第108話 夢を追うもの笑うもの35
男として負けられない大事な一戦。
俺は千尋よりも近接戦闘は得意では無いし、純よりも魔法が得意では無い。
二人と比べた時俺はとても中途半端だと言える。
武器を使った近接戦も魔法を使った遠距離戦も二人には遠く及ばないのは周知の事実だ。
それに加えて最近では千尋は剣精、純は水龍という新しい力を獲得している。
だというのに俺が最近出来るようになった事といえば内気功をかろうじて実戦投入出来るかもしれない程度しかない。
気功も中途半端な習熟度でベルや番長の足元にも及ばない。
そんな俺が最近更に強くなった英美里に挑むのだ、それなりの覚悟が無ければ何も出来ずに終わってしまうだろう。
けれど俺だけが持つ優位性というのも存在する。
それがアバターだ。
アバターというのはとても便利な分身で、このアバターが破壊されようとも俺自身が傷付く事は無い。
今までは自分が出来る動き以上の事は殆どしてきていなかったが、今日はそういう訳にはいかない。
人は誰しも自分の体を守る為に体が壊れない程度の力しか発揮できないが、アバターなら体が壊れる限界の力を出したとしても問題は無い。
だから今日は肉体の限界を超えてでも英美里を倒す。
☆ ☆ ☆
ベルの合図で試合が始まった、俺は槍を構えて一気に距離を詰める。
俺は魔法を使った遠距離戦よりも近距離戦の方が得意だし、何より肉体の限界を超えて動いた場合に近距離戦闘ならもしかしたら英美里にも通用すると思うから。
開幕ダッシュで突っ込むが、やはり英美里には追い付けない。
影移動で一瞬にして距離を空けられて、突っ込んだ俺に四方八方から色んな属性の魔法が降り注ぐ。
「カラフルで綺麗だねぇ!」
「お褒め頂き光栄です!」
火の玉、水の槍、風の刃、土の棘、影槍。
英美里が牽制で放ってくる色々な魔法をエルフルズ自慢の一品、ミスリルの槍で撃ち落としていく。
「こんなん勝ち目名無いだろう!」
「本気を出してくださいご主人様!千尋ならこの程度の魔法による弾幕は簡単に突き破って来ますよ!」
千尋には絶対防御の剣精が居るが、俺にはそんな者は居ないので自ら迎撃するしか無い。
距離を詰めようにも影移動で距離を離され、離れれば魔法が撃ち込まれる。
仮に近づけたとしても英美里に力では勝てないし、そもそも近接戦も英美里の方が上手い。
「……詰んでるだろ!これ!」
「油断はしませんよ!」
英美里の魔法の弾幕を俺が全て防げる筈も無く、ダメージが少しづつ蓄積していく。
腹を括るしかない、防御を捨てて突っ込むしかない。
だがそうすると影移動が厄介過ぎる、近付けば英美里は影移動で距離を離してくる筈だ、何か対策をしなければ捨て身で突っ込んだとて何も状況は変えられない。
ここは新スキルの出番かもしれない。
「まだ皆には秘密にしておきたかったけど仕方ない……出でよ!サブキャラ!」
☆ ☆ ☆
俺が加護によって得たスキルの第二段階とも呼べる存在に気付いたのは自分のレベルが200を超えた時だった。
皆を煽ってレベル200を超えようと言った手前、俺自身もレベル200を目標に頑張った、そして先日遂に怠惰ダンジョンで最初にレベルが200を超えた。
だけど最初にレベル200を超えた者にご褒美を上げると言ったのは俺なので、暫くは黙っていようと思っていた。
そしてその時に久々にステータスを見て、驚いた。
今までアバターの項目で取得可能なスキルはもう何も残ってはおらず、他に取得出来るスキルも無い中で俺のSPは貯まる一方だったのだ。
どのタイミングで取得可能な項目が増えたのかは分からないが、俺は有り余るSPを使ってアバターの新たなスキルを取得した。
<サブキャラクター1><サブキャラクター2>
・ダンジョン用アバター同調
・容姿変更
・自動操作
・任意操作
・攻撃指令
・防御指令
・追従指令
