まれている事だろう。


 それにしても、毎朝門のところでチェックをしているというのに、生徒は全く成長する気が無いのだろうか? 大抵同じ人が同じことを繰り返しているのだから、よく分からない。


 お陰で、今日もまたやらかしている生徒達数名を指導することとなってしまった。この作業はとても面倒臭い! 職員室に来させた生徒に反省文を書かせなくては行けないからだ。しかも原稿用紙三枚分きっちりである。


 その後、指導したことを事細かに保護者に説明をしなくてはいけない。反省文を書かせる意味もよく分からないが、誰一人として反対をする先生はいない為、とりあえず今までずっと続けてきた風習を壊すことは出来ない。仕方なしに今日もこの作業的仕事をこなすしか無かった。


 ☆


 ──コンコン


「し、失礼します……茂泉先生に来るように言われてきました。矢島未来です」


「こっちこっち……で、この髪色は地毛なんだって……?」


「……そうですが!?」


「でもな、なんにも書類の提出が無いんだ! それに前の風紀指導だった先生に何回も指導されてる……どういうことなんだろうね?」


「私に聞かれても分かりません。困ります」


「残念だけど、規則だから今回も反省文書いてもらうよ? 良いね?」


「はい……わかりました」


「それじゃぁ、指導室まで一緒に行くから着いてきて……」


 何故この髪色に対して問題があるのかイマイチ理解できない! 出来るわけがなかった。


 最初の入学当初、髪色問題についてはきちんと説明し、書類の提出だってしている。どうしてそれが消えてしまっているのだろうか?


「はぁーダルいし眠い!」


「……ん? 何か言ったか?」


「別に何も……」


「そうか、なら四時間目の授業が終わるまでは反省文に取り組むように! また後で来るからな」


 そういうと、先生は教室を出ていなくなってしまった。


「はぁーやっぱりダルいわぁ! 先生いつ来るのかな? とりあえず寝てよう」


 原稿用紙と向き合っても、私は何も悪いことをしていないのだから書くこと何て思い付かないので、さっさと寝てしまった。


「……矢島未来」


「……」


「……矢島未来起きなさい!」


「……はっ、はい……す、すみません」


 目の前には茂泉先生がいる。ということは四時限目が終了なのかもしれない。とりあえず教室の時計を確認しようとしてみたが見当たらない。どうやらこの空き教室には設置されていないようだ。


「今丁度四時限目がは始まったところだ! 先生はな、今までずっと職員室でお前の書類探しをして来たんだそ。そしてやっと見つけてきた」


「良かった! やっぱりあったんですね。私の書類……」


「何故か隠すかのように、鍵付き扉の中にあったんだけど……他の先生から嫌われてるのか?」


「えっ……!?」


 何かしたのだろうか? 私自身何かやらかした記憶なんて無いのだからさっぱりわからない。


「そんなこと私何かに聞かれても良く分かりません!」


「そうだな! とりあえず、書類見つけたから、反省文書かなくて良いぞ! まぁ、寝ててなんもしてはなかったみたいだけどな」


「えへへ……すみません」


 とりあえず、四時限目まではここに居るように言われたので、教室にはいかないで自主勉を開始することにした。


 茂泉先生はまた戻ろうとしていたのだけど、数学をやり始めた私を見て、教えてあげると言って側にいてくれた。


「あの、茂泉先生……」


「ん、どうした? 何処が分からないんだ?」


「あの、いえ……顔が近いです!」


「おお、それはごめん。ついうっかりしていた。許してくれ」


「はい……えへへ」


 茂泉先生はヤクザとはいかないまでも、何時も誰かしら注意している存在なので怖く感じていたのに、書類を探してくれたり、真剣に勉強を教えてくれたり、とても優しい先生何だと知る。


 やばい、私恋に落ちてるかもしれない。茂泉先生とは過ごしたこのほんのわずかな時間で……。


 そもそも、茂泉先生の担当する教科は数学であるものの、私のクラスは担当では無い為教えてもらうのは今回がは初めてだった。


「 あの、また茂泉先生に数学教えて貰いたいんですけど……」


「勉強なら幾らでも教えてあげよるよ! でもな、当分出張が入ってしまったんで暫く教えてやれないんよなぁ! あぁそうだ、これ先生のLINEの番号何だけど、分からないことがあったらここにメールしなさい」


「……はい! ありがとうございます」


 まさか先生のLINEを教えて貰えると思っていなかったから嬉しくて仕方ない。


 こうして、先生とのLINEのやり取りが始まった。と言っても、やり取りの内容は基本分からない箇所を教えて貰うと言った感じだった。


 学校では門のところで会うと私より先にわざわざ名前を呼んで挨拶をしてくれるようになり、先生のことを意識しているからなのか、廊下ですれ違う時は必ず目が合うようになった。


