4.友の為に
村長から村の話を聞いた。あのガラハドが、率先して勉強をしているらしい。
なんでもアルバ村を活気に満ちた村にすると公言したみたい。グリフもカイも一緒になって勉強しているって言うから、世の中何が起こるかわからないものね。
改めて自分の考えがいかに愚かだったか、村長の言葉で思い知らされたわ。情けないったりゃありゃしない。
ちなみにマルスは元気でやっているらしい。行商人の弟子として仕事を叩き込まれているようだけど、私より先にちゃんと働いてて尊敬するよ。
あーマルスに会いたいなー。
「嬢ちゃん。そろそろ学校に行く時間じゃないのかい?」
おっと、弟に会いたいモードになってた。ホームシックは切り替えないと。
「それじゃあ行ってきます!」
私が学園都市に来たときよりも、少しは季節が進んだのか、朝の空気がひんやりと心地よくなっている。
これから毎日この通学路を歩いていくのかと思うと、朝から気分が高揚してしょうがなかった。
そのままの勢いで教室に到着すると、ルーシーの方が先に来ていて、一番乗りかと思っていたらルーシーが先に到着していたようだ。
「おはようアリスちゃん」
朝から笑顔が眩しい……。ルーシーは相変わらず可愛いね。やっぱり美容とかいうやつにお金かけてるのかな?
「な、なぁに?私の顔に何か付いてるのかな?」
「取ってあげる。あらら、これは取れないかな。強いて言うなら自信のなさがこびりついてるよ」
「あはは……確かに自信はないかも。私四女なんだけど、家じゃ誰からも興味持ってもらえないから……」
結構上手いこと言ったつもりだけど、受けなかったか。それどころか
「私から見たら、暮らすに困らない生活を送れるだけ恵まれてると思うよ。貧しさを知らないからそんなこと言えるのよ。嫌なら家出とかしてみたら?」
「うん……。でも一人で暮らすのも危なそうだし……」
それを聞いて、ちょっぴりお嬢様は面倒臭いと思ったけど、実にいい案が思い浮かんだ。
「それならさ。私が泊まってる宿においでよ」
「それでウチに連れてきたってのかい?」
「ええ。長期の宿泊なら大歓迎でしょ?トーマスさんも」
「そりゃウチとしては有難いよ。嬢ちゃんは福の神だな」
「えっと……ルーシーと言います。
「ルーシー。それじゃあ
「お嬢ちゃんも
自分が盛大にやらかしたことに気付いて、ルーシーは顔を真っ赤にさせ、あたふてしていた。
(ちょっぴりドジだけど。そこも含めて彼女の可愛らしさなのかな)
ルーシーが少し落ち着いたところ申し訳ないけど、私は私で今日聞いた話を思い出して、 気分が落ち込んだ。
学園都市に来た目的は、基本的なことはもちろんだが、その先の専門的な分野も学びたくて入学したのに、まさか高等部に進学しないと専門教科は選択出来ないというのだ。
マリー先生にその話を聞いたときは、そんな馬鹿なと愕然としたが、それなら進学する必要があり、じゃあ進学にはどの程度お金がかかるのかと言うと……うん。
自分じゃどうにもならないことはわかった。中古の家一軒
先生は勝ち誇った顔で、「もしくは、中等部を主席で卒業すると、貴族の推薦を頂くことで入学金が免除されますよ」と教えてくれた。
ちなみに、この学園で主席卒業と言うのは
「なんだそっちの方が全然可能性ありますね」と安堵すると、また先生の機嫌が悪くなった。ほんと平民が嫌いなんだろうな。この先生は。
「アリスちゃん。何から何までありがとう」
「良いってことよ。誰も気に止めないなら、こっちから出てやればいいのよ」
「ふふ……。アリスちゃんといると、私まで強くなった気分になるよ」
だからそんな笑顔見せないでよ。照れるじゃない。良い匂いもするし。
それからルーシーといる時間が増え、彼女のことをより知ることが出来た。
彼女の実家のサフィール一族は、代々商会を営んでおり、その勢力は貴族や財政界までに及ぶ。
その圧倒的経済力で航路を開拓してきて、現在は海の遥か彼方の国とも交易を推し進めている大商会だ。
その一族の四女として生まれたルーシーには、上には二人の姉と三人の兄がおり、ルーシーの母親が妾ということもあって、本家ではもう何年も空気扱いを受けているらしい。
そんな環境で育てば、
だから私は、彼女の自信がつくまで支えてあげることにした――別に同情した訳じゃないからね。
ルーシーが家出してから一週間経った日の午後。
「ルーシー!ここにいるのはわかっているぞ」
ちょうど食堂で勉強していた私は、その剣幕に
玄関に目をやると、トーマスさんと同じくらい……いや少し大きいか?岩のような
「おいオーナーよ。ここに我が愚娘であるルーシーが宿泊しているようだが、さっさと連れてきたまえ」
「アンタ何処の馬の骨か知らんが、口の聞き方がなっちゃいねえんじゃねぇのか?」
それから二人は睨み合う。同じ場にいるだけで
「ワシは本来このような不衛生な
「ちょっとあんた、さっきから何自分の娘を物のように扱っているわけ?それでも父親なの?」
「なんだ小娘。お前などには……そうか、お前が愚娘の友達というやつか。ならいい機会だ、伝えておこう。愚かとは言え、あれもサフィール家の血を引く者だ。その血を活かすには今しかない。貴様などのような
