最終話【"次世代の迷宮測量士"】
────某年、ダンジリア。
「シエラっ! そっちの棚にこれ運びなっ!」
「はいっマスタぁーっ!」
「カイルっ! これはそっち!」
「は、はいマスターっ!」
真新しい建物で、慌ただしく物品の整理を行う受付嬢二人と、それを指示するエルフの女性が居た。
エルフの女性の名は『ヘレン・メル・ルナルモア』、ダンジリア冒険者ギルドを経営しているギルドマスターだ。
彼女を含めた三人は、新しく出来たギルドの施設に引っ越してきたばかりである。
「ひー、ひー……お母さん、もうちょっとゆっくり──」
「仕事中だよシエラッ! はい、次これ!」
「そ、そんなぁ、ますたあぁ……っ」
へとへとになりながら書類を運ぶ彼女もまたエルフ、『シエラ・メル・ルナルモア』
彼女はヘレンの娘でもあり、
ただ、彼女は天然かつそそっかしい性格で、更に運動音痴。
御覧の通り、母親に良いように使われている身分である。
「あ、あの、マスター……この格好動きにくいんですけど、いつもの恰好じゃダメなんです?」
「冒険者ギルド労働規約十三項ッ! ギルドに従事する者は制服を着用しなければならないッ!」
「だ、だからって女物着せなくても──ちょ、ああっ! 一気に書類持たせないでくださいーっ!」
ずっしりと重い書類を持たせられるこちらは人間、『カイル・アベイン』
名前から察する通り男性なのだが、淡麗な容姿のせいかこうして女性物の服を着させられてしまう憂い目に遭っている。
ベテランの迷宮測量士だが、受付嬢姿の方が多いという悲しき男である。
「まったく二人とも、無駄口叩いてないで働きなッ!」
ヘレンはふう、とため息をつくと、自身も大量の書類を持って棚へと運ぼうとする。
すると、書類の中から一枚の絵らしきものがひらりひらりと落ち、宙を舞った。
「っとと、アタシとしたことが……? これは……」
近くの机に書類を置き、その絵を手に取るヘレン。それはいわゆる"写真"であった。
その写真には、とある森の中にある村での風景と、数人の人物が写されていた。
男性一人、シエラとヘレン、そして小さな女の子。
「ふう、ふう……あれ? マスター、その写し絵って……」
「……ふっ、懐かしいねえ。どっかに行っちまったと思ったら、こんなところに挟まってたのかい」
「あ……! ジムさんとニーナちゃんを連れて、故郷に帰った時の!」
シエラは嬉しそうに両手を合わせ、その写真を横から眺めている。
「僕が旧ギルドの店番した時ですね、あの時は酷かったですよ本当」
「散々謝っただろうカイル? 男がみみっちい事言うんじゃないよ」
「だったらいい加減男として扱ってください……ッ!」
疲れた様子のカイルも、その写真を眺めにヘレンの傍へと近づいた。
三人は写真を眺めながら、あの時はああだったとか、しばし語らいを始める。
騒々しかった引っ越し作業も一時中断。シエラが紅茶を持ってきて、自然と休憩時間が始まった。
「ナーゴ商会です。失礼します、ヘレンさん」
そんな中、扉を開けて入ってきたのは白猫獣人の少女。
白い耳をぴこぴこ揺らしながら、彼女の華奢な身体を押しつぶしかねない大棚を"片手で持ち上げて"やってきた。
「あ、休憩時間中でしたか、すみません」
「いや、いいんだよマオ。棚はそこに置いといてくれないかい」
「わかりました」
ずしっと指定された場所に棚を置く少女の名は『マオ・ナーゴ』
"ナーゴ商会"という商人組織に所属する商人の一人だ。
彼女は、かつて大陸を拳一つで渡り歩いた"武闘商団"という組織の末裔……の里親から教わった体術を身に着けている、バリバリの武闘派商人である。
「皆さんそろって何を見ていたのですか?」
「ああ、これかい? 昔の写し絵さね」
「これはルナルモア、ですか? ……ああ、あの時の旅行の」
「そう、ジムとニーナを連れて行っ──」
「そうあの時期は姉さんが久しぶりにダンジリアへと帰ってきてそれはそれはもう嬉しくてうんたらかんたら」
「ああ、うん、聞いちゃいないね」
