第5話 化け学
泉でしんみりすること、数十分。
ずーっと、セレスティアは水鏡の中を覗き込んでた。
「長い間、待たせてゴメンね。お水は確保できたから、次は食材を探さないとね」
「泉の中を見てたけど、魚は小さいのしかいないな」
「だね。出汁にはなるかもしれないけど、お腹の足しにはならなそう」
出汁にはなるんだ? というのは口に出すのを止めておく。
一応、男女だったとは言え、女の子をやっていたのに、食べるの専門ってちょっと恥ずい。それでも、食べ方はあるんだと語るのを聞きながら、彼女の食事に対する並々ならぬ意欲を感じる。
「そういや、弁当って誰が作ったの?」
「もちろん、私。材料がないとどうしようもないけど、ソコソコ上手だと思うよ」
質問に返ってきたのは、自信ありげな微笑みだ。弁当も美味そうだったし、期待に胸が膨らむ。それでも材料がないとどうしようもないというのも一理ある。
俺たちは水場から少し離れた茂みの中を、”検索”で食べれるものを探しつつ、元の穴蔵に戻ることにした。
――しっかし、食えない”雑草”ばっかりだな!
「できれば、山菜が採れるといいんだけどねぇ……」
「肉は……刃物がないと厳しいか」
「荷物の中に、ジャーキー類が大量に入ってた。当座はそれで凌ぎたい。あと、主食はお米が五キロもありました」
”雑草”ばかりであることに不満なのはティアも一緒らしく、ため息混じりに愚痴を漏らす。肉も食べたいと思ったものの無理かと思ったら、食料の中にジャーキーがはいってたらしい。荷造り担当、グッジョブだ!
それにしても、米五キロは多すぎだろう……?
「荷造り担当は、私をどこに山ごもりさせる気だったんだろうね」
フンと鼻を鳴らす姿に、俺は驚いて目を瞬く。
これがティアの本来の姿なのかもしれないけど、王子様キャラはどこいった?
わがまま姫、時々、女王様に変身してない?
「言いたいことは分かるけど、お陰でしばらくは食うに困らないのはありがたいな」
「それは……ね。どうせなら、乾燥野菜も入れてくれれば良かったのに」
ブツブツと文句を言う内容に、思わず吹き出す。大根・人参・玉ねぎにキャベツとトマトね。”ファーム”スキルを使って、彼女が呟く野菜の種を作り出す。
”プロフィール”で何を代償に必要とするのかを確認してみると、体力がグングン減っていく。
一つ作る度に、十も体力が減るってことは、十個作るとバタンキューってことかな?
後で実験しよう。後の問題は、コレがどれくらいの期間で収穫できるか……か。
「そういえば、ティアはプラホから変なスキルとか手に入れてない?」
「入れた記憶のないアプリから”錬金術”とか言うのを入手したけど……”みんなのアトリエ”って何か知ってる?」
「錬金術師の女の子が、材料入れた鍋をぐるぐるして料理やクスリや武器防具とか魔法生物やら? ……まあ、あらゆる物を作り出すゲーム」
「何でそんなモノが私のプラホに入ってたのか、見当もつかない」
前に、ゲームは殆どやらないって言ってたけど、本当は全くやらなかったらしい。
いや、でも”みんなのアトリエ”はやってたな。
「確か、ヒロインの容姿が俺に似てるって言って、たまに弄ってたみたいだけど?」
「何その神ゲーム!?」
クワッと目を見開き、突然振り向かれて思わず仰け反る。
え、なに?
そのキャラ見たかった?
生で俺の女の子ヴァージョンでもいいって?
ごめん、それはいまさら遅い。
「まあ、その時も知らないアプリがどーのこーの呟いてたな。大方、荷造り担当がダウンロードした犯人だろうけど……いいんじゃね? ”錬金術”って何でも出来そうなイメージだから便利そう」
「私の中だと、化学のハシリってイメージなんだけど、ゲームだとそうなの?」
「ラノベとかでも、人気のスキルだな。なんでも作れそうで、都合がいい」
「……了解。鍋なら、何でもいいのかな?」
いや、むしろ材料が入れば……などと呟きつつ、彼女は元来た道を戻り始めた。
「え、泉に戻るの?」
「うん。ちょっと化け学の実験をしてみよう」
「化け学って?」
「科学――サイエンスと混同しないように化学――ケミストリーを湯桶読みした呼び方なんだけど、今回は本当に化けるかもしれない」
ティアなりの構想があって何かをする気みたいだけど――流れからすると、”錬金術”を試すってことだよな?
木立を抜け、岩場になると、途端に彼女の足が早くなる。
「ちょっと待て! 一度に何個も作るんじゃなく、一個づつ作って代償に何を必要とするか確認しないと――」
声を張り上げ注意を促したけれど、先に泉についたティアはジャージの袖をまくって中に腕を突っ込んで水の冷たさにテンション高く悲鳴を上げた。
――アレ、絶対、コッチの声は聞こえてない。
「ティ――レイ、やめろ!」
呼び方を変えたのは、こっちの方が注意を引けるかと思ったからだった。けれど、それは何の意味もなさず、泉が淡く光りだす。
「シャベルにスコップ、ハサミも、二つずつあるといい。それから小出刃とノコギリも必要だよね。それから――日本刀」
泉の光が強くなる度に、左手で出来上がったものを取り出し横に並べる。
何をどうしてかは分からないけど、泉を容器に見立てての”錬金術”は成功らしい。
問題は、作ってる数。
シャベルとスコップ、ハサミにノコギリが二つづつ。
小出刃って、包丁か?
「でっきたーぁ……」
気の抜けた声と同時に、最後の一つが自ら引き上げられる。
両手に捧げ持ったそれを見つめるティアの目は、トロンと潤んでて一見、出来上がったものに見惚れているようにも見えた――そのまま頭から泉に突っ込むまでは。
「コンチクショウ! だからやめろって言ったのに……!」
――コイツ、絶対、”錬金術”スキルの使いすぎで体力を使い切りやがった……!
慌てて引き上げたお陰か、はたまた意識を失ってから水に突っ込んだせいか、水は飲んでないらしい。
不幸中の幸いだけど……口からは大きなため息が出る。
でも、それもティアが幸せそうな顔で眠る姿に視線を落とすまで。抜身の日本刀を握ったままでさえなきゃ、もっと良かったんだけどな。
持ってきてあったタオルで髪の水気をザッと拭き取り、日向に移動する。寝ている人間ってのは華奢に見えても重いもんで、移動は思ったよりも大変だったけど、風邪を引かせるよりよっぽどいい。
彼女の頭を膝に乗せ、長い髪を撫でながらぼんやりと空を見上げる。
セレスティアの髪を淡くしたようなミントグリーンの空に、「地球じゃないんだなぁ」と改めて呟く。
――さて、コイツが寝てる間に調べ物でもするか。
なんか、起きたら「試し切りでござる」とでも言い出しそうだ。
それまでの暇つぶしに、この世界のことを調べておいたほうがいい。
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