 そんなある日、親友の増永直美が ますながなおみが茂泉先生の話をしてきた。


「茂泉先生何だけど、道元小百合先生と付き合ってる感じがするんだけど? 違うかな?」


「いきなりどうしたの? 怪しい行動でも見たわけ……二人で話してるとこ私は見たことないよ!」


「 うん、それが、私の知り合いの三年の先輩から聞いた話なんだけど、最近二人で一緒に帰ってるみたいなんだよね」


「へぇー、でもたまたまなんじゃないの?」


「でもね、この間休日に二人で一緒にいる所目撃しちゃったんだよね」


 直美の話を聞いて、本当に小百合先生が茂泉先生の彼女だったらどうしようかと考えたらソワソワしてくる。


 小百合先生は私のクラスの数学を担当しているから、同じ数学担当の茂泉先生とは色々接点があるのだろう。


 その日から、茂泉先生と、小百合先生のことが気になって仕方が無かった。だって未来は茂泉先生に恋しているんだから……。


 だからと言って生徒の目もあるからだろうか? 学校内で二人が話しているところを目撃することは無かった。


「さっき茂泉先生と小百合先生が一緒に学校を出てったよ! 茂泉先生の車で何処か行くみたいだね」


 昼休みになり、直美が教えてくれた。


「うそ」


「嘘じゃないよ、さっきこの目で見たんだから」


「普段怒ってばかりいる茂泉先生の何処が良いんだろうね? あの先生何か嫌い」


「そんなことない! 茂泉先生は怒ってばかりいないんだから」


 バンっと机を両手で叩きながら直美が茂泉先生を否定しているのを見て、思わず声に力が入ってしまった。


「ちょっと……どうしたのよ未来?」


「ん……ごめん」


「まぁ、普段怒ってばかりいるところしか見てないからだよね。もしかすると茂泉先生は案外優しい先生なのかもしれないしね」


「……うん」


「……っていうか、未来もしかして茂泉先生のこと好きなんじゃないの?」


「えへへ……」


「やっぱりね。そりゃ嫉妬するわよね! 彼女かどうか今度聞いてあげようか?」


「えっと……」


「気にしないで! 聞けたら聞いて見るだけだよ。無理には聞かないから……」


「うん……ありがとう」


 暫くの間、モヤモヤした日々を過ごしながらも、茂泉先生とはLINEを続けていた。


 小百合先生のことは聞けなかったけど、モヤモヤしながらも、幸せを感じられていたのは、毎日のように勉強を教えて貰っいるからだろう。


 LINEをしているわずかな時間が恋しかった。


「今度休みの日も勉強教えてあげられそうだから家に来るか?」


 ある日、誰もいない廊下ですれ違った時、茂泉先生に誘われた。


「はい……勉強教えてください!」


 好意を寄せている相手から誘われたのだ! 未来には断る理由なんて何も無かった。


「悪いけど、他の生徒には内緒だからな」


「……分かりました」


 休日、好きだという気持ちを抑えたまま、最寄り駅から一駅先の待ち合わせの場所である喫茶店に行くと、茂泉先生がコーヒーを奢ってくれた。


 その後、先生が一人暮らしをしているアパートにドキドキしながら連れて行って貰うと、家で勉強を教えて貰う。


 ──その時だった。


 チャイムが鳴り、茂泉先生の自宅に来たのは小百合先生だった。


「あら、学校の生徒さんじゃない! 貴方は未来さんね! こんにちは」


「こんにちは……えへへ」


 茂泉先生が小百合先生を中に入れる。私だけ何だか気まづい雰囲気が漂う!


 この場所に居たくない気持ちでいっぱいになり、帰りたくて仕方が無くなる。


「あの、私帰ります……」


「あらヤダ、私のせいかしら?」


 小百合先生は、私を見つめると笑顔で微笑みながらそう言った。


「茂泉先生、まだあの子は未成年なんですから、休みの日に自宅で教えるのはどうかと思いますよ!」


「嫌……ただ勉強教えてるだけだから…」


 なんだろう……とても気まづい!


「良い? 茂泉先生、今度同じことしたら、教頭……いいえ、校長に話しますから。嫌味を言われるくらいじゃ済みませんからね」


「わかってますよ、そんなこと。僕だって教師なんですから……今日は約束してませんよね。 帰って下さい」


 そういうと、茂泉先生は小百合先生を追い出してしまった。


「……嫌な思いをさせたみたいでごめん」


「いえ……別に……でも大丈夫なんですか!?」


 茂泉先生は真剣な眼差しで見つめながら、 「心配要らないよ! 大丈夫」と言って頭をポンと叩くと撫でてくれた。


「あの、それなら、またこれからも休みの日に茂泉先生の家に来ても良いですか!?」


「勿論! また来て良いよ」


 小百合先生ことは結局なんだったのか聞けなかったけど、また休みの日に先生の家で勉強教えて貰う約束をする。


 こうして、春から夏になり、秋が来て冬が来たけど、毎週先生の家に勉強を教えて貰いに行くのは続いた。


 親は厳しく、何処へ行くのかきちんと伝えないと外出を許しては貰えない家だったけど、「友達の家で勉強をする」「学校で勉強教えて貰う」等、とりあえず勉強だと伝えると他に何も追求することなくすんなりと外出が許されていたこともあるのだろう。


