第11話【オッサン、祭を巡る】

 あれから数日が経過し、俺とニーナは転移祭の真っ最中の街を一緒に歩いていた。

 いや、一緒に歩いていたというよりはニーナに引っ張られていた、というのが正しいか。


「パパっ! 次あっち行こっ! あっち!」

「分かった分かった、そんなに急がんでもお店は逃げんよ」


 こんな感じに、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと連れ回されていたのだ。

 まぁ今日は彼女が主役、多少は大目に見てやろう。


 今日この日は、パンドラ中の迷宮が総転移――つまり全て消えて、そしてまた現れる日。

 俺が持っている"ポータブルなんとか"のように、様々な便利な遺物を運んでくる事から、実にめでたい日だとされている。

 そんな事から、各国各街で"転移祭"という祭りが盛大に開かれるのだ。


 街の全体が祭り会場というだけあって、あちこちに露店だの見世物屋だのがやってきて店を開いている。

 数ある店の中でも多いのがやはり遺物商店。各地の迷宮で手に入った遺物を取引している。

 値段の相場としては安くて銀貨一枚、高くて五十枚程。

 まあ、殆どは使い方の分からない観賞用の物ばかりだが、見ている分には中々楽しい。


 と、そんな事を考えてるとニーナがある露店の前に突然立ち止まる。

 

「いらっしゃいませ、です」


 淡々とそう答える白猫の獣人族の店主。見た目はニーナのちょっと年上くらいの少女だ。

 白髪に金目、姿に似合わぬ凛とした佇まいで、尻尾にはどこかで見たような鈴を付けている。

 猫の獣人で思いつくとしたら……いや、他人の空似という奴だろう。


 この露店では装飾具を主に扱っているようだ。

 髪留め、ブローチ、ネックレスなどなど……中には遺物らしきものも混じっている。


「ニーナ、何か気になる物でもあったか?」

「んーとね……これっ!」


 と指差すのは花が象られた綺麗なブローチ。


「ニーナ、お前本当に花好きだよな……このブローチ、いくらかな」

「銀貨八枚です」


 なるほど、そこそこするな……でもまあお金には余裕があるし、それぐらい買ってやるか。

 俺が財布から銀貨を出そうとしていると――


「あれ、おっちゃんじゃん。にゃっほ~」


 聞きなれた適当な挨拶が後方から聞こえてくる。

 ニャム……まさかなとは思ったが、そのまさかなのか。


「ああ、ニャム姉さんの知り合いでしたか」

「そういえば妹が居るって言ってなかったねぇ、姉妹で商人やってるんだー」


 こういう時の勘って何で当たるんだろうな?

 確かに雰囲気はちょっと似てるとはいえ――いや、真逆か。

 妹の方はうやうやしくお辞儀をして俺達に挨拶してくる。

 

「"マオ・ナーゴ"、と申します。姉がいつもお世話になっております」

「あ、あぁ……ジム・ランパートだ。よろしく頼む」

「ニーナ・ランパートです! よろしくおねがいします、しろねこのおねーちゃんっ!」


 まともだ、まともすぎる。

 この姉妹を足して二で割ったら丁度いいのではないだろうか? と思う程まともだ。

 

「暫くこの街に居るらしいから、これから仲良くしてあげてねー」

「よろしくお願いします、ニーナちゃん、ジムさん」


 ……逆に調子が狂うな、本当に姉妹なのかこの子達?

 姉が適当だから妹がしっかり者に育った、とか? ……いや、深く考えるのは良そう

 とにかく、俺がツッコまなくても良い人と知り合いになれて良かった。


「そういえば姉さん、自分のお店は大丈夫なの?」

「お隣の露店の人に任せてきたから大丈夫ー」


 なわきゃねぇだろ! 迷惑すぎるわ!


「……それ、早く戻った方がいいよ、絶対」

「ほぼ在庫処分の物しか残ってないけど、マオがそう言うんだったらもーどろっ」


 そう言うとばいばーい、と手を振ってのんびりと立ち去って行くニャム。

 ……あいつ、商売人としても心配になって来た。大丈夫か本当。


「はぁ、姉さんったら」

「大変だな、マオも――」

「そういう適当な所も素敵……ぽっ……あっ、何か仰られましたか」


 ああ畜生! どっちも変だったよ、この姉妹!


「……いや、なんでもない。とりあえずブローチを」

「あぁ、申し訳ありません……はい、銀貨八枚ちょうどお預かりしました」


 ブローチの代金を手渡し、品物を受け取る。

 そしてすぐにニーナの服に付けてやった。


「えへへっ、パパありがとう! にあうかな?」

「よく似合ってるぞ」


 と頭を撫でてやると、少しだけ恥ずかしそうに笑う。

 そんな様子をマオはじっと見つめ、少しだけ微笑んでいた。、


「仲がよろしいんですね、微笑ましいです」

「まあ、な」

「よろしければ今度は奥さんもお連れください。お似合いになる装飾具を見繕わせて頂きます」


 と、再びうやうやしくお辞儀をした。

 少しの変なところを除けばまともなんだな……頼むから常時それで居てほしいもの――。


 ん? 奥さん?


「しろねこのおねーさん、わたし、今はママはいないの」

「あっ……申し訳ありません、出過ぎたことを――」

「パパに拾ってもらったから、今はパパだけなんだ!」

「えっ?」


 まて、色々端折り過ぎだ、少女よ。

 マオの目線が痛い。違う、どうか話を――。


「……憲兵さんを呼んできます」

「ちっ、違う! 違うから! 頼むから最後まで話を聞いてくれえぇ!」


 ……結局、この後誤解を解くのに三十分はかかった。

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