第12話【"星空の絨毯"】

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――


 日も暮れ、街の灯りがつき始めた頃。

 祭りの客は皆、街の高台へと集まり始める。

 総転移の瞬間を見るためだ。


「ニーナ、ちょっと街の外へ散歩に行こうか」

「みんなの方に行かなくていいの?」

「ああ、まあついて来れば分かるさ」

「……?」


 俺はニーナを連れて祭の熱の冷めない街を抜け出す。

 本来であれば安全な街の方で見るべきなのだろう。

 だがニーナにどうしても見せたいものがあったのだ。


                  ◇


 外はすでに闇に包まれていた。

 俺はニーナの手を引きながら、木の一本生えた丘の上に到着する。

 人っ子一人もいないそこで、俺とニーナは木の側に座って"その時"を待つ。


「ねえパパ、ここに何かあるの?」

「もうちょっと待ってな、もうそろそろ……おっ、始まった」


 遠くの方でぽつり、ぽつりと輝きが見える。

 その輝きは徐々に広がっていき、瞬く間に草原を埋め尽くした。

 総転移が始まったのだ。


 迷宮が消える時と現れる時には光を伴う。

 その光は星々のように煌びやかで、総転移の時にはまるで、"星空の絨毯"の様に地上が光り輝くのだ。


「わぁ……!」


 ニーナが感嘆の声をあげる。

 この丘は俺が見つけた秘密のスポット。

 総転移の際には必ず来て、ここで地上の星空を眺めている。

 三百六十度、全方位を取り囲む星空はまさに圧巻の一言だ。


「すごいね、パパ……ほんとうにきれい」

「来てよかっただろ?」

「うんっ!」


 元気よく返事をすると、ニーナは立ち上がって自分を囲む星空を楽しんでいた。

 時には踊るようにくるりと回り、木の周りを駆け巡り。

 存分に楽しんだ後、再び俺の隣に座って次第に消え行く星を眺めていた。


「……ねえ、パパ」

「どうした、ニーナ」


 少しの静寂の後、ニーナが口を開いた。


「あのね、わたし……パンドラにきて、パパに会って、ほんとうによかったって

 おもってるの。目をさました時、なにもわからなくて、一人ぼっちで……

 とってもこわかった。でもね、パパがそばにいてくれて、いろんなことを

 おしえてくれて、とってもうれしかった」


 そこまで言うとこちらを見て微笑んで。


「だからね、パパ。これからもずっと、いっしょにいてほしいなっ! もっと

 めいきゅーのこととか、いっぱいおしえてほしいの!」

「ニーナ―― ああ、勿論。ずっと一緒だ」

「えへへっ、パパありがとっ!」


 ぎゅっと抱き着いてきた。

 俺は静かにニーナの頭を撫でる。

 そして、たとえ仮のだろうとも この子のパパになる事をしっかりと、決意した。


「そろそろ帰るか、我が家に」

「うんっ」


 総転移もほぼ終わり、地上の星々もまばらになった頃。

 俺とニーナは手を繋いでゆっくりと街の方へと歩き出した。

 その手を離さないよう、しっかりと握り締めて。

 そう、本当の親子のように――。


                  ◇


 転移祭から数日後、再び日常が戻ってきた。

 今日からまたいつもの様に迷宮へと潜り、地図を書く。

 ただ唯一、はっきりと違うことは。


「パパーっ! 早く行こっ!」


 俺に小さな助手が出来たこと。

 カバンを背負ったニーナが玄関で、俺のことを今か今かと待っていた。

 俺は朝食のトーストを口に詰め込むと、自分のカバンを背負って玄関へと急ぐ。


「俺としたことが寝坊するとは……」

「もうっ、パパったらゆらしてもおきないんだから」

「どこかの誰かさんがお話してとせがまずに早く寝れば、俺もすぐに寝れたんだけどな?」

「うっ……さ、さあ、早く行こっ! ねっ!」


 話逸らしたな、この子。

 勉強熱心なのは嬉しいが、変な事ばかり覚えては困るぞ。


 まあ、そんなこんなで俺の生活ちょっと賑やかになったんだ。

 これからこの街で、この子と迷宮測量士として生きていく。

 きっと困難もあるだろうし、喧嘩もする事もあるだろう。

 だけど俺は彼女のパパとして、精一杯頑張っていきたい。そう思った。


 しかしこの時、が俺達の運命を左右する事になるとは、予想にもしていなかったのである――。

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