サンタ大戦2020
長月瓦礫
第1話 クリスマス
木々にイルミネーションが巻かれ、クリスマスソングが流れ出す。
25日を過ぎた途端に正月の準備に入るのだから本当に忙しい月だ。
どうせ休みなのだから、もっとゆっくり過ごしたい。イベントが目白押しなのも楽しいことに変わりはないし、このカオスな感じも他の国では味わえないのだろうけど。
雑貨店の前に置かれたツリーは赤いりぼんや金銀のボール、小さなフィギュアで飾られていた。やっぱり、これがないとクリスマスじゃないよね。
ツリーに導かれるように、私は店内へ足を踏み入れた。
来年のカレンダーやお正月用のポチ袋、冬用の雑貨など、様々な商品が置かれている。クリスマスに紛れるお正月グッズを見ると、一年の終わりを感じる。
隅の籠には割引コーナーと書かれた札がつけられてていた。
ロクな商品がないのは分かっていても、つい覗きたくなってしまう。
「何これ〜」
静かに笑い声を漏らした。丸っこい耳をつけた灰色の小動物らしき何かだ。
何をモチーフにしたのかはよく分からないが、不揃いな顔が何とも可愛い。
散々な扱いを受けたようで、値札もしわくちゃになっている。
「たまには、いいよね。こういうのも」
無駄遣いしないようにと注意を受けているが、今日くらいは許してくれるはずだ。
「お姉ちゃんのは……うん、これで決まり!」
シンプルなスケジュール帳を手に取った。
日常的によく使うものを贈った方がいい。
使っているところを見ると、自分も嬉しい。
値札の状態があまりにも悪すぎて対応に手間取ったこと以外をのぞけば、悪くない買い物だった。
「ただいま〜」
「おかえり、ヘレン」
「あれ、早いね。どうしたの?」
オレンジの髪をポニーテールにまとめ、フレームのない眼鏡をかけた女性が出迎えてくれた。高校が遠くなったので、年上のいとこの元で暮らすことになった。
6つも年が離れていて、幼い頃から本当の姉のように接してくれた。
親元を離れる私を快く受け入れてくれた。
小言が多いのも昔と変わらないのも、何だか嬉しかった。
しかし、ひとつだけ気になることがあるとすれば、未だに職業が分からないのだ。
仕事の量が多いのか、早く帰ってくることがまず難しい。
学校から帰って来ても一人で夕飯を食べることが多い。
いわゆるブラック企業に勤めているんじゃないかと思った時期もあったが、そういった場所でもないようだ。
社員の待遇は決して悪いわけじゃないし、人間関係も良好なようだ。
「今日はめずらしく何事もなかったんだ。
夜勤組と交代しても問題なさそうだったから、早く帰って来た」
「そうだったんだ」
「毎日こうだといいんだけどな。何事もないのが一番だから」
ため息をついた。本当に何をやっているんだろう。
「今日もバイトか?」
「うん、そう」
「この時期になると、変な連中が増える。
夜間は特に、気をつけるように」
「分かった。お姉ちゃんも気をつけてね。
そうだ、ちょっと早いけど、これ」
「そうか。もうクリスマスか……一年が経つのは本当に早いな。
ありがとう、大切にするよ。夕飯は何がいい?」
「いいよ、そんな……疲れてるんじゃないの?」
「いや、大丈夫。たまには私がやる」
自分でやると言い出すと、人の話を聞かない。
昔から変わらない。
その頑固さが社会で役に立っているのだろうか。
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