003

「ふぁ~……中々ぐっすり眠れた……」


 まだ外は明るいな。


「はぁ……」


 そういえば、魔王のこと、俺もマオって呼んだ方がいいんだろうか。アリシアが食卓で呼んでから全員が「マオちゃん」か「魔王様」になっちゃったしな……。 


 魔王って言うのも呼びにくいし、あの見た目で魔王って言われても納得できないしな。

 次に会ったらマオって呼んでみよう。


「……」


 エンはうまくいっているだろうか。

 気になるが、二人きりの空間に入っていくのは忍びない。

 盗み聞きもよくないし。

 見た目は子ども、中身は二百歳くらい……。

 男と女が部屋に二人きり……。


「まさか、な……」


 それこそ本当にアウトだろう。

 俺とアリシアならまだしも、エンとスイはさすがに……。


 とは言ったものの、蕩けた顔でエンが帰ってきたら俺はどうしたらいいんだ……。


「ごほん……」


 寝返りをうって壁に向かって横になる。


「アリシアが言ってたが、本当にふかふかだな……こんな布団どうやったら作れるんだろうか……」


 眠い……。昨日の夜から誰も来てないし、少しだけ……寝て――――――


「……ゼクス?」


 アリシアの声……。


「寝ちゃったのかな……」


 ギシッ……とベッドが揺れる。


「ゼクス……?」

「……」


 寝たふりでやり過ごすか……。


 肩を揺すられ、耳をそろりと撫でられ――なぜか頭を撫でられた。

 ふむ……、確かに頭を撫でられるのは嫌ではないな……。


「ふふっ……、寝ちゃったんだね……」


 アリシアの優しい声……。


「……ッ⁉」


 むにゅっと背中に柔らかいものが――


「ゼクス……」


 腕を巻きつけられ、頭から足先まで密着させてくるアリシア。

 その胸に眠気が吹っ飛んだ。


「よいしょ……」


 後ろでアリシアがごそごそと動いて――


「んぁっ……」


 妙に艶っぽい声が後ろから……。


「んっ……」


 こ、これは……。


「んんっ……」

「ア、アリシア……?」

「――えっ! えっ!? ゼ、ゼクス起きっ――ひぁっ⁉」


 驚いたアリシアがそのままベッドから落ちていった……。


「あいたたたぁ……」

「おい、大丈夫か?」

「だ、大丈夫りゃよ……」


 ……りゃよ?


 ぺたんと小さく座るアリシアだが、その顔は真っ赤になっている。

 あせあせと服装を正すアリシアを、ベッドに腰かけて見つめてみる。


「おい、本当に大丈夫――」

「ゼ、ゼクス……?」


 上目遣いで耳元の髪をかき上げ、もじもじと……。


「ど、どうした?」

「その……もしかして、なんだけどね……今の聞いて――」

「いや、聞いてない。俺はナニも聞いてないぞ……」


 目を逸らして誤魔化してみたが――


「やっぱり聞いてたんらぁ……」

「……ア、アリシア? なんかさっきから言葉が変だぞ……」


 チラッと視線を向けると――両手で顔を隠して耳まで赤くしているアリシアの姿……。


「もう……こうにゃったらぁ……」

「お、おいアリシア……急に立ち上がってどうした……」

「もー! 我慢できましぇん!」


 ベッドに押し倒され、両手をベッドに押さえつけられる。


「お、落ち着け……落ち着くんだ……」

「ゼクスが悪いんらもん……!」

「って、おい……」


 いつもと違う様子ですり寄ってくるアリシア。


「はぁ……はぁ……ゼクス……ゼクスぅ……」

「お、おい……息が荒いぞ……――ッ!」


 艶っぽいアリシアの声にこの状況……。


「ちょ、ちょっと待てアリシ――っんん!」


 馬乗りになったアリシアの胸に顔が埋まる。


「ハァハァ……もうやらぁ……、これ以上は耐えられないよぉ……」

「んー! んんー!」


 顔を抱きしめられ、そのままアリシアの谷間に沈められた……。

 抵抗しなければいけないのに抵抗できない……。

 これが男の運命なのか……。


「んふふ……、ゼクスも我慢してひゃもんね……♪」

「んん! んんー!」


 ダメだ! エンの部屋でそんなこと絶対にできない!


「ちょと待ってね……恥ずかしいけろ、今すぐ脱ぐら……んしょっ」


 シャツに手をかけて脱ごうとするアリシア。ようやく息が吸える……――じゃなくて。


「アリシアどうしたんだよ……さっきから口調がおかしいぞ……!」

「えへへ~……そりぇはね~……♪」


 蕩けた目で両肩を掴まれ――


「じぇくしゅがしゅきなのらぁー!」


 勢いよく抱きつかれた……。


「……え」


 これはもうヤッてしまってもかまわな――――――


「――ありしあー、どこー」


 外からフウの声が聞こえる。


「フウ! ここだ! アリシアはここに――んっ!」


 アリシアに口を塞がれた。


「……ぷはぁ♪」

「お、おい……アリシア落ち着け……」

「ふうひゃんばっかりずるいんらもん! わたしらってぇ……――」


 アリシアの力が急にふっと抜けた。


「……おい、アリシア、アリシア?」

「すー……すぴー…………」


 え……、あの状況から寝たのか……?


「――ぜくすー?」

 

 ひょっこりと扉の隙間から顔を覗かせるフウ。


「ああ、フウ……。アリシアはどうなってるんだ?」


 フウに助けを求めると、部屋の中へと入ってきた。

 よかった、ちゃんと服は着ているようだな。


「あのねー、フウがすきなのみもののませてあげたの」

「好きな飲み物?」

「そうだよー、そしたらありしあがふわぁってどっかいったー」


 説明もふわふわしているが、つまり――


「お酒かなにか飲んだのか?」

「おさけ?」

「お酒じゃないのか?」

「おさけ?」


 話が進まない……。


「……その飲ませたやつを持ってきてくれないか?」

「はーい」


 パタパタと走っていくフウを見送り、アリシアを寝かせて隣に腰かける。

 数分後――――――


「これー」


 フウが持ってきたのは、フウから手渡されたのは大きなガラス瓶に入った液体……。

 瓶のフタを開けて匂いを嗅いでみる。


「これお酒じゃないか……」

「いろんなしるあわせたらできたのー」

「色んな汁?」

「なみだとか、ちとか?」

「フウの?」

「そだよ?」


 当然だよと言いたげな表情だが、龍の涙に血って……。

 そしたらこれは――――


「龍神酒じゃないか……」


 龍自身が自分の酒を造るってアリなのか……。

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