第10話【オッサン、報告する】
我らが小さな街、ダンジリアへと帰還した俺達は、早速ギルドの方へと向かう。
ギルドの扉を開けると、受付で何だか気が気じゃない様子のシエラが事務処理をしていた。
ニーナが元気よくギルドの中へと駆けていき、シエラに向かって声をかける。
「シエラおねーさん、ただいまっ!」
「っ……! お二人ともお帰りなさいっ! ニーナちゃん、怪我は無い?」
「うんっ!」
シエラが受付を放り出して駆けつけてくる。
中に居た冒険者達もこちらを見て生還出来て良かったと歓声と拍手を送って来てくれた。
どうやら俺がニーナを連れて迷宮に挑んだ事はギルド中に広まっているらしい。
「あのねあのね、パパかっこよかったんだよ! しゅごしゃ? をこう、だーってよけて、ばしーってけったの!」
「えっ……まさか守護者と戦ったんですか!?」
「まぁ、そういうことになるか……? でも何とか生きて帰ってこれたよ、本当」
ニーナが自慢気に守護者との戦いを話し始める。相変わらず擬音が多いが。
仕方がなかったとはいえ、迷宮測量士が守護者と戦うなんて自殺行為にも等しい。
本当、自分でも上手い事抜け出せる事が出来て良かったと思っている。
「おかえり。戻ってくるって信じてたよ」
歓声を聞きつけてか、ヘレンもギルドマスターの部屋から様子を見に来てくれた。
「総転移に巻き込まれずに戻ってこれて何よりだ、流石だね」
「まあまだ数日猶予があるしな、これぐらいどうってことない」
総転移の瞬間に迷宮内にいるとどうなるかというと、端的に言えば外に追い出されるだけだ。
しかし何らかの影響かは知らないが、巻き込まれた者は全員"変な夢を見た"と訴えるのである。
それは白と金で彩られたおごそかな迷宮を彷徨う夢だとか……まあ、それ以外は異常はないから特に問題はないんだけどな。
「しっかし、随分と派手にやったもんだね? 守護者と戦うなんて」
「戦ったというか、戦うしか無かったというか……とにかく、一から説明させてくれ」
俺はニーナと作った地図を手渡すと、廃城の迷宮の全てを報告する――
◇
「成程、動く鎧に屍の王様と来たか……アンタ、本当良く生きてたね」
「死ぬ訳にはいかなかったんでね」
「逃げ帰って来たのにカッコつけるんじゃないよ、全く」
そんな事は言いつつも、内心嬉しそうに見える。
行ってこいと送り出した彼女も、何だかんだ心配していたんだろうな。
「……ま、"廃城の迷宮"での魔物の傾向や守護者も分かったんだ。ギルドとしても、今後同様の迷宮が出た時の対応を考える事が出来る。お手柄だったよ、ジム、ニーナ」
「えっへん! わたしもパパもがんばりました!」
ニーナが誇らしげに胸を張る。本当、小さな身体でよく頑張っていたと思う。
しっかり教えればこの歳でも補助を任せられるくらいにはなるかもしれない。
それくらいのポテンシャルはこの子は秘めている。俺はそう確信していた。
「さて、報酬の件だが……こんなもんで良いかい?」
そうして手渡してきたのは金色に輝く硬貨――金貨三枚。
そう、金貨三枚である。これは一ヶ月は遊んで暮らせるくらいの金額だ。
通常、迷宮の地図は一番安くて銀貨五十枚程、最も高くて金貨二枚で取引される。
つまり、この額は通常の範囲とは余りにもかけ離れた額だ。流石に色を付けすぎじゃないのか?
「……色を付けすぎだ、なんて言いたい顔してるね」
「当たり前だろう、何か理由があるのか?」
「今回得た地図はまったくの新種の迷宮。他所のギルドでもまだ情報が掴めていない筈だ。後は察しがつくだろう?」
なぁるほど、情報を売るって事か。
確かに他所からしたら未踏の迷宮についての情報が金で手に入るならそれで仕入れる所も少なくは無いだろう。
ヘレン、意外と商売上手だな……。ギルドマスターとしての経験から得た知識なのだろうか、はたまた冒険者時代にそんな仲間がいたのか。
「それに、そろそろ"転移祭"が始まるからね……ニーナに頑張ったご褒美を買ってやらなきゃならんだろう?」
いや、そっちがメインだな? 俺には分かるぞ。
まったく、ニーナを自分の娘のように可愛がってくれちゃって……。
「"てんいさい"?」
ニーナが頭にはてなマークを浮かべている。
ああ、そういえば説明してなかったな。丁度いい、今説明しておこう。
「"転移祭"ってのは、パンドラ各地で行われる総転移を祝うお祭りなんだ。この街にも商人やら旅芸人達が集まって、大きなバザーや催し物をやったりして、結構盛り上がるのさ」
「わぁ……! とってもたのしそうっ!」
目をキラキラとさせ、その情景を思い浮かべているニーナ。
総転移の時期になると、この小さな街にも大勢の観光客や商人、旅芸人がやって来る。
客の殆どの目当てはこの街の周り一帯の総転移を見る事。迷宮だらけの街ならではの祭だ。
総転移の瞬間はそれは綺麗で見事なのだ。今年はニーナも居るし、しっかり見ておかないとな。
「そう言う事なら有難く頂いておこう、助かるよ」
「なぁに、助かったのはこっちの方さ。十分儲けさせてもらうよ」
そう言うとヘレンはにこりと微笑んでこちらを見た。
「楽しい思い出になるといいですね、ニーナちゃんっ!」
「うんっ! てっんいっさいっ♪てっんいっさいっ♪」
シエラとニーナは転移祭の話題で盛り上がっている。
ニーナに至ってはぴょんぴょん跳ねて楽しみを抑えられない様子だ。
その光景を見てフッと笑い、全く無邪気なもんだと心の中で思った。
◇
帰宅した後、すぐさま食事を作り始める。ニーナが手伝いに来るのはもはや日常となっていた。
鼻歌混じりで上機嫌に手伝う少女。どうやら転移祭がよほど楽しみらしい。
祭りまであと数日。まとまった金も手に入った事だし、当日になったら存分に楽しませてやるか――。
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