第7話【オッサン、廃城探索②】
甲冑の魔物―― "
そいつが何体いるかは分からないが、簡単にはこの部屋を抜けさせてはくれなさそうだ。
後ろの罠を使う事も考えたが、一本道だから下手に生き残って通路で出待ちでもされたら厄介だな……いや、生きては無いか。
「こうなりゃ"強行突破"、か」
「きょーこーとっぱ?」
ニーナが首を傾げている。
丁度部屋の反対側に通路が見えている。その先がどうなっているかは知らないが、進めなくなるよりはマシだろう。
リビングアーマーのような魔物ならそこまでスピードは出ない筈だ、ある程度撒けば追っては来れないだろう。
俺のスキル『逃げ足』が役立つ時だ。
「……ニーナ、抱っこだ」
「う、うんっ!」
「しっかり捕まってるんだぞ、ちょいと揺れるからな」
俺はニーナを抱きかかえる。カバンのせいでいつもより重いが、まぁなんとかなるレベルだ。
ふうっ、と息を整えると、俺は反対側の通路目掛けて走り始めた。
ニーナの目測どおり、リビングアーマー共が動き出す。
全部で大体三体程か、思っていたより多いな。
机をぐるりと回って後ろから一体、前方から二体迫って来る。
前方の一体がハルバードを振り上げている。縦に一刀両断するつもりか。
だが、俺の『逃げ足』は避ける事に関しては俺は誰にも負けない自信がある。
スピードを緩め、リビングアーマーがハルバードを振り下ろしたタイミングでバックステップ。
ガキンッ、と音を立てて地面に突き刺さるハルバード。しめた、これは利用出来るぞ。
俺はそのままハルバードに飛び乗り、柄を伝って駆けあがるとリビングアーマーの頭を踏み台に前方へと跳んだ。
甲冑共は唐突な出来事に理解が出来ていない様子で、そのままもう一方のリビングアーマーの頭へと飛び移り、更に前方へと跳んだ。
これで正面は突破した。後は走って逃げるだけだ。
俺はそのまま通路まで走り抜け、再び一本道を駆けていく。
リビングアーマー達のガシャガシャと音が後方から聞こえてくる。
遠ざかってはいるものの一本道だから中々撒けないな、このまま次の階層まで付いてこられたら厄介だぞ。
「パパっ! 目の前にさっきのトラップがあるよ!」
ニーナが指を指した先には例のスパイク・トラップが。
もう判別方法について理解したのか……子供の成長は早いとは言うが、まさかここまでなんてな。
っと、感心してる場合じゃなかった。このトラップを利用してどうにか撒けそうだ。
普通に飛び越えるのにはニーナを抱いた今の状態だと不安だな。
俺は速度を落とさず、そのまま壁に向かって跳躍。
三角跳びの要領で距離を稼ぎ、見事に飛び越えた。
そしてそのまま走り去ると、追手が貫かれる音を聞く。
振り返ると何体かは残っている様子だが…どうやら棘の壁に阻まれてその姿では通れないようだ。
諦めて帰って行くのが見えた。
「ふう、なんとかなったな……ありがとな、ニーナ」
「ううん、パパすごかった!こう……ぴょん、ぴょんってとんで、わーって!」
ニーナを降ろすと、興奮しながら身振り手振りで今の一連の行動を真似しようとしている。
何とも微笑ましいというか、呑気というか……
まぁこの子のお陰で罠の存在に早く気が付けたんだ、とやかくは言わないようにしよう。
今だに興奮の止まないニーナを連れ、今まで通った場所のマッピングをする。
大部屋に一本道……急いでいたから書けなかったものの、複雑な道じゃなくて良かった。
最悪、またあの大部屋に戻るはめになるしな。
そうこうしてる内に再び分かれ道に到達する、片方は……次の階層へ行く階段が見える
もう片方は曲がり角になっていて奥へと進まないと分からない。先にそっちへ向かおう。
向かった先は行き止まり…だが、宝箱が置いてあった。
「あっ、たからばこだ!」
「……ニーナ、触っちゃ駄目だぞ」
「どうして? ぼーけんしゃさんたちのため?」
ニーナが再び首を傾げている。
「それもそうだが……宝箱は大体罠が付いているんだ。専門的な知識を持つ盗賊
じゃないと開けられないんだよ」
「そうなんだ……さわらないように気をつけるねっ」
よかった、分かってくれたみたいだ。
言った通り、宝箱には罠は付き物と言って過言ではない。
欲深い迷宮測量士が何人も餌食になっているのを、この目で見たことがある。
迷宮測量士が長生きするには、とにかく臆病で慎重でなくてはならないのだ。
俺は壁に隠し部屋も何もない事を確認すると、次の階層へと移動を開始した。
トラブルはあったものの、今の所順調に作業は進んでいる。
このままいけば本当に半日で帰る事も夢じゃない。
ニーナを連れて来て、良い方向へと進んでいる。この子の成長には目を見張る物があるな――。
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