……そしていわゆる、重度のシスコンでもある。
「自分の世界に入ってしまったマオちゃんは放っておいて……」
「で久しぶりに嗅いだ姉さんの──むう、カイルさん、その扱いは酷くないですか?」
「待ってその時何嗅いだの怖いよ」
集った四人は気を取り直した様子で、その時の思い出を語り始めた。
ダンジリアに残っていた者はダンジリアでの出来事を。
ルナルモアへと旅行へ行った者はルナルモアでの出来事を。
語らいは楽し気な雰囲気のまま、注がれた紅茶が三杯目くらいになる頃。
「ふふっ、ジムさん、今どうしてるんですかね?」
と、シエラが切り出す。
「ジムさん、今トランパルに行ってるんでしたっけ?」
カイルがそう言うと、ヘレンが頷いた。
「まったく、迷宮測量士を引退したくせに、測量士時代よりも動き回ってるよアイツは」
「ジムさん、引退したら色んな所を見て回りたいって言ってましたからねぇ」
文句を言うような口ぶりのヘレンとにこやかに笑うシエラ。
その様子を見てマオはふふっと笑い。
「それにきっと、久しぶりに会いたくなったんでしょうね……ニーナちゃんに」
そう言うマオを見て、全員がそれぞれ強く頷いたのだった。
◇
────同時刻、トランパル冒険者ギルド。
「くあ、ぁ……」
ギルドに併設された道具屋、黒猫獣人の女性がカウンターで眠そうにしていた。
サボっているようにも見える彼女は『ニャム・ナーゴ』
名前から察してもらえる通り、彼女はナーゴ商会の商人であり、会長でもある女性だ。
「ニャムさん、これ会計お願いするよ」
「んぅ……はいはい、えー銅貨八十枚ねぇ」
会計に来た冒険者に対して、眠たげに眼を擦りながら大あくび。
だがしかし、彼の持っていた道具をちらりと見て、瞬時に値段を言ってのけた。
決して適当に言っているわけではない、その眼は正確無比である。
「ニャムちゃん、こんにちはっス!」
会計を済ませた冒険者が道具屋を出たと同時、小さな人影が入ってくる。
子供にも思えるその人影は、豊かな髭を蓄えたドワーフの女性、『アルマ・スペッサルティン』
商人組合の現会長でもあり、ドワーフ族と他種族を繋げる親善大使でもある。
「あら、パイセンが来るなんて珍しいじゃん、仕事はいいのー?」
「荷物を届けるついでに、ニャムちゃんに顔を見せておこうと思ったんスよ」
「にゃるほどねぇ……現場仕事くらい他の人に任せたらいいのにぃ」
猫のように顔を掻く仕草をしながら、ニャムはアルマの話を聞いていた。
「アハハ、どうも私は、椅子に座ってどっかりとしてるのが苦手みたいっス」
「まあパイセンらしいからいいけどさぁ、ふあ……」
そして、そのままうとうとと机に肘をついて寝ようとし始めたニャム。
「ふふ、ニャムちゃんも相変わらずっスねぇ……旦那さんとの関係は順調っスか?」
がしかし、アルマの一言でガタンと頭を落とし、少し慌てた様子で目を覚ました。
「にゃ……か、関係にゃい……ないでしょ、そんなの」
「おっ、ウブっスねぇ、フフフ……その様子だと夜の方も──」
「あーやめやめ! パイセンそういうのナシ!」
手をぶんぶん振りその話をやめさせようとするニャム。
その様子を見て、アルマは意地悪そうにけたけたと笑うのであった。
「あ、そういえばニャムちゃん聞いたっスか?」
「む……なあに今度は?」
「久しぶりにあの人がトランパルに戻ってきたみたいっスよ?」
「ん? あの人って──」
ニャムがそう聞き返した時、道具屋の扉がからんからんと開かれる。
「よう二人とも、元気そうだな」
そして同時に、親し気な男性の声が二人に向かって発せられたのだった。
「お、噂をすればっス!」
「あっ──!」
◇
────トランパル冒険者ギルド、ギルドマスタールーム。
「ヒュウ、まさか大将が訪ねてくるなんて思いもしなかったぜ」
そうソファに座って話すのは、少し派手めな衣装を着た男『ジョン・ガルフ』
トランパル冒険者ギルドのギルドマスターであり、数々の名声を持つSランク冒険者だ。