一方的に怒鳴りつけてきたオヤジに頭にきた私は、咄嗟につかみかかろうとしたけど、「やめてアリス」と、私を止めるルーシーの弱々しい声が階段から聞こえた。
「軽挙な行動をお許しください。お父様」
「ふん。今回の罰として謹慎を命じる。普段通り、身の回りの些末はメイドにやらせておけ」
「……はい」
そのままこちらを
その後、
「それで力を貸してほしいと?」
「うん。この際聞いちゃうけど、エルヴィンって私の事利用しようとしてるでしょ?だからそれに乗っかってあげる代わりに、ルーシーを救出する手助けをしてほしいの」
「アリスちゃんは利用されるとわかっていながら力を借りるというの?それは生殺与奪の権を相手に握らせると同意義だよ?」
エルヴィンは、私を試すように冷たく言い放つ。それに私も負けじと答えた。
「いいわよ。それでルーシーを救えるのなら、そのくらいカード切ってやるわよ。じゃないと友達なんて呼べないでしょ」
そうエルヴィンに、
「はぁ……わかったわかった。アリスちゃんの熱意は伝わったよ。これでどうにかしようとかは思ってないから安心して。でもね、交渉に臨む際に、相手の思惑を見抜けぬまま自分のカードを切ることは愚か者の極みだからね。それを肝に命じておいてね」
やれやれと
「嬢ちゃん。申し訳ねぇな……力にもなれなくてよ」
「トーマスさんは何も悪くないよ。むしろ私が考えなしに行動しちゃったせいで、こんなことになったんだし」
――そう。冷静に考えればこうなることは予想できたはずだ。普段あれだけ思考の放棄を
それからルーシーは学校に来なくなってしまった。
マリー先生が、朝礼の時間にルーシーは明日転校すると突然発表したのだ。
通常そのような急な申し出は通らないはずだから、そこは金にものを言わせて無理筋を通したのだろう。
ただ、これでタイムリミットは一気に短くなってしまった。エルヴィンが間に合ってくれないと、助けようがない。
学校から帰宅すると、アリスは何を思ったわけでもなく、ルーシーの部屋に入って何かないかと物色していた。すると、枕の下に小さな紙切れが一枚挟まれているのに気付いた。
《ごめんねアリスちゃん》
その紙には、可愛らしい文字でそう書かれていた。こんなときまで謝ってんじゃないわよ。
「トーマスさん。エルヴィンが何処にいるかわかる?」
「あいつか?そうだな――この時間なら二区画先のパブにいると思うぜ」
「わかった!ありがとう!」
「ちょ、ちょっと待つ……はぁ、もう少し冷静さがあればな」
そんな独り言が届いているわけでもなく、相変わらずの行動力のアリスだった。
たしかこの辺のはずだけど……あった
警戒心と好奇心のバランスを器用に取って入店した。
うわぁ……酒クサっ。それに変な匂いもするし、早く用件だけ済ませて出よっと。
「ハイお嬢ちゃん。このお店は大人専用よ?」
(うわー!胸でかっ!この世にこんな大きな乳房を持った女性がいるのね。勉強になるわ)
そんなどうでも良いことを思ったアリスだった。
「えっと、ここにエルヴィンさんいますか?見た目が軽そうな男なんですけど」
「あら。エルヴィンのお客ね。こんな少女にまで手だして……。ちょっと待っててね、今呼んでくるから」
そういうと店の奥に姿を消した。ものの数分で顔に
「なんでアリスちゃんがここにいるわけ?」
トーマスさんの名前は出すのは可哀想だから隠しておこう。
「それは内緒です。調べればわかりますよ」
「あらら、もう情報を握ったつもりかい?」
「それは置いといて、何か作戦は思い浮かびましたか?」
「いやーそれが大商会なだけあって、ガードが固いのなんのって。情報の秘匿性をちゃんと理解してるよ。お手上げだ」
「ここに状況を覆させられるかもしれない手札があります。これを使えば、アンジュを取り返すこともできるかもしれません」
「ふーん。どこで手にいれたのやら。それをどうしろと?」
「私ではこの情報の価値を引き出せません。なのでエルヴィンさんに真偽を確かめてほしいんです。明日には引っ越してしまうのでそれまでにお願いします」
「それはそのカードの価値次第だよ。見せてごらん」
今度こそ切り札を手渡した。
「――これは……そうか。わかった。明日までに精査しておこう」
「ありがとうございます!」
「でもいいのかい?これはあくまでも他人の家の事情だ。はっきり言ってアリスちゃんには何の得もないし、ルーシーちゃんの身体に危険が差し迫っているわけでもない。それでもやるのかい?」
――この人は私で何を試そうとしているのだろうか。まだわからないけど、いつかその仮面を剥ぎ取ってやるんだから。
「それでもやるのよ。子供が笑っていられない家庭なんて幸福とは呼べないもの。私が誰かの悪者になっても、友達には笑っていてほしい」
この返答が及第点だったのか、エルヴィンは頷いて了承してくれた。
「決行は明日の朝五時だよ。ちょんとおきれるかい?」
「もちろん!」
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