番外編
部活動を始めてみた 前編
アリスが王都に出発して、一ヶ月ほど経ったある日。 いつものメンバーが机を囲んで何やら話をしていた。
「アリスがいないと、やっぱ寂しいですわね……」
「うん……私もアリスがいないと気が抜けるよ」
「別にア、アリスがいないからって、俺はなんともないぜ!」
「ダリル。告白すら出来なかったのは、何処のどなたでしたっけ?」
「ちょ、お前!こんなとこでバラすなよ!」
「あなた……まさか隠し通せるとでも思っていまして?」
「ダリル君……。残念だけど、みんな知ってる事だよ」
「えっ!?だからか!みんな俺を見てニヤニヤしてるのはっ」
「気付くのが遅すぎますわ。ねぇルーシー」
「うん。そうだね、エレーナちゃん」
「くそっ……恥ずかしすぎて死ねる……」
アリスが学園を去ってからも日常は続き、彼女と心通わせた生徒たちは、台風が去ったあとのように何も起こらないつまらない毎日に、物足りなさを感じながら過ごしていた。
ダリルの<告白未遂事件>なんて、その退屈をまぎらわす格好の餌食となり、ほんの少し前まではガキ大将のポジションに君臨していたはずのダリルが、今では女子二人の前で、机に突っ伏しては羞恥心に悶えている。
でも、それだけでは退屈な気持ちをまぎらわすには足りなかった。
アリスが転校してきた当初は、貴族である自分達になんの臆面もなく突っかかってくるあの振るまいに、イライラさせられたクラスメイト達だったが、そのうち慣れてくると身分関係なく付き合おうとするアリスの姿勢に、皆、好感を感じていた。
良くも悪くも、貴族というしがらみの中でしかものを知らなかった自分達が、いかに無知だったのかを思い知らされ、アリスがいなくなると、再び何も出来ない人間に戻ってしまったような、そんな脱力感を感じていたのだ。
以前から、アリスのように困っている人を助けたいとルーシーは熱く語っていた――ダリルとエレーナもそんな熱意に押されて、人助けをしようと決めたのだが――
「いい加減よ。こうやって待ってるだけじゃどうしようもなくねぇか?」
ダリルの疑問は的を得ていた。いくら教室で待とうが、誰かが自分達のもとに訪れることもなく、三人で世間話をしているだけのなにも変わらない放課後であった。
「ですわね。よくよく考えてみますと、この学園内で問題などそうそう起きませんわよね」
エレーナの指摘もまさにその通りで、一応は由緒正しい家系の子弟が通う学校なので、一部のヤンチャな生徒を除けば、好き好んで問題を起こす生徒もそういやしない環境だった。
そこで、ルーシーは考えてきた案を話始めた。
「私、考えたんだけどね。このメンバーで部活を結成するってどうかな?そしたら学園にも公式に認めてもらえる上に、皆に知ってもらいやすいと思うんだけど」
「なるほど……確かに私達の個人的な活動では、たかが知れていますものね。ダリル、貴方はどう思いますか?」
「……それはいいかもな。認めてもらえりゃ、この退屈な生活ともおさらばだ!」
一人で盛り上がるダリルはさておき、ルーシーの顔には暗い影がおちた。
「どうしたのかしら?」
「実はね……部活動を認めてもらうには、あともう一人必要なの」
「なにっ!足りねぇじゃねぇか」
「そうなんですよ……それに、私達って、友達少ないじゃないですか」
「「うぐっ」」
「自分から話しかけるのも苦手じゃないですか」
「「ひぎっ」」
「アリスがいないと素直になれないじゃないですか」
「「ぐはっ!」」
「つまりは……あれ?どうしたんですか?」
「私は、ルーシーならいけると思いますわよ……」
「……ああ。正直一番怖いやつは身近にいたんだって思い知らされたわ」
「??」
とぼけた顔で首を傾げるルーシーが、一番恐ろしいと二人は後に語っていた。
部活動の申請をするためには残り一人足りないので、三人は掲示板に参加者募集のチラシを貼り始めるところからスタートすることにした。
【誰かを助けたいと思っているそこの君!いざ集え!】
部活名 :ランスター騎士団
活動内容:困っている人達を助ける
募集定員:一名(複数希望者が集まった場合は面接)
ポスターを貼ってて、ランスター騎士団というネーミングセンスの無さと、本当に希望者が来るものかと疑問を感じたが、三人は自分達で始めて行動に移しただけで、ひとまず満足した。
それから数日経ったが、待てど暮らせど、参加希望者が訪れる気配がない。自分達の存在を知らしめれば、少なくとも十名は希望者が訪れると予想していたのだが、ふたを開けてみればただの一人も訪れなかった。
この事態に、再び机を囲んでの緊急会議を開催する。
「このままですと、いつまでたっても活動の申請は出来ませんよ?」
「ならよ、いっそのこと自分達で勝手に、」
「勝手にしたところで認知度がないから困ってるのではありませんか。少しは頭使いなさいな」
「ああ?なんだって?」
会議が険悪な雰囲気に突入していたその時、教室の扉が小さな音を立てて開かれた。
「あの……ここで部活動の募集をしていると聞いたんですが……」
申し訳なさそうに入ってきた子は、両目が隠れるほど前髪が長い女の子だった。
「なんですって!参加希望者ですの!?」
「ひっ……」
まるで獲物を待ち構えていたとでもいうように、ガタンと椅子を鳴らせてエレーナは立ち上がった。いつものおしとやかさは微塵も感じられない。
「驚かせてごめんね。私はルーシー。こちらはエレーナで、こっちはダリル」
「俺だけ雑じゃね?」
「あの……私は……クロエです……」
念願の部員第一号は、ちょっと大人しい女の子だった。
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