同時に、セレスティアル学園という冒険者育成学校の教師でもあり、彼の手によって大勢の冒険者が育て上げられてきた。
「ハハ、ちゃんと仕事をしているか確かめに来たのさ」
「オウノウッ! 大将そりゃないぜ!」
……少々、言葉が変なのが玉に瑕ではあるのだが。
そして、彼が大将と呼び、対峙している相手こそ『ラルフ・ベルモンド』
前ギルドマスターである彼は、前述したセレスティアル学園のパトロンだ。
隠居した今、彼は次世代の冒険者を育てる事に熱意を注いでいる。
彼が冒険者時代、ギルドマスター時代に稼いだ資産は、ほぼ全て学園への寄付にあてられているのだとか。
「ふふ、真面目な話をすると、書庫を整理していたらあるものを見つけてね……これだよ」
「ホワッツ? この古びた紙は……?」
そういうとジョンは紙を手にし、まじまじと見つめ。
「……ゲッ、大将これは──」
「君が初めて"海底の迷宮"に挑んだ時の記録さ、どうやら間違って私の私物に紛れ込んでしまっていたらしい」
あからさまに気まずそうな顔をするジョン。
ラルフは依然、にこやかな表情でその様子を見ていた。
「な、なあ大将、もしかして大将もアレをネタにする気じゃないよな?」
「ん? 私はただ、初探索の記録という重要な資料を届けに来ただけだよ」
「そ、そうだよなッ! オーケーオーケー、感謝するぜ大将!」
「……ああそれと、サハギンの罠に関する記録が詳細に書かれた資料も──」
「ノオオオオオオオオオオオウッ!」
ジョンには"海底の迷宮"と"サハギン"という単語に少々トラウマを持っている。
それは彼の大失態と繋がるのだが、それはまた別の話。
「ふふ……ジョン、からかってすまないね、ここからは真面目な話だ」
「頼むぜ大将、俺はあの時から青魚が苦手なんだ……」
そういうとラルフは、真剣な表情をして語り始める。
内容は近年の迷宮についてと、魔物の動向について。
ラルフは個人で迷宮や魔物について調べ、その情報を共有しようと訪れたのだ。
「迷宮の数は減少傾向にあり、モンスターの凶暴性もまた下がってきている……これはカルーン様の容態が良くなってきているという事、間違いはないかい?」
「ああ、答えはイエスだろうな。迷宮はあふれ出した厄災を封じるための応急処置……って、ハンサムが言ってたからな。迷宮が減ったってことは、カルーン様……つまり、"箱庭の主"の力が戻ってきてるんだろう」
「それを聞いて安心したよ、世界は元通りになりつつあるという事だからね……だが一つ、気がかりもある」
そう言うとラルフは、腕を組んでその心境を語った。
「我々は迷宮と、その迷宮の副産物である"遺物"に依存しすぎて来た。迷宮がなくなるという事は遺物の供給もストップする。その先にあるものは──」
「なるほど、遺物の奪い合いが起きるかもしれないってわけか」
「そうだジョン……それに迷宮がなくなるという事は、職を失う冒険者や迷宮測量士が多数出るだろう。路頭に迷った彼らが行き着く先は、どこになるのだろうか?」
ふう、とラルフはため息を吐き、表情に暗い影を落とす。
「ジョン、私は不安なのだ。このまま平和な世の中であり続ければいいが、一つ間違えれば争いの世の中になってしまうかもしれない……それがとても怖いのだよ」
迷宮の枯渇、遺物の枯渇、その先に考えられるかもしれない、衰退と争いの世界。
ラルフは未来に起きうる状況を憂い、そして恐ろしく思っていた。
「……大将、あんたの言い分はよくわかるぜ。だけどよ──」
しかしジョンは、頭の後ろで腕を組んでにっと笑う。
「大将や俺たちが思うほど、次世代の奴らは弱くはないと思うぜ」
「次世代の……?」
「ああそうだ、ニーナの嬢ちゃんを初めとする"次の世代を担う者たち"さ。俺は学園で教師として立ってきたが、どいつもみんな、明るい未来を信じ、仲間を思いやれる力を持っていた」
そう言うとジョンは笑みを浮かべたまま、真剣な表情で笑って言った。
「だからよ大将、信じてやろうぜ。新しい世代の奴らをよ」
「ジョン……ふふ、そうだね。どうやら私は、未来を憂うあまりに周りが見れなくなっていたようだ」
