第100話 夢を追うもの笑うもの27


 迎えに来てくれた白衣姿の美帆に案内されながら、博士と助手ちゃんの居る研究施設へと歩きながら向かっていると美帆が急に振り返った。


「博士と助手ちゃんはとても恥ずかしがり屋なだけなので、無礼な態度に見える事もあるかと思いますがどうかご容赦ください……」


「あぁ、分かってるよ。仮に二人がどんなに横柄な態度を取ったとしても俺は気にしないから安心してくれ」


 二人の性格については軽くではあるが、把握しているつもりだ。


「ありがとうございます!二人とも頭が良くて、真面目ではあるのですが……ほんの少しだけ、人と接する事が得意な方では無いので心配していたんです」


 美帆が再び前を向いて歩きだした、俺はその後をただただ着いて行く。


「まぁ、初対面って訳でも無いし……今日は少しだけでも話が出来れば良いなと思って、来ただけだからさ」


「ふふふ!……さっき拓美様が居た場所の反対側、ここが基本的に私達が使っている第一棟です!」


 美帆が手を第一棟に向けながら説明してくれた。


「普段はこの第一棟で研究してるのか?」


「そうです!残念ながら他の研究施設は今の所使い道が無いので、誰も使ってません……もう少し研究する人材や研究規模が大きくなれば必要になってくるかと思います!」


「ベルの奴、張り切りすぎたな……まぁいつかは必要になるかもしれないし!何より、施設の規模が大きい方が恰好良いからな!」


 大きな研究施設というのは俺の浪漫的に、大いに有りだ。


「では、中をご案内しますね!」


 研究施設というだけあってか普通の通用口と大きな物を搬出入する為の搬入口があって、とても利便性も良さそうだ。


「ありがとう!」


 通用口を通って、施設の中へと足を踏み入れた。


 先ほど俺が居た施設とは違って床は赤い。


 それと物が多く、少しだけ雑然としていた。



「ここら辺は、実験で使った物や実験で作った試作品とかもおいてあるのであまりお手を触れないようにしてくださいね!中には少々危険な物も混ざっているかもしれませんので」


 ガラクタ市のように床や机に雑然と置かれた物を触れないように美帆の後を追いかける。


「……処分はしないのか?」


「ここにある物は不要品という訳では無いので、一時的にここへ置いているだけですので処分はしません。それに本当に不要な物はベル様に念話すればダンジョンに回収して頂いて、DPとして再利用して貰えますので片付けていない訳では無いんです」


「ほぇー便利だなぁ……そういえば、最近はゴミを収集場所に持って行って無いのに見かけないのはベルが回収してくれてるからか……」


 前からゴミはゴミ箱やゴミ袋に纏めてはいたが、気付けば無くなっていたので誰かが回収して捨ててくれてると思っていた。


「もしかして……ゴミ収集業者になれば大儲け出来るのでは?」


 なんという天啓、これが神の神の思し召しか。


 地球では世界中でゴミ問題が発生しているが、ゴミすらもDPに還元出来るのであれば今後はお金とDPに困る事は無くなる。


「そうですね!ですが怠惰ダンジョンの外であまり大っぴらに回収すれば、ゴミの行方が分からなくなってしまって色々と問題になりそうです。なので少量のゴミを少しづつ回収する方が良いかもしれませんね!」


