第3話 変身


ゆっくりと目を開いた。

きらきらと輝き放ちながら、携帯が浮いている。


『ごめんね。こんなことに巻き込むつもりはなかったんだ。逃げる時間くらい作れるかと思ったけど、時間稼ぎにもならなかったや』


画面に文章が送られていた。


「……あ、そうだ! あのストラップ!

壊されちゃったけど、大丈夫なの?」


「お嬢ちゃん、その携帯電話を渡してくれないかなぁ? 

そうしたら、もう何もしないからさ」


『アイツの話を聞いちゃダメだ!』


サンタは手招きし、携帯はアラート音を響かせている。

どうすればいいのだろう。

携帯を渡せば見逃してくれるかもしれないけれど、この中にいる誰かを見捨てることもできない。


大体、そう簡単に渡せるものか。

高校の入学祝いでようやく買ってもらったものだ。

幽霊に取りつかれようが、関係ない。


「あの、さっきから何なんですか!

急に暴れだしたと思ったら、人の物まで壊しておいて!

こんなのパーティでも何でもありません!」


携帯の画面をサンタに向けると、まばゆい光に包まれた。


「数多の星々を司る魂よ! 星霜の道を超え、我が言葉を聞き届けよ!」


脳内になぜか言葉が浮かび、勝手に口が動く。

もちろん、私の考えたそれではない。


サンタの言っていた、宿主の意味をはっきりと理解した。

携帯の中にいた誰かは、何かに憑りつかないと生きていけないんだ。

まるで幽霊か何かみたい。


「我が名はスターゲイジー! 星を見つめる者!」


幽霊に乗っ取られた人形みたいに、ポーズを決める。

フリルがふんだんについたワンピース、白いグローブ、ふわりとゆれる長い髪と体中から湧き上がる力。まるで私じゃないみたい。


「えっと……何これ?」


とりあえず、謎の力で着替えさせられたのは理解できた。

携帯も勝手につけられたポーチに収まっている。

そのスターゲイジーなるものに変身したということだろうか。


「さあさあさあ! ついに主役のご登場だァ!

聞いて驚け見て笑え! これぞ憂鬱の種の本質だァ!」


サンタは嬉しそうに斧を振り回す。

まずは、被害が出ないように人のいないところへ逃げる。


店を出た瞬間、ここぞとばかりに野次馬がカメラを向けていた。

サンタの暴走が思っていた以上に広まっていた。


「これだからパーティはやめられない!

人数が多ければ多いほど楽しいからね!」


サンタの笑い声がより一層響く。距離を保ちつつ、逃げ回る。

自転車が壊され、街路樹が倒れる。


「ちょっと待って、どうすればいいの!」


『イメージして! 星たちは必ず応えてくれる!』


どこからか声が聞こえる。

イメージか。えっと、どんなのがいいかな。

あれこれ想像しているうちに、手の中に杖が現れた。


「おわぁ! 何か出た!」


星の飾りがついた杖を構える。

オレンジのリボンがひらりと舞って、サンタの斧を受け止める。

見た目からは想像できないような音が鳴ってもびくともしない。


「これなら、どうにかなるかも!」


武器があるのとないのとでは大違いだ。

これでようやく、まともに戦える。

ただ、武器が与えられたとしても、中の人に変化はない。


斧を何度も受け止めつつ、こちらも杖で応戦する。お互いに決定的な一打を与えられないから、じりじりと時間が経っていく。

サンタが戦闘に慣れているからか、追い詰められているのも確かだ。


「なんか必殺技とかないの?」


『考えてみて、今一番必要なものは?』


今私に一番必要なものか。

当たったらただじゃ済まなさそうな確実な一撃だ。

導き出された答えは、ひとつだった。

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