第109話 夢を追うもの笑うもの36


 英美里との模擬戦は何が何でも勝たなければならない。


 本来であれば新スキルのお披露目の機会は怠惰メンバーの誰かがレベルを200超えた時にしようと思っていたが、負けられない戦いなので仕方が無い。


 任意地点投入により、英美里の背後に一体のサブキャラを呼び出して攻撃指令でそのまま槍で攻撃させる。


「……っ!後ろから?」


 英美里の表情は距離が遠すぎてこちらからは確認出来ないが、きっと驚いているに違いない。


 英美里はサブ1からのバックアタックを難なく躱して再び影移動で距離を取った。


「……ご主人様が二人?」


「一体とは限らないんだよなぁ……」


 英美里の移動先にサブ2を呼び出して再びバックアタックを仕掛ける。


 その間にサブ1を呼び戻して合流し、回収。


 英美里が影移動で距離を離す度にサブキャラを背後に投入し続ければアバターが魔法で狙われることは無くなる筈だ。


「三人目ですか!なんとも厄介な!」


 英美里がサブ2に気付いてサブ2の突きを軽々と避ける。


「……なるほど、突破口を見つけましたよ!ご主人様!」


 サブ2からの突きを避けながら英美里が何かを思いついたようで、標的をアバターでは無くサブ2に切り替えた。


「やっば!行け!サブ1!」


 サブキャラに反撃されるのは非常にマズイのでサブ1を英美里の背後に投入して、アバターの俺も一緒に突っ込む。


「甘いですよ、ご主人様!」


 英美里による影を手に纏いながらの殴打がサブ2を襲った。


「くっそぉ……駄目か」


 英美里に容赦無くぶん殴られたサブ2は俺とは反対方向に吹き飛ばされてしまった。


 便利なサブキャラクターだが、明確な欠点が存在する。


「サブキャラでしたか……あまりにも攻撃が単調ですし、こちらの攻撃を躱す素振りもありませんでしたがこれは自動的に動いているご主人様に似ているだけの人形ですね」


「その通り!こいつらは俺が操作してる訳じゃ無い。それでも距離制限はあるにしろ、好きな場所に出現させられるのは便利だろ?」


 英美里の側まで駆けつけ、サブ1を攻撃されないようにアバターで牽制しながら距離を離す。


「とても素晴らしい力だと思います!流石はご主人様です!……ですが、その程度では私は倒せませんよ?」


 サブ1に防御指令を下しながらサブ2の元へと向かい、サブキャラクターを二体とも回収した。


「奇襲に使う分には優秀だろ?」


 英美里もサブキャラを警戒しているのか、遠距離からの魔法を発動せずに俺との会話に応じてくれている。


「そうですね……ちなみに呼び出せる数は2体迄ですか?」


「それは試合が終わってから教えるよ」


「確かに奇襲するにはとても便利なお人形ですが、ネタが割れてしまえばもう私には通用しませんよ?この後の試合展開をどうお考えですか?」


「まぁでもネタが割れているからこそ有効な事もあるからね。現に英美里はサブキャラを警戒して魔法を撃とうとはしてないし」


「そうですね……ですが、私にも新しい技がありますので、ここでお披露目といきましょうか!影人形!」


 英美里が影を全身に包み込んだ。


「それは千尋の時に使った技と一緒……じゃないな……これはピンチなのでは?」


「『『本来ならもう少し数を増やせるのですが、今回はご主人様に合わせて本体を含めた三体でお相手いたしますね!』』」


 影に包まれた英美里が一人と、恐らく影で作られただけの影人形2体が俺に向かって突っ込んできた。


「サブ1、2!防御だ!」


 本体を叩けば済む話ではあるが、俺にはどれが本体なのかが分からないので一旦防御に徹して様子を見る。


「『『私のお人形とご主人様のお人形のどちらが上か勝負です!』』」


 英美里の三人同時攻撃をサブ1,2を盾にして凌ぎながら影人形の動きを観察する。


