004

「りゅーじんしゅ?」

「ああ、酒場には出回らないお酒だよ」

「さかば?」


 ペコッと首をかしげるフウ。


「ああ、えっとな……こういうのがたくさん置いてある場所だよ」

「たくさんあるの?」

「ああ、色々な種類の酒があるぞ」

「のみたいっ」


 フウが目を輝かせて見つめてくるがまだ子ども――あれ、年齢的には問題ないのか? 人ではないし問題ないのか?


「ぜくす、のみたいっ」

「……」


 子どもみたいだが、魔物だもんな……。

 力を取り戻したらまた大きくなってしまうんだろうか……。

 それはそれで寂しい……。


「ぜくすー、のーみーたーいー」


 服を引っ張ってフウが甘えてくる。

 謎だらけの材料で料理を作られ続けるのも怖いし、そろそろ買い出しにでも行こうか。

 そのついでに適当に酒を買ってくればいいか。


「んじゃ、買い物しに町に行くか?」

「いくいくー」

「よし……」


 アリシアは寝てるし、マオはあの恰好で一緒に行くのはきついか……。

 スイとエンは……今どうしてるんだろうか。


 他にまともな恰好してる子と言えば――――

 フウがいつも通り背中にくっついたまま、ライの部屋をノックして。


「ライ、居るか?」

「居るよー!」


 扉を開けて出てきたのはいつも通りのライ。


「お兄ちゃんにフウもどうしたのー?」

「ちょっと外に出ようかと思ってな。ついてくるか?」

「え! いいの⁉」

「いいんじゃないかな?」


 一応、マオにはひと声かけた方がいいのか? いや、大丈夫だろう。


「やったー!」


 勢いよく抱きついてくるライ。

 自然と頭に手が……。


「よしよし、そんなに嬉しいのか?」

「えへへ……♪ だって、お城から出たことないもーん!」

「……え?」


 衝撃の一言に、撫でていた手がピタッと止まる。


「ん?」

「二人とも城から出たことないのか?」

「うん!」

「そうだよ?」

「まじか……」


 だから純真無垢なまま成長してきたんだな……。

 なにか無邪気な感じがすると思えば、そういうことだったのか……。


「ぜくす?」

「お兄ちゃん?」

「よし、俺が町のいい所を教えてやろう」

「わーい!」

「やたー」


 フウは相変わらず背中に、左側に居るライは嬉しそうに手を繋いで……。

 いざ、城の扉を開ける。


「おお、今日は天気がいいな」

「ふんふふーん♪」


 ライはスキップしながら楽しそうにして、フウは――


「フウ……」

「ふぁい」

「なぜ耳を甘噛みしているんだ……」

「あまふぁみ?」

「咥えたまま喋るな……」


 フウは本当に分からん……。


「はーい」

「そういうことはしちゃダメだぞ」


 ぽんっとフウの頭を撫でながら優しく伝える。


「おいしいかなっておもって」

「だからって耳を甘噛みするな……、あと俺を美味しいかどうかで見るんじゃない……」

「はーい?」


 分かっているのか分かっていないのか……。


「とにかく行くぞ――」

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

「ん、どうした?」

「なんかでっかいの居るよ!」

「うん?」


 ライが指差す方向、塀の向こうに確かに黒く大きな影があった。


「あれマオちゃんかな!」

「いや、どう考えても違うだろ……」


 マオと戦った時でもあそこまでは大きくなかった……と思う。


「でも、一番強かった時のマオちゃん、あんなんだったよ?」

「そんな時期があるのか……」

「うん!」


 ああ、ライの笑顔が可愛い……。


「まぁ、とりあえず近付いてみるか。敵かもしれないからフウとライはここに――」

「やだー」

「く、首が締まる……フウやめ――」

「ライもやだ!」


 左手をぎゅっと掴んで放さないライ。


「ちょ……死ぬ……フウ……放せ……放してくれ……」

「はーい」

「はぁ……はぁ……!」


 戦って死ぬんじゃなくて首を絞められて死ぬなんて御免だぞ……。


「ぜくす、だいじょうぶ?」


 首を絞めた当の本人が、なぜか俺を撫で始めた……。


「大丈夫だ……、とにかく、なにかあったらすぐ離れること。分かったか?」

「うん!」

「はーい」


 緊張感のない二人にため息がもれる……。

 ひと呼吸したあと、黒い物体に近付いていく。


 立派に生えた角に筋肉質な体、色黒な肌に見下ろしてくるような体格。姿も雰囲気もまさしく魔王だった。


「ゼクスとは貴様か?」


 低く唸るような声で問いかけてくる魔王らしき男。

 なにか見覚えがあるようなないような。


「……そうだが」

「ふむ、子連れか……腑抜けた剣士め……」

「いや、そういうわけでは――」

「我が愛しい娘をよくも手にかけてくれたな……貴様の子らも闇に葬ってくれようぞ……」


 怒りを前面に出され、気迫で押さえこまれるような感覚……。今までの連中とはレベルが違う。


「クソッ……どうやら本気のようだな……」

「我が子を殺された想い……貴様にも教えてやる……」

「チッ……なにを言っているのか分からんが子どもに手をだす気かよ……」

「貴様に言われたくはないわ!」


 血眼で睨みつけてくる迫力、両手の拳をバキバキと握り締めて……戦う気満々じゃないか。


 ――ん? 愛しい娘? 我が子?


「ま、まぁ……。フウとライに手を出すなら容赦しないぞ……」


 なんか引っかかるが、この違和感の正体は――


「あ! よく見たらマオちゃんのパパだー!」

「ぱぱだー」

「なに……マオのことを知っているのか?」


 目を見開いて驚いた様子の魔王らしき――


「あ、お前、玉座の似顔絵の……!」

「なに……?」


 ああ、思い出したらスッキリした……。


「ライ、マオちゃんに教えてくるー!」

「あ、おい!」

「フウもいくー」


 トコトコパタパタと二人が仲良く城の方に走っていく。


「はぁ……まったく……自由だなぁ……」

「おい、貴様、どういうことだ」

「どういうことって言われても……長くなるぞ……」

「構わん」


 ――マオの父親(?)に今までの流れを説明する。


「――ほう、ならば娘は生きているのだな……」


 座り込んだ魔王は優しい表情を浮かべていた。


「ああ、俺も可愛い子たちを殺さずに済んでよかったよ」

「そうか……、娘が世話になった」

「いや、俺が倒さなければこんなことには……」

「娘の経験が浅かったのだ。貴殿は間違ってはいない」


 ……。


「どうしたのだ?」

「いや、こんなにも話が通じると思っていなかったからさ……」


 人の話を聞いてくれる魔王なんて聞いたことがない……。

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