・装備模写
・任意地点投入
・サブキャラクター追加
とりあえず追加項目は取得したが、サブキャラクター追加は最初は残2の表示があったのだが、取得したら無くなっていた。
恐らくサブキャラクターは2体作れるという事だと思う。
サブアバターでは無く、サブキャラクターという表記なのは疑問ではあるがこのサブキャラを使えば単純に考えれば俺の戦力は三倍になる。
「とりあえず能力の詳細を調べておこう……ベルにはもうバレてると仮定して……他の皆にはバレないように、山の広場で試してみよう」
深夜にこっそり家を抜け出して一人で山の広場までやってきた、地下広場だと深夜まで誰かしらがレベリングを行っている可能性が高いのでここならベル以外にはバレないだろう。
「まずは……任意地点投入と、自動操作と任意操作の違いからかな」
文字面から察するにサブキャラクターを任意の場所に出現させるのだとは思うが、試してみない事には分からない。
「任意地点投入!」
頭の中で少し離れた場所を意識しながらスキルを発動する。
「おぉ!これは便利だな!」
頭で思い浮かべていた場所に俺に似たサブキャラが出現した。
出現したサブキャラはメインアバターと同様の格好で、しかも武器も同じものを所持していた。
「これは……複製が出来るって事か?」
もしも装備を複製可能なら、かなりヤバイ。
「武器を奪って投げる!……消えた!」
サブキャラが手にしていた武器を奪い取って遠くに放り投げると、武器は消えてしまった。
「ふーん……距離制限なのか、単に武器を奪われたのが原因なのか……遠距離武器で試してみよう」
俺はアイテムボックスから、エルフお手製の弓矢のセットを取り出した。
「……俺が武器を持ち換えてもサブキャラには反映されないのか、もう一体呼んでみるか……出でよ!」
目の前にもう一体のサブキャラを呼び出した。
「こっちは弓矢装備ね……つまりメインアバターが手にしている武器を参照して出現するって事か……取り合えず一回射ってみよう」
とにかく検証するしかない。
「任意操作!……ぐがっ!解除!……これは無理だ」
任意操作を試してみようとしたのだが、頭が割れるように痛い。
これは俺の脳味噌では本体、アバター、サブキャラクターの三体を同時に操るのは現状負荷が掛かり過ぎるという事だろう。
「ふぅー……これは要練習、自動操作なら行けるか?自動操作!おぉ大丈夫っぽい!」
任意操作は今後の課題として、自動操作に切り替えたは良いが特に何も動きが無い。
「……攻撃指令で命令すれば良いのか?とりあえずあの木に向かって矢を撃て、攻撃指令」
頭の中で目標となる木を定めながら攻撃指令を下した。
すると、弓矢を持っているサブ2が弓を構え、矢を番えて放った。
「なるほどね……防御指令」
防御指令は特に何も変化が無い、恐らく俺が攻撃されないと意味が無いのだと思う。
「追従指令」
追従指令も見た目に変化は無い。
試しに少し歩くと、俺の後ろをサブ1とサブ2が着いて来た。
「ほーん……着いてくるだけなら、使う機会無さそうだけど……防御指令」
防御指令に切り替えて再び歩くと、どちらも俺の後を着いてきてくれた。
「追従指令の意義とは……まぁ良いか基本的な事は分かったから、後は……細かい部分とかをチェックしようかな……まずは任意地点投入の限界距離から調べるかぁ……何か、ゲームの攻略みたいで楽しいなぁ!」
その後も色々と気になる事を調べていった。
「良し!朝だ!寝てない!眠くも無い!とりあえず家に戻って飯にしよう!」
寝てない事により、おかしなテンションになっているのは分かってはいるのだが何だか楽しくて仕方が無い。
「偶には何かイベントでも開きたいな……やるか!模擬戦大会!」
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