 親から怪しまれることは一度も無かった。


 親友の直美は、ずっと気にかけてくれていて、茂泉先生に小百合先生のことを聞いてくれようとしていたのだけどそれを断る。


「未来ごめん、茂泉先生が一人でいる時に遭遇しないから聞くチャンス中々が無くてね……小百合先生に聞いてみようかな?」


「えへへ……ありがとう。でもね、もういいよ! 大丈夫」


 直美には、週末休みになると茂泉先生の家で勉強を教えて貰いに行ってることを伝えた。


「うっそー! それって何かあげぽよじゃん。早く告白すればいいのに」


「えへへ……でも、まだ学生だから」


「何気を使ってんのよ! 茂泉先生は自宅家に未来のこと連れてってるんだよ! 普通そんなことしないから」


「まぁ、そうだよね。えへへ」


 でも、やっぱり生徒と先生の関係だから告白はしずらい。


 告白することで今までのように勉強を教えて貰えなくなるかもしれないし、気まづい関係になるかもしれない。ましてや先生に迷惑を掛けることになるかもしれない。そんなことが頭に過ぎる。


 未来は告白はせずに先生の思いを胸に仕舞いながら、勉強を教えて貰う関係を続けることに。


 小百合先生はその後一度も茂泉先生の家に来ることは無く、遭遇することはなかったので、未来はすっかり小百合先生のことは忘れかけていた。


 二年生の二学期が終わりを迎えた頃だった。未来は風邪を引いてしまい、茂泉先生の家に行くことが出来なくなる。


 そのまま、学校にも行けなくなり修了式を迎えた。


 その時、 LINEに心配していると茂泉先生から連絡があり、初詣に一緒に行かないかと誘って貰う。


 一月一日、親には親友の直美と勉強すると嘘をついてドキドキしながら茂泉先生に会いに行った。


 二人で行く初詣! 行列に並んでる間は、学校のことや家のこと、色々なことを話して時間を過ごす。


 順番が来て、財布からお賽銭を投げた後、二人で一緒に鈴を鳴らした。


「右手を出して」


 突然茂泉先生にそう言われて、先生の右隣にいる未来は右手を出すと、その手に先生の左手を合わせて来た。


「これでお参りするよ!」


 茂泉先生の方を向くと先生がそういった。そして、重なった先生の手の温もりを感じてドキドキしながら、初詣のお参りをする。


 その日、神社を後にすると、今度は茂泉先生の自宅に向かった。


「渡したい物があるんだよ手を開い手出してごらん!」


 言われた通りに開いた手を差し出すと、先生が握りしめた手を上に乗せそっと開いた。


 未来の手の平には指輪がある。


「未来のことが好きなんだ。まだ、後一年あるけど、卒業したら付き合ってくれないか」


 戸惑う未来に、茂泉先生が言ってきた。


「はい喜んで。私もずっと茂泉先生のこと好きだったんですよ! 好きなのに中々伝えられなかったからずっと苦しかったんです。其れなら教えて下さい。小百合先生との関係って本当に何も無いんですか?」


「無いよ! 本当に何にもね。小百合先生は僕の従兄弟なんだよ。両親が離婚して苗字は変わったけどね! この前未来がいる時に小百合が家に来た時は驚愕させたけど、僕達のことは何も伝えていない! まだ内緒にしてある」


「従兄弟だったんですね。何も無くて良かったです……えへへ」


 こうして、未来は茂泉先生と付き合うことになった。それも誰にも内緒で……。


 だから、まだ親友の直美にも報告はしていない。茂泉先生に恋をしている。そのことだけで日々とても幸せだったのに、まさかこんな関係になれるなんて思ってもみなかった。


「これからも今迄通り休みの日に勉強教えるからな! 覚悟しとけよ」


「はい……これからも勉強教えて下さいね……えへへ」


 これからも、この秘密の関係が壊れないようにもう一年静かに過ごすことにします。親友の直美に報告出来るその日まででも…。


「茂泉先生……」


「ん!?」


 振り返った瞬間、そっと唇に触れて優しくキスをした。


「これくらいしてもいいですよね……えへへ」


「そうだな! でも此処でだけだぞ」


 ✩


 ……神様、この秘密の恋が何時までも続きますように。


 未来は帰り道、家の近くにある神社で手を合わせると、一人きりでもう一度お参りしてから帰宅した。




































































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