「それもそうか。まぁ今日の夜にでも、純にこの話をしてみるか。色々と危険な事もあるし下手すりゃ国が滅ぶかもな……ゴミが原因で」


 ゴミが怠惰ダンジョンとベルの力で資源やDPに変える事が可能だという事は怠惰ダンジョン以外のダンジョンでも同様の事が可能である。


 もし仮にダンジョンをゴミ処理場として使う輩や国が出た場合、そのダンジョンは急激に成長するという事になる。


「怖いですね……ゴミが原因で一国が滅びるのはとても悲しい事です」


「ダンジョン何ていう未知の存在にゴミを捨てる馬鹿は世界広しといえど、流石に居ないだろうけど……一応は純経由で安相さんに情報を流した方が良いかもな」


 ゴミが原因で国が滅びたとなっては、笑い話にもならない。


「もうすぐ、今私達が良く集まって研究している部屋に着きますよ!」


 歩いてみて改めて研究施設の大きさに驚かされる。


 施設内の通路には多くの扉があり、沢山の部屋がある事が分かる。


 残念ながら中の様子は扉が閉まっていて分からないので、今度来た時にでも探検してみようと思う。


「着きました!ここです!では、どうぞ!」


 美帆が扉を開けて俺を中へと招き入れてくれた。


「ここが……」


 部屋の中は思ったよりも広く、見たことも無い物や用途の分からない物が沢山ある。


 部屋の中央にある大きな作業用の机の上には妹から貰って、英美里に渡したノート型PCが置いてあった。


「博士!助手ちゃん!拓美様が来ましたよ!」


 部屋の奥の壁際の机で何やら作業中だった博士と助手ちゃんが、作業を中断してこちらへと歩いて来た。


 二人とも、美帆と同様に白衣に身を包んでいてとても研究者っぽい。


「お邪魔してるぞ」


「……ドウモデス」


「ん……ゆっくりしていって」


 ぽしょぽしょと小声で早口で喋るのが博士。


 普通に喋るが、口数が少ないのが助手ちゃん。


「研究、上手くいってるか?」


 机の上に置かれたノートPCを指差しながら、二人に質問を投げ掛けた。


 話す内容なんて正直なんだって良い。


 俺の今日の目的は二人と会話をする事だから。


「上手くいってます!もうすぐ実用段階まで行ける予定です!

!このノートPCというのは凄いです!私に興味深い知識を沢山齎してくれてます!電子分野についてはあまり理解が無かったのですが、ベル様が用意してくれた資料や本もありますし、何より実物があるので色々と研究が捗って、楽しくて、毎日嬉しいです!何より、機械を解析したり分析したりしてそれを魔法や魔導へ置き換えたりするのが最高です!私一人じゃ出来ませんが、助手ちゃんとリーダーが居れば機械と魔導の両方の側面から色々なアプローチが出来るので毎日進歩があってとても刺激的です!それからプログラミングも面白いです!これは魔法というよりも、魔導に本当に良く似ていてとても相性が良いです!共通点も沢山あって、機械と魔導でそれぞれ得意不得意もあって、一つの事でも機械でやるのか、魔導で行うのか、色々な選択も出来て、本当に無限の可能性に満ちています!これが最高に私の知識欲を満たしてくれているんです!本当に幸せです!ちなみに私はこのチームでは主にプログラミングが専門なのですが、日々色々な実験や検証を行っています!PC自体の組み立てや部品の開発、改造、製造を手先が器用なドワーフである助手ちゃんが担当しています!リーダーは魔法関連、魔導関連のプログラミングから部品の開発、改造、製造をやってくれています!最近の我々の一番の発見はミスリルの多様性と有用性です!ミスリルという金属はエルフ秘伝の加工法により、色々な金属と似たような性質を持たせられるんですよ!ミスリルという金属は最高の金属です!ミスリルさえあれば他の金属は必要が無いぐらい優秀なんです!ただ、欠点を上げるとすれば重量が軽い事ですね!それぐらいしか欠点が無いのがミスリルなんです!しかも魔導との相性も抜群です!魔力伝導体としての機能もこなせるなんて本当に最高!科学と魔導を融合するにはミスリルという金属は本当に無くてはならない金属です!しかも怠惰ダンジョンでは魔力さえあればスライムから大量のミスリルが採れるんですから、夢のような環境ですよ!こんなにも恵まれた環境にいれば、どんなに馬鹿でも、どんなに愚かでも、凄い物が作れます!ですが私達は妥協する事無く遂に!やっと!満足のいく出来の良い自作の魔科学PCを作りあげました!スペックは保証します!ただ、OSや各種プログラムが完成していないものもあるので、もう数日もあれば……カンセイスシマスノデ……モウスコシジカンヲイタダキタイデス……」


























「頑張ってるみたいでなによりだよ!焦らなくて良いから、無理し過ぎない程度にこれからも研究頑張ってくれ!」


「ハイ」




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