第99話 夢を追うもの笑うもの26


 千尋と純からの定期報告も終了し、ルゼとベルに会いに暴食ダンジョンへと向かう。


 暴食ダンジョンを出ればお嫁ーずが宿泊している旅館へ行くのも大した手間でも無いが、俺の存在と千尋達との関係がバレるリスクを考えれば合宿期間中は会わない方が良い。


「バレるとしても今はまだ早いからな……」


 将来的な展望を考えるのであれば日本の政治界との交流は必要不可欠ではあるし、俺の存在と怠惰ダンジョンやベルの存在というのは信頼の置ける政治関係者に何れは話す時が来るだろうとも思っている。


「……人以外の種族が安心して出歩ける世界にする責任が俺にはある」


 当初の考えでは、自分の理想の生活の為に日本という国だけでも救おうというのが全てだった。


 だが今は違う。


 俺はベルという存在を生み出し、ベルと共にこの世にはまだ存在していなかった人以外の知的生命体を生み出した。


 その事については後悔などある筈も無い。


 けれどいつかは俺も死ぬ。


 そうなった時に俺とベルによってこの世に生まれてきたメイドラキュラ、エルフ、鬼人、インテリジェンスデビル、ドワーフ、彼女らを守る人は居なくなるかもしれない。


 守る事が出来ないのであれば守る必要が無い世界を作ってしまいたいというのが俺の願いだ。


 これから先も生まれるであろう、多種多様な種族が普通に外を歩ける世界を俺は目指したい。


 最低でも日本という国だけでもそんな社会にしてみせる。


「その為にはまずはダンジョンとの共存社会を形成しないとな……」


 ダンジョンとの共存社会には意思を持ったダンジョンコアであるベルとルゼの協力が必要なのだ。




「お邪魔しまーす」


 一応のノックと共にコアルームの扉を開けて、今日もベルとルゼと一緒に眠くなるまで交流を続けた。



 ☆ ☆ ☆



 今日も俺にはこれといった予定は無い。


 朝起きて、ご飯食べて、朝練して、昼ご飯を食べて、もう自由時間。


 学生の時よりも自由な時間を毎日過ごしている。


 外気功の練習も開始したいところではあるが、今は内気功だけで精一杯だ。


 内気功を意識する事無く循環させられるように練習は続けるが、他の事をしながらでも出来る練習なので今日は気分を変えてまだ一度も行った事の無い研究施設とやらに足を運ぼうと思って、地下広場経由で第二階層まで来ている。


「結局第二階層のどのへんに作ったのかする知らないんだよなぁ……」


 研究施設がある事は知っているが博士と助手に遠慮していた事もあって、俺は見た事すらないのだ。



 畜舎では今日も番長率いる鬼人娘衆が家畜の世話をしている。


 丁度良いので番長に研究施設の場所を聞く事にする、ベルに念話で聞くなり案内してもらった方が早いのは間違いないのだが俺だって偶にはダンジョンを散歩がてら散策したい。


「番長ー!研究施設ってどっちにあるんだー?」


 遠くの方で作業している番長に大きな声で話し掛けた。


「施設は向こうにあるっすー!」


 番長が指して研究施設の場所を教えてくれたのでそっちに歩いて向かう事にした。


「ありがとー!仕事頑張れよー!」


「りょーかいっすー!博士と助手ちゃんは恥ずかしがり屋だからあんまり構い過ぎないように気を付けてくださいっすー!」


「はいよー!」


 博士と助手ちゃんこと、インテリ悪魔とドワーフの二人とは殆ど会話を交わした事が無い。


 最初に会って以降は偶に地下広場でスライム相手に実験やレベリングしている姿を遠巻きに見掛けただけなので、二人と上手くコミュニケーションを取れるかが不安だ。


「……まぁ美帆も一緒に居るだろうから、大丈夫だろ!」


 今日の目標は博士と助手ちゃんと一言以上会話する事と、この間地下広場で実験していた魔法銃を冒険者協会の新人用にいくつか作成してもらう事にして、番長に教えてもらった研究施設のある方へと散歩気分で歩いて行く。



 ☆ ☆ ☆



 暫く歩いていると湖の側に何やら建物らしき物が視界に入った、今までは木に隠れて見えていなかったそれは高さこそ然程では無いが横幅は随分と大きく見えた。


「あれか?……にしてもこんな森の中に建ててたのか」


 明らかにコンクリート製で出来たそれは、森の中に隠された怪しげな実験施設のようで少し不気味だ。


「これは絶対ベルの趣味だな……」


 恐らくホラーテイストな不気味な建物にしたかったであろう研究施設の周りを歩いて、どれ程の規模なのか調べていく。


「……施設って一棟だけじゃないのかよ!」


 周囲を歩いてみて分かった事はこの施設群は全部で6棟あり、

五角形を描くように配置されていて中心には少し小さめの建屋があるという事だ。


「こんな規模の施設作ってたのか……本気だなベル」


 ベルの本気度がどれ程のものかが窺えるレベルの規模に驚きと呆れを感じながら、入り口から中へと入っていく。


「何か良く分からんものばっかりだな……というか博士と助手ちゃんは何処の建物に居るんだろうか?」


 見たことも無いような機械や工具、実験に使いそうな物品が色々と棚や机に置かれているがこの建物内には人の気配が全くない。


「うーん……美帆に念話した方が早いか……」


 いきなり博士と助手ちゃんに念話を掛けるのは少し躊躇われるのでひとまず、一緒に居るであろう美帆へと念話を掛ける。


『リーダー?今何処に居る?』


『もしもし美帆です。拓美様、何か御用ですか?今は施設の第一棟で魔科学パソコンのOS開発しています。』


 急にリーダーから、拓美様と呼ばれてドキリとする。


 名付け以降リーダーは児玉様以外の呼び方をされる事も増えたのでまだ少し慣れない。


『いや、実は今研究施設に来てるんだけど……俺もそっちに行っても良いか博士と助手ちゃんに聞いてくれないか?』


『博士と助手ちゃんにですか……分かりました!』


『頼む』


 いきなり行くのもどうかと思ったので、念話ついでにリーダーに聞いてもらう。


『拓美様、来ても良いそうです。第一棟が何処か分かりますか?』


『分かんない!』


『では、私がお迎えに参りますのでそこで少しお待ちください。それと、床の色をお教え頂けますか?』


『床の色は……青だな』


『すぐにそちらに参りますね!では!』


























「なんで床の色なんて聞いてきたんだろ……」


 床の色で俺が何処にいるのかが分かるようにでもなっているのだろうかと考えてみるが、、まだ他の棟に行ったことが無いので考えた所で答えは出ない。


「お待たせしました!早速、第一棟へ向かいましょう!」


 白衣姿のリーダーに目を奪われつつもリーダーの後を大人しく着いて行った。


「っっぱ!エルフが最高なんだよなぁ……!」



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