第6話 憂鬱の種
SNSに上がっている動画を見て、私は膝から崩れ落ちた。
サンタと戦っているのは、目鼻が整った美少女ではないか。
自分じゃないみたいだとは思ったけど、こんなことになっていたんだ。
お姉ちゃんの笑顔の意味がようやく分かった。
確かにこれは、笑うしかない。
今日はお姉ちゃんがランチに連れて行ってくれるので、あらかじめ予定を空けておいた。しかし、昨日の騒ぎでそれどころではなくなった。
「それで、どうなったの?」
二つのカップ麺を挟んで、互いに向き合う。
私の携帯は何も反応を示さない。
「まず、彼にはここに移動してもらった」
カプセルのような何かを取り出す。
スイッチを入れると、ピコピコと緑の光を点滅し始めた。
『よかった、ようやく喋れた! 昨日は大丈夫だった?』
「お風呂入ったら、眠気がすごくて……すぐに寝ちゃった」
『そうだったんだ!
この人ってばすごい強引でさ、携帯からここに無理やり入れられたんだ』
「そういう取り決めなんです。
特に、憂鬱の種の対処は厳重にしているんですよ」
「何か知っているの? その兵器のこととか」
「一応な。ただ、私からは必要最低限のことしか話せないんだ。
それでもいいか?」
「分かった」
この宇宙兵器は関東のほうで出現し始め、すでに対応も完了していた。
兵器を持ち込んだ犯人も見つけており、すべて終わったと思われていた。
だが、その話は昨日ですべてひっくり返った。
あのサンタ騒動がすべてのきっかけとなった。
憂鬱の種の侵略はまだ終わっていなかったのだ。
お姉ちゃんはこういった侵略兵器などを取り締まる仕事についており、潮煙に憂鬱の種を持ち込んだ犯人を追うことになった。
「そんな危険な仕事をしていたから、あまり話さなかったの?」
しなかったというか、できなかったと言えばいいのだろうか。
潮煙は昔から妖怪などの異種族が多いと聞いてはいたけれど、身近な人がそれに関わっているなんて思ってもみなかった。
「そうだな。巻き込みたくなかったのと、変に興味を持たれたくなかったんだ。
何かあってからじゃ遅いからな。だから、できるだけ避けていた」
ブラックどころの騒ぎじゃないというか、どうしてこの仕事に就こうと思ったんだろう。私の知らない間に、何かあったのだろうか。
「憂鬱の種の話もあらかた聞き終えたし、後はうちで調査を進めるだけだ。
彼をどうするか、これが問題なんだ」
「お姉ちゃんのところで預かればいいんじゃないの?」
「その預かる方法が、このケースに閉じ込めておくことなんだ。
一度封印されてしまえば、もう二度と動けないだろうな」
『えっ、ちょっ、知ってることは全部話したのに!
完全にブラック企業じゃないか!』
「見ての通り、こちらの思っている以上に意志を持っている様なんだ。
だから、手に負えないというか、なんというか……」
コオロギでも噛みつぶしたような、渋い表情を浮かべた。
ここまで困らせるなんて、昨晩は何を話していたんだろう。
「じゃあ、私が持ってていいの?」
「……昨日のような騒ぎに巻き込まれるかもしれないんだぞ」
一瞬だけ、部屋が静まり返る。
昨日の騒ぎは、彼の手助けがあったからだ。
「戦うのは私ひとりじゃないもの。一緒なら怖くないよ」
「そうか。緊急事態以外にあの技術は使わないこと。それでいいな」
『ありがとう! これからもよろしくね!』
私よりも先に礼を述べる。
これからどんなことがあっても、乗り越えていける気がした。
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