8. 歩みは止められない
<もう一人の僕――君は何をしたいんだい?>
<わかってるだろ?お前も僕なんだ。この衝動は止められないことくらいわかってるだろ>
<世界を……世界を壊してなんになるんだよ>
<お前こそ、リャナを失った時は心が粉々になっただろ?僕はリャナが死ななくてはいけなかった世界を壊すだけだ。お前もそれを望んでるはずだ>
<そんなこと……リャナが望んでると思うの?>
<大丈夫だよ。リャナは隣で笑ってくれている。今は仲間として行動を共にしているけど、世界を破壊し尽くして真に自由な世界を手にいれたら、リャナと一緒になるさ>
<お前は……どこまで自分勝手なんだよ!リャナは死んだ。お前の隣にいるのは……メイヴだろ。確かに僕も世界を憎んだよ……。だけど、彼女の死を口実にお前がやってることは、ただの八つ当たりなんだ。僕はお前を止めないといけない>
<もう消えかかっているお前には無理だよ。じゃあね――>
もう一人の自分との対話から目が覚めた――
昔は頻繁に顔を出していたが、最近は存在が消えかかってきているせいか、ごくたまにしか顔を見せなくなった。
現実をまるで理解していない自分の姿に何度殺意が沸いたことか。残念ながら自らの手で消せないのが腹立たしい。
だけど、それも残り僅かの辛抱だ。
『僕』はもうすぐ消えるから――
「マルスったら」
「……ん?あぁ……ごめんね。気がつかなかったよ」
「あなたが熟睡するなんて珍しいわね」
「……そういわれるとそうかもね。だけど、休むわけにはいかないんだ」
「そう……無理はしないでね。あと、シャンドラの件だけど……クロだったわ」
「そうか――ならしょうがないね。奴は処分しよう」
カーマダートゥは、街全体から犯罪組織を一掃され、風俗店を認可制にしたことで顧客に対する犯罪率が激減し、店舗に対する信用度の向上にも繋がった。
その結果街全体の売り上げ上昇に繋がったのだ。
税金の徴収の際も、認可制が一役買った。
奴隷貿易では、三角貿易を採用し、香辛料や砂糖などの高価な品を積んだ船が、次の拠点で奴隷を積み込み、そこで運んできた商品を売り捌き、新たに品物を購入する。
それらをポルポトまで輸送をすることで輸送コストを大幅に下げ、奴隷の維持費も最低限で済むような仕組みを完成させた。
この航路を開拓したことにより、ポルポトの貿易収支は前年度を大きく上回り、その功績を称えられ正式にマルスは国の中枢へと潜り込むことが出来た。
ここまではマルスの予定通りだったのだが、ここで唯一の誤算が生じた――シャンドラの裏切りだ。
二年前から
そしてバレないことを良いことに、無断でオークションを開催し、マルスが許していなかった犯罪奴隷以外の、子供や女性を競売にかけていたのだ。
それだけでも粛清を与えるには充分だったが、加えて国外の犯罪組織へと革命軍の情報を携え逃亡を図ろうとしていたところをメイヴが突き止め、その報告を受けたマルスは静かに失望と怒りを滲ませた。
裏切り者を処分したマルスは、その足でポルポト国中央議会へと赴いた。
その日はマルスの計画にとって最大の山場であった。国の重鎮達が顔を揃える数少ない
今日生きて帰ってこれたなら、彼の計画は新たな段階へと進むだろう――
宿願への新たな一歩を、マルスは踏み出そうとしていた。
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