 英美里の影人形が英美里本体と同等のスペックでは無いと予想して、一番動きが良い奴を叩くしかないと割り切って捨て身覚悟で攻勢に出る機会を窺う。


「流石にこれはズルいぞ……」


「『『それはご主人様も同じでしょう!』』」


 三体同時の波状攻撃を防ぐには無理があるようで、攻撃を防ぎきれずにアバターにもダメージが蓄積していく。


 そんな中で俺は果敢に反撃の突きや薙ぎ払いを繰り出す、右側の影は攻撃を躱して反撃してくる。


 左側の影は突きを手で防いでから反撃してきた。


 正面の影も突きを手で防いでから反撃。


 反撃の糸口は見つけた、後は反撃するタイミングが重要だ。


「漢、拓美!やぁってやるぜぃ!」


 サブ1、2をここで自動操作から任意操作に切り替える。


「頭痛い!」


 部屋で一人喚き散らしながら、三体同時操作を開始した。


 アバター、サブ1、サブ2を同時に操作する練習はしてきたが俺自身の頭のスペックが圧倒的に足りず、操作可能時間は5秒が限界なので出来ればこの5秒で決着を着けたい。


「「「根性ぉお!」」」


 アバターから見て右側の影人形に向かって同時に攻撃を繰り出した。


「『『……っ!』』」


 流石の英美里も三体同時攻撃は躱す事が出来なかったようで、アバターの槍が英美里の腹部を貫いた。


 思いっきり英美里の腹を突き刺してしまったので心配ではあるが、エルフルズ特性のポーションがあればどんな傷も完璧に回復する事は分かっているので後で英美里に謝ろうと思う。


「……勝った!」


 ここで時間切れ、任意操作を自動操作に切り替えて防御指令に切り替える。


「ごめんな、英美里。痛かったか?」


 突き刺した槍を引き抜こうとするが、英美里が槍を掴んで離してくれない。


「『『『これで私の勝ちですね!ご主人様!』』』」


「は?」


 突如サブ1,2が吹っ飛んで行った。


 突然の出来事に呆気にとられながらも、首筋に当たる冷たい感触により全てを察した。


「マジかぁ……負けたかぁ」


「試合終了ぉー!勝者は英美里ぃー!おめでとう英美里!惜しかったですね、マスター!油断はしちゃ駄目ですよ!」


 自分の都合の良いように解釈して勝ったと思って完全に気を緩めていた。


 新スキルを使って奇襲したにも関わらず俺は完敗した。
























「お疲れ様……いやぁ、強いな!英美里は」


「ご主人様も強かったですよ!最後の最後で油断していなければまだ勝敗は分からなかったと思います!特に最後の攻撃は驚きました、最初とは明らかに違ってサブキャラの攻撃が鋭くて躱せませんでした!最初からあの動きをしていればもっと苦戦していたと思います」


「それは無理だ、あれはとっておきだからな。あの動きが出来るのはまだ精々5秒が限界なんだよ……完敗だな!にしても、三体とも影人形とはなぁ……英美里は何処に隠れてたんだ?」


「作戦が上手くいって良かったです!私は影人形を出した時から、影の中に隠れてました」


「そっかぁ……ていうか、影の中に隠れられるとは知らなかったよ」


「影潜みという新技ですからね!」


 英美里の言葉を信じた時点で俺には勝ち目が無かったように思う、やはり身内とはいえ戦ってる相手の言葉を信じてはいけないんだな。


「……千尋にリベンジ出来そうか?」


「はい!」


 最近は見る事が無かった、英美里の満面の笑みが見れただけで今回の模擬戦大会を開いた良かったと心から思えた。



「ちなみに……今回の模擬戦は俺も結構頑張ったから、ご褒美的な意味で怠惰の魔眼の使用許可は……」


「駄目ですよ!ご主人様!」


 とても良い笑顔で断られてしまった。






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