第8話【オッサン、休憩する】
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そんなこんなで、俺たちは迷宮の三階に来ていた。
ニーナを守り、教えながらもあるが、二階の構造は複雑で迷路のようだった。
その為か予想以上に時間がかかってしまい、すでに半日が経過していた。
しかし今だに根を上げずについてきているニーナに驚きを隠せない。
この子には、迷宮測量士の素質があると確信している……が、流石にそろそろ疲労も溜まっているだろう。
幸運な事に三階はそこまで広くなく、休憩地点に出来そうな部屋も見つける事が出来た。
一度休息を入れて、一気に最深部まで行ってしまおう。
「ニーナ、寝袋を敷いといてくれ」
「はーいっ! パパは何するの?」
「簡易結界を……まあその、魔物を寄せ付けないおまじないをしておくよ」
「うん、わかった!」
物分かりが良い子だと思いながら、俺はカバンから黒いチョークを取り出す。
チョークと言っても材質は木炭で、教会や聖堂で祝福を受けたアイテムだ。
正式名は"聖なる木炭"……大体の人間は黒チョークと呼んでるが。
このチョークで円を描くと、聖なる力でその円の内部に魔物が侵入してこなくなるという訳だ。
俺は寝袋を中心にぐるりと大きな円を描き、念のために部屋の出入り口にも線を引く。
こういった休憩地点を作っておくのも、迷宮測量士の仕事の一つだ。
階層の少ない迷宮ならそこまで重要ではないが、迷宮が深ければ深い程休息は重要になってくる。
自分達の休憩も含め、こういった地点を作っておく事は大切な事なのだ。
「これでよし、と……ニーナ、そっちは終わったか?」
「はーい!」
「よし、じゃあ軽く食事にするか」
俺はそう言うと、カバンの中から食料袋と水筒、小さな鍋と炎の魔石、そしてある遺物を取り出す。
その遺物は、真ん中に無数の穴の空いている平たい円盤の付いた三脚で、円盤には鍋が置きやすいように爪のような置き台が作られている。
下部には円柱状の筒を差し込む機構があり、俺や知り合いの測量士達はここに円柱に象った炎の魔石を差し込んで使用している。
魔石を差し込み、円盤の下部についている摘みを回すと魔石が反応し、炎が穴から出てくる仕組みだ。
ギルドの学者は「ポータブルなんとか」とか呼んでいたが……まあ何にせよ便利な遺物だ
俺達はそれでスープを作り、パンとスープで簡単な食事をとった。
ニーナは"ポータブルなんとか"に興味津々だ。俺の家には遺物は殆どないから珍しいのだろう。
今度知り合いの遺物商に頼んで見せてもらうか……きっと喜ぶに違いない。
「さて、腹も膨れたしそろそろ仮眠でも取るとするか。」
「えー、わたしまだがんばれるよっ、パパ!」
「しっかりと休息を取る事も大事な仕事だぞ、ニーナ。頑張り過ぎて倒れたら元も子もないだろ?」
「はーい……」
ニーナはまだ探索したりないって顔で俺を見ていた。
しかし、わずか九歳の幼子が来るような所ではない所に来て、しっかりと勉強して……疲れていない筈がない。
万全な状態で最深部に辿り着く為には休息も大事だと諭し、俺とニーナはそれぞれ寝袋に入った。
「……ねえパパ」
「どうしたニーナ?」
「ねむくないから、めいきゅーのお話して?」
……休息は大事だ、とは言ったんだけどな。
そんなこんなで、俺はニーナが寝るまで暫く他の迷宮での出来事を語る事となった。
他愛もない冒険談だが、ニーナはなんだか楽しそうに聞いていて、結局彼女が寝るのに一時間は掛った。
◇
次の日、目が覚めると俺達は寝袋を回収する。
本来なら後続の冒険者の為に置いて行ったりもするのだが、今回は総転移が近いというのもある為持って帰る事にした。
ニーナもだいぶリラックスできたみたいだ。元気に準備運動なんかしている。
……どこで覚えたんだ。
「ごーろくしちはち……よしっ! パパ、はやく行こっ!行こっ!」
「そう焦るな焦るな、元気なのは良いがそれで怪我されたら困る」
昨日の迷宮話を聞いて自分もそんな経験がしたいと思ったか、妙にやる気だ。
だが危ない目にはあわせられないし、そんな経験はまた成長してからだ。
俺とニーナは次の階層へと進む。恐らく次の階層で最後だろう。
この先に待ち受ける物は一体何なのか―― 不安と期待を胸に、また一歩踏み出した。
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