第4話 必殺技
「流れる星の声にひれ伏せ!」
杖を振りかぶると、ぶつぶつした塊が現れた。
虹色に尾を引きながら、サンタへぶつかっていく。
鈍い音を響かせながら、あおむけに倒れた。
野次馬たちから拍手や歓声が上がる。
「これでどうかな? 大丈夫かな?
もう一発くらい、加えたほうがいいかな?」
『それよりも! アイツの種を取ったほうがいい! そっちを優先して!』
「分かった!」
杖を掲げると飾りの星が輝き始める。
サンタの身体から羽の生えた球のような何かが抜け出て、星の中に納まった。
「これで、終わった……?」
起きてくる気配はない。冷静になると、周囲の惨状が目に入る。
何もかもがめちゃくちゃに破壊され、白い目を向けられている。
スマホのカメラは私を追いかけ、ずっと記録していたに違いない。
「こういうときは逃げるに限る!」
人目の付かない場所まで全力で走り去ったのだった。
***
「えっと、それであなたは何なの? 本物の幽霊なの?」
走っている間に元の姿に戻っていた。
勝手に解除できるものだったらしい。
『ボクは憂鬱の種を生まれたストラップの妖精だよ。
じっくり説明するから、よく聞いててね』
憂鬱の種とは、地球からはるかかなたにある惑星で開発された生物兵器だ。
植物の種に似ており、「触れたものすべてに寄生し、それが持つ本来の能力を引き出す」程度の能力を持つ。
雑貨屋の隅にあるストラップに寄生したはいいが、その能力を発揮できずにいた。
憂鬱の種により、道具に意志が生まれた。
この種を誰かが地球に持ち込み、世界中にばらまいたことを知った。
どんな物にでも侵入するその力は、地球に住む人たちにとって限りなく危険だ。
店員によって廃棄され、この世から消えればそれでいいと思っていた。
道具としての使命より、兵器の廃絶を望んだ。
しかし、ヘレンが目ざとくストラップを見つけてしまった。
ストラップという道具は、誰かが可愛がるために生まれたものだ。
彼女好みの姿に変化し、その手に渡ってしまった。
「最初からあの動物じゃなかったってこと?」
『アレはもう、かなりサイアクだったね……。
あの姿で売り出そうとした人間の気が知れないよ』
「じゃあ、あのサンタは? ただの犯罪者になっていたけど」
『それも種の仕業なんだ。
生物に侵入した場合、そいつの欲望を叶えようとする。
多分、クリスマスがよっぽど気に入らなかったんだろうな』
本来の能力を引き出すということは、自分の欲望に忠実になるということだ。
クリスマスをきっかけに付き合い始めるカップルや楽しそうにしている人々に嫉妬していたということだろうか。
「私が変身したのは? あの時、そんなことは考えてなかったんだけど」
『それはボクの願望だ。種を製造した惑星の技術を借りたんだ。
ああでもしないと、アイツは止められないと思ったから』
どんな物でも侵入できる兵器を製造できる惑星だ。
気軽に変身できてもおかしくはないのだろう。スターゲイジーというのもその星で流行っている衣装のひとつで、その名前を呼ぶと装着できるようだ。
「何から何まで助けてもらっちゃった。ありがとね」
『お礼なんてとんでもない。
今、荷物も渡すから待ってて』
光り輝きながらバックが下りてきた。
これでバイト先に戻ることもなくなった。
一安心し、帰路についたのだった。
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