第5話 帰宅


なるべく顔を見られないよう、下を向いて歩いて帰った。

歩きながらスマホをいじるなと以前注意されたけれど、今はやむを得ない。

あれだけ人を集めたのだ。顔も覚えられているに違いない。


どうにか家までたどり着いて、玄関を開けた。

お姉ちゃんが険しい表情で立っていた。


「おかえり。帰ってきたところ悪いが、話がある」


言い訳する前に、スマホで動画を見せられる。

サンタが斧を片手に暴れ回り、警備員をなぎ倒す。

私が変身し、杖を取り出して戦っている。


案の定、SNSで動画が上げられてしまった。

本当に情報が回るのが早い。いつ見られてもおかしくはなかった。


「で、これは何だ?」


ドスの利いた声と眼鏡越しの視線が鋭くなった。

普段の声が低めだから、怒る時は余計に怖い。


「私です」


「それは知っている。一体、何があった?」


少しだけ声が柔らかくなった。

つい数時間前のできごとを事細かく説明した。

冷静になって考えてみると、自分でも信じられない話だ。

まさか変身してサンタを倒す日が来るなんて、誰が思うだろうか。


しかし、何を言っても動画がある以上、言い逃れはできない。

変身した魔法少女は私だし、サンタを倒したのも私だ。


『待って待って! ボクが勝手に巻き込んだだけなんだ!

彼女は何も悪くないんです!』


カバンから携帯が飛び出した。

それを見て、少しだけ引き下がった。


『彼女を変身させたのも武器を与えたのも、全部ボクなんです!

どうか許してくれませんか!』


眉にしわを寄せて、携帯をじっと見つめる。


「この中にいるのが、例の宇宙人か?」


「宇宙人というか、ストラップの魂というか、私にもよく分からないんだけど。

とにかく、この人が手助けしてくれたの。よその星の技術を使ったんだって。

それでね、あのサンタもその星の兵器の仕業なんだって」


「私の家族を危険なことに巻き込んだことについては、一旦置いておこう。

それ以上に、聞きたいことが山ほどあるんだ。

今すぐにでも事務所に来てもらいたいところなんだが……その手間が惜しい。

なので、ヘレン。しばらくこれを借りる」


宙に浮かんでいる携帯を乱暴につかみ取った。

話の流れが一気に変わった。


「すまないが、友達との連絡は後回しにしてくれないか?

今はどうしても、この人と話がしたいんだ」


「別にいいけど……」


予想外の展開に拍子抜けしてしまった。

お説教されると思って覚悟していたのに。

私の考えを見透かしたように笑った。


「まさか、怒られると思ったか?」


「ちょっとだけね。

野次馬もいっぱいしたし、すごいことになってたから」


「それなら心配することはない。

さっき見せた動画は、うちで解析してもらったものだ。

実際の動画は自分の目で見てみるといい。

自分が思っている以上に、すごいことになっているんだ」


さらに楽しそうに笑う。どういうことだろう。

あの衣装に何か仕掛けでもあったのだろうか。


「ところで、あれだけ派手な戦闘だったんだ。

大きなケガとかしていないよな?

慣れないことをして、変に傷でもできたりしたら大変だからな」


「そのへんは大丈夫だよ。

ただ、かなり疲れちゃったのは確かなんだよね」


「だろうな。とにかく、細かいことはまた明日話そう。今日はゆっくりと休むんだ」


「分かった」


「逃げようとしても無駄だからな。私を誰だと思っている?」


お姉ちゃんはかなり力を込めて携帯を握っている。

中の人が一生懸命に抗っているのが目に見えるようだった。

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