ラルフもジョンの様子をみて元気づけられたか、穏やかな表情を取り戻す。
そして、ありがとうと固い握手を交わしたのである。
「ジョン、入るぞ……っと、すまない、話し中だったか」
話し合いがちょうど終わった頃、ギルドマスタールームに入ってくる男性が一人。
「おや、君は……」
「オイオイ、今日は来客が多……ホワッツ!?」
◇
────トランパル、エムリック魔法学園。
「では授業はここまで。みんな、復習はちゃんとしておくのよ」
学園の校庭で、黒いローブを着た教師の女性が授業の終わりを知らせる。
生徒たちはそれぞれ片付けをした後、各々の休憩時間を過ごし始めた。
「ふう、教師というのも中々大変ね……」
女性は少し疲れた様子で校庭の草地へと座り込む。
そして生徒たちを眺め、まあいいかと呟くのだ。
彼女は『クレア・ルエーシュ』、本当は教師などではなく、"現代最強の魔術師"と名高い冒険者である。
クレアは母校でもあるこの学園に、時々教師として招かれているのだ。
普段であれば冒険者として迷宮や未知の場所を探索しているが、時折こうして教師の真似事をしている。
しかし彼女の授業は"とても分かりやすい"と評判だとか。
「オーッホッホッホ! あらあら、これはこれは! 誰かと思えば!」
クレアが草地で休憩していると、どこからともなく高笑いが聞こえてくる。
声の方向へと向くと、動きやすくかつ豪華な衣装に身を包んだ"お嬢様"が、クレアの方へと向かってきていた。
……若干周りが引くほどの、ハイテンションを引き連れて。
「あら、クロエじゃない」
クレアはそれに慣れているかのように振舞い、立ち上がってそのお嬢様の方へと向いた。
お嬢様の名は『クロエ・ジルアート』、世界でも有数の豪商、"ジルアート家"の娘である。
彼女は親の家業には一切の興味がなく、冒険者になることを夢見て日夜努力している努力家でもある。
座右の銘は"魔武両道"。武術も魔術も、どちらも極めたい彼女が作った造語だ。
「今日はエムリックの日なのね」
「ふっふっふ、そうですわね! 今日も素晴らしい知識を身に着ける事が出来ましたのよ……サンダー!」
そう言うとクロエはパチンと指を鳴らす。
すると彼女の手の周りに電撃が発せられ、バチバチと光を放った。
電撃の光はすぐさま消えてしまったが、クレアはその様子を目を丸くして見ていた。
「詠唱簡略? ……ああ、そのシルクの手袋に細工がしてあるのね。雷の魔石でも埋め込んであるのかしら」
「ぐっ、驚かせようと思ったのに気づかれてしまいましたわ……ええその通り、今日は魔石を使った詠唱魔法の簡略方法を学びましたのよ!」
悔しがりつつも自慢げに、表情をころころと変えて語るクロエ。
外野から見ている者はきっと、彼女を見ていると飽きないと思うだろう。
「なるほど……でも流石ね、雷魔法は熟達者でもコントロールが難しいのに、上手く扱えてるわ」
「オーッホッホッホ! もちろんですわ! こればっかりは細工無し! わたくしの努力の賜物ですのよーっ!」
褒められて上機嫌になるクロエは大きく高笑い。
校庭に高らかに響き渡るそれは、誰しもが振り向くだろう。
そしてきっと次の瞬間には、彼女を変な目で見つめるはずだ。
「ふふ、このままならいずれ、ニーナちゃんにも勝てるかもしれないわね?」
クレアがそう言うと、クロエはふるふると首を振る。
「いいえ、まだまだですわ! ニーナちゃん……いいえ、わたくしのライバルは、更にその先に行っているのですもの!」
そういうとクロエは、嬉しそうな表情で悔しがるのだ。
「わたくしと同年代でありながら"トランパル名誉迷宮測量士"の勲章を貰い! "探索者栄誉賞"を国から授与され! 挙句、付いたあだ名は"次世代最高の迷宮測量士"! もー最っ高に羨ましすぎてっ、悔しくてっ、滅茶苦茶燃えますわぁっ! 絶っ対にいつかギャフンと言わせてやりますのよ!」
「……あなたたち本当、変な関係よね」
「変な関係とは失礼ですわねっ!
