第9話【オッサン、屍王と対峙する】

 廃城の迷宮、四階。

 どうやら真っ直ぐな一本道の先に部屋―― 最深部があるようだ。

 最深部の手前までマッピングを終えた俺達は、最深部の大扉の前に立っている。

 

 ニーナを守りながらようやくここまで来る事が出来た。

 後は守護者ボスモンスターを確認して帰るだけだ。

 

「ニーナ、物音を立てたりせずにじっとしてるんだ。何かあったら扉の影に隠れとけ」

「うんわかった、パパ」


 ひそひそ声で忠告すると、俺はニーナからカンテラを受け取り、意を決して扉を開ける。

 中は大広間になっている。構造的には王座の間に似ているだろうか。

 部屋に一歩入りカンテラで照らすと、どうやら奥の椅子――王座に誰か座っているようだ。


「ᛐᚱᛂᛋᛔᛆᛋᛋᛂᚱ...」


 何かブツブツ喋っている。

 こちらには気付いてはいない……のだろうか、一向に動く気配がない。

 よく見るとボロボロになってはいるが杖を持ち、厳かな王族の服を着ている。

 王の屍の魔物―― "屍王リビングデッドキング"と言った所か。


 これ以上近づくと刺激して感知されてしまうかもしれない。

 ゆっくりと俺は後退しようとした――が、しかし。


「ᛁᛍᛁᛍᛚᛂ ᚠᛆᛚᛚ...ᚠᚱᛂᛂᛎᛁᚿᚵ――!」


 屍王は未知の言語でそう叫ぶと立ち上がり、俺に向けて杖を伸ばす。

 すると俺の頭上に巨大な氷柱が形成され始めた。

 くそっ、いつ感知されたんだ? このままこの場所に居てはニーナも巻き添えになる可能性がある。

 俺は氷柱が落ちてくる瞬間『逃げ足』を発動させ前転。部屋の中に完全に入った。


 ニーナ、頼むから出てこないでくれよ、と祈りつつ、俺は相手を見据える。

 

「――――! ――――!!」


 もはや言語ですらない奇声をあげながら、自身の周りに氷柱を出現させる屍王。

 鋭い氷柱は一つでも当たれば致命傷になりうるだろう、俺は回避体勢を取る。


 バシュン、バシュンと空気を切る音を出しながら氷柱が飛んでくる。

 横にステップ、横転、スライディング。 俺はそれを全て避けた。

 そして俺は部屋を駆けて奴の元へと向かっていく。とにかく動きを止めて脱出しなければ。

 

「――――――!!」


 凄まじい奇声。頭がキンキン痛む。

 こんな化け物と真正面から戦っている冒険者達は凄いな、本当。耳栓持ってくりゃ良かった。


「来いよ腐れ野郎ッ! 巨大な氷柱でも落としてこいッ!」


 そう叫ぶと言葉が伝わったのか、屍王は巨大な氷柱を再び俺に目がけて落とそうとして来る。

 これはチャンスだと『逃げ足』を再び使用。奴に目掛けて加速する。そして――


「吹っ飛べ、この野郎ッ!」

「――!?」


 思い切り屍王へと向かってドロップキックをかましてやった。

 王座に叩きつけられ、杖があらぬ方向へと吹き飛ばされる。

 奴がよろめいている今がチャンスだ。これを逃したら死ぬ!


「ニーナッ! 来い!」


 鞄から急いで巻物を取り出し、走って来るニーナを抱きかかえ。


「旅の神カルーンよ、我を導き給えッ! リターンッ!」


 リビングデッドキングが杖を取り戻す前に帰還魔法を詠唱し、脱出。

 俺達は消え、王座の間には奇声を上げる屍の王のみが取り残された。


                  ◇


 ぼすんっ、とデジャヴを感じる落ち方をしながら廃城の外へと出てきた俺達。

 何とか危機は脱したみたいだ。ふうっ、と一息……。


「うぅ……ぱ、パパぁ……」

「ニーナどうしたっ? 怪我でもしたか!?」


 つけぬまま涙目になっているニーナを心配する。

 まさか氷柱の破片でも当たったのだろうか?

 見た限り外傷はなさそうだが――


「生きててよかったぁ……ひっく、うぁ……っ」

「なっ、泣くな泣くな! 俺が死ぬ訳無いだろう、な?」


 そっちか、と俺は慌ててニーナを泣き止まそうとする。

 ぐずっていたニーナの頭を撫でてやり、俺はちゃんといるぞと優しく声を掛ける。

 次第に泣き止み、また笑顔を見せて抱き付いてきた。眼は真っ赤になってるけど。


「よしよし……頑張ったな、ニーナ」

「うんっ……うん!」


 ぎゅうっと力強く抱き締めてくるニーナ。

 よほど心配だったのか、内心怖かったのかは分からないが、とにかく小さな身体でよく頑張った。

 帰ったら何かご馳走してやらなきゃな。


 俺はニーナを抱っこしながらゆっくりと街へと歩みを進める。

 二人で描いた初めての地図を携えて。

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