第2話 サンタ狩り
「クリスマスケーキはいかがですか~」
店内にいる客に声をかける。
ショーケースの前に立ち止まり、ケーキを眺める人が多い。
この時期はケーキが特に売れる。
専用のスペースを設けるあたり、重要性がよく分かる。
特にショートケーキが飛ぶように売れていく。
真っ赤な苺と白いクリームは見ているだけでよだれが出そうだ。
入り口付近にあるスペースでも、サンタクロースが子どもたちに囲まれている。
慌てん坊どころの騒ぎではないけど、これも大切なことなのだろう。
彼は彼で長靴に詰め込まれたお菓子を販売している。最近流行っているアニメの絵柄が描かれており、見つけた子どもたちは親にねだっている。
「さあさあ、よいこのみんなに質問だ。
どうして僕は、ここにいるのでしょーか!」
その場でステップを踏んでみせる。
後ろには白い袋が置いてあるが、客に配るわけでもないらしい。あくまで雰囲気を出すために用意したもののようだ。
「おしごとだから!」
「クリスマスだからー!」
「プレゼントくれるんでしょー?」
大声でそれぞれ答えを言う。
ニコニコと楽しそうだ。
「答えは全部だ! くたばれガキ共が!」
白い袋から斧を取り出し、客に向ける。
ぽかんとしている子どもたちを抱え、親は逃げる。サンタらしからぬ高笑いが響く。
「このご時世に外出するほうが悪いに決まってんだろォが!
大人しく引きこもってろ、馬鹿どもが!」
斧を振り回し、商品やツリーを破壊していく。
そういう演出というわけでもないらしい。
人々は遠巻きにカメラを向け動画を撮ったり、どこかへ連絡している。
避難することも忘れ、暴れ出したサンタに釘付けになった。
駆けつけた警備員が押さえ込もうとする。
「呼んでもねえのにしゃしゃり出んじゃねえ! ひっこんでろ!」
斧を片手に警備員を倒す。
赤い血が飛び散り、軽々と吹き飛ばされる。
「どこにいるのかな~? 隠れてないで出ておいでよ~!
主役の君がいないと話にならないんだよ!」
まるで現実味がない。映画か何かみたいだ。
ただただ、ショーケースの前で立ち尽くしていた。
「え、あ、ちょっと!」
視線を何かが横切った。
私の前へ飛び出て、まっすぐにサンタへ向かっていく。
昨日買ったストラップであることに気づいたのは、サンタに攻撃を始めてからだ。
攻撃といっても、背中に体当たりするだけだ。
柔らかい素材でできているからか、ダメージもほとんどない。
「うっとうしいと思えば……ようやく見つけたよォ!
楽しいパーティの始まりだ!」
後ろを振り返りながら、斧をまっすぐに振り下ろす。
ストラップは真っ二つに切れた。
「こんなもんじゃないだろ! とっとと宿主を連れてこいよォ!」
サンタはなお笑い続ける。狂ったピエロみたいに斧を振り回す。
ストラップがいとも簡単に破壊されたショックで混乱している中、マヌけなBGMが響いた。
「やっば……!」
マナーモードにするのすっかり忘れてた!
またお姉ちゃんに怒られる!
「お嬢ちゃん、さっきから何を見てるんだい?
パーティーは始まったばかりだよ?」
サンタがゆっくりとこちらへ歩み寄る
赤い服に大きな鎌を持った姿は、さながら死神のようだ。
明らかに人間を狩る姿をしている。
「そんなに見たいなら見せてやるよォ!」
サンタが鎌を振り下ろした瞬間、金属音が響いた。
再び着信音が響く。
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