ぷいっ、とそっぽを向いて不機嫌になるクロエ。
彼女にとってライバルとは高めあう存在であり、決して変な関係ではない。
失言だったか、とクレアは少し反省した。
「……まあいいですわ! 誰になんと言われようとも、わたくしとニーナ・ランパートはライバルなんですもの!」
「ふふ、そうね……じゃあそんなクロエちゃんに、特別授業でもしてあげようかしら」
「あら! 是非お願いしますわ、先生! オーッホッホッホ!」
そう言うとクロエは大きく高笑い。クレアはそれを見てふふふと笑っていた。
「あー、二人とも楽しんでる所、申し訳ないんだが……」
そんな中、彼女二人の元にやってきたのは、とある男性。
「あら、あなたは!」
「えっ──"ジム"?」
◇
「全部ハズレ、か……参ったな」
頭を掻き、困った様子の男性が一人、トランパル南西外郭門の外で佇んでいた。
少々白髪が混じった茶髪にあごひげ。コートマントを身に着けた、初老過ぎの男性。
数々の迷宮を初踏破し、かの"黄金の迷宮事件"を解決に導いた、英雄とも謳われる男。
──『ジム・ランパート』
「ニーナが帰ってくるまでトランパルに滞在するか……? いや、また親バカだの心配症だのからかわれるか……うーむ……」
そんな男は今、可愛い愛娘と久しぶりに会うために滞在するか、それともからかわれるのを避けるかという、ちっぽけな事で悩んでいた。
門の前をウロウロしているのは少々怪しいように思えるが、門番はとくには何も言わない。
彼を咎める門番は、彼の功績を知らない若い者ぐらいだ。
「……ええい、親バカで結構! 宿に戻る!」
そう言うとジムは愛娘に会いたいという一心で、宿に戻ることにしたらしい。
門番は、彼が立ち去るのを苦笑いして見送っていた。
さて、かの英雄をそこまでさせる"愛娘"は、一体どこへ行ってしまったのだろうか?
◇
────とある森林。
木洩れ日が差し込む森の中、一つの遺跡があった。
この森林に文明の跡は一切存在せず、その遺跡がそこに在るのは不自然で。
つまるところ、それは"遺跡の迷宮"と呼ばれる物である。
「よいしょっと……」
その迷宮の入口で、一人の女性が背負いカバンを背負い直していた。
金色の長い髪と短いサイドテール、それを束ねる花の髪飾り。
青い眼を持つ探検家風のその女性は、遺跡の迷宮を見上げ、自信満々の笑顔を見せた。
「さて、行きますかっ!」
女性はカバンのベルトをしっかりと握りしめ、迷宮の内部へと進んでいく。
カバンに付けられた勲章が、その実力を物語っていた。
彼女は、『ニーナ・ランパート』
"次世代最高の迷宮測量士"と名高い、十七歳の女性である。
"黄金の迷宮事件"から、約八年。
迷宮測量士の意思は、確実に次の世代へと受け継がれていた。
この世界の、これからの物語は。
彼女を含めた、次世代の若者たちが紡いでいくのである。
──『ハズレスキルから始める迷宮測量士』 完結
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