006 閑話「エンとスイ」

「スイ、入るよ……?」


 ほんとに大丈夫かな……。


「ど、どうぞっ……」


 はぁ……スイは今日もかわいいなぁ……。


「あれ、エンくん、その恰好どうしたの?」

「こ、これはゼクスに無理やりやられて……」


 ほら……、やっぱり変だと思われたじゃないか……。

 めっちゃ見てくるし、恥ずかしい……。


「エ、エンくん」

「な、なに?」

「なんかカッコイイねっ……」


 ニコッと笑うスイがかわいい……。


「あれ、……ん? 今なんて……」

「エンくん、なんだかカッコイイね♪」

「え……えっ? 変じゃない?」

「変じゃないよ?」

「そ、そっか……」


 ゼクスのやつ……やるじゃないか……。


「わ、私も……前髪あげてみようかな……」

「いやいや! スイはそのままでいいよ!」

「でも……」

「スイはそのままがいい!」

「エ、エンくん……近いよ……」

「ん……」


 気付いたらスイの顔が目の前に!

 照れたスイの顔が目の前に!


「あわわ! ごご、ごめん!」


 勢いでスイの肩に触っちゃったよ……。


「な、なんだか、エンくんいつもより元気そうだね……♪」

「そ、そうかな?」

「うん♪ ゼクスさんとアリシアさんが来てから、その……嬉しそうだよ♪」


 笑顔が……スイの笑顔が眩しい……。


「あ、エンくん……」

「な、なに……」

「ほっぺになんか付いてるよ?」

「え、どこ――」

「ちょっと待ってね」


 近寄ってくるスイに思わず後ろに下がる。


「動いちゃダメだよ……?」

「え、スイ、なにを……――んんっ⁉」


 スイの手がほっぺに……!


「ふぅ……取れた……♪」

「あ、あ、あり……ありがと……」

「エンくん、顔が真っ赤だよ?」

「なっ……そんなことない……」

「でも……」

「なっ⁉」

「ほっぺた熱いよ……?」


 スイの手がぁあああ!


「エンくん?」

「あ、あわわ……」

「エ、エンくんっ……!」


 あわわ……スイの冷たい手が両頬にっ……。

 恥ずかしい! 恥ずかしくて死んじゃう!


「大丈夫?」

「だだだ、大丈夫! 大丈夫だから!」

「でも、熱があるかも……」


 スイが片手で前髪を上げて――あ、前髪を上げても可愛い……。


「ちょっと、じっとしててね……」

「え――」


 次の瞬間、スイのおでこがピタッと僕のおでこにっ――――


「うーん……やっぱり、熱いね……風邪かなぁ……」


 ……。


「エ、エンくんっ……どうしたのっ……」


 ……。


「エ、エンくんから湯気がっ……ど、どうしよう……!」


 ……。


「と、とりあえず寝かせないとっ……」



 ***



「うぅ……」


 おでこがひんやりして気持ちいい……。布団もなんかいい匂いがする……。

 あれ……っていうか、いつの間にベッドに――


「あ、良かったぁ……エンくん起きたっ……」

「スイ……? あれ、ここは……」


 起き上がろうとする――けど、おでこをスイに押さえられているみたいだった。


「あっ、動いちゃダメ……エンくん、立ったまま気絶してたんだから……ゆっくりしててっ」

「立ったまま気絶?」

「そうだよ? すごい熱くなってたから、ずっと冷やしてたの……」


 そういえば、スイにほっぺた触られておでこもくっつけて――


「はわわっ……! もしかしてここスイのベッド……」

「うん、そうだよ?」

「んなっ……! ご、ごめん! すぐ起きるから――」

「あぁもうっ……動いちゃダメだよっ……」

「うぅ……」


 覗き込んでくるスイの顔が近い……。

 こんなの恥ずかしくて死んでしまうぅ……。


「あれ、また熱くなった?」

「た、たぶん気のせい、だよ……」

「でも、顔が赤いよ?」

「これはその……」

「ん?」


 前髪が浮いてスイの青い瞳が目と鼻の先にっ!


「ス、スイ……顔が近い……近いよ!」

「ひゃわっ……ご、ごめんねっ……エンくんの目が赤くて綺麗だなって、思ってたら……ご、ごめんなさいっ……」

「そ、そんなに謝らなくていいよ……」

「う、うん……ごめんなさい……」

「謝るなってば」

「あ、そっか……ごめ――」


 言いかけた口を片手で防いだスイと目が合って、気がつくと一緒に笑ってた。


「ふふっ……なんか、私っておかしいよね……」

「お、おかしくなんかないよ!」

「でも、みんなと違ってうまく話せないし……」

「そんなの関係ないくらい、スイはみんなのために頑張ってるだろ」

「でも、エンくんがいっつも手伝ってくれてるし……」

「そ、それは……」

「エ、エンくん……あのね……その……」

「ん?」


 下を向いてもじもじするスイをそっと見つめる。

 唇を噛みしめてスイのほっぺが赤くなっていた。


「その、あの……」

「な、なんだよ……」


 こっちまで、なんだか恥ずかしくなるじゃないか……。


「いつも、手伝ってくれて、ありがと……」

「……お、おう」

「えへへ……やっと言えたっ……」

「そ、そっか……」

「うんっ♪」


 ……。

 ゼクス……。

 ありがとぉおおおおおおおおおおおお!

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