003

「朝からなんだ……」


 どうしてこうも次から次へと……。魔王って意外と大変な職業なのか?


「おい、貴様! その者を放したまえ!」


 横並びの中から中央にいた奴が一歩前に出てきた。


 黄金の甲冑に身を包んだ十人……。

 鎧の分、身長も体格も大きく見える。

 杖に剣に斧、弓矢に槍と、まぁ色々な武器をお持ちで……。

 どれも黄金で出来た高そうな代物ばかりだな。


「ほら、返すから帰ってくれ……」


 気絶している男を投げつけ刀を納め――きびすを返して城の方へと向かう。


 格闘家に魔法使い、剣闘士に暗殺者と……、色々な奴らが来て面倒臭い……。


「待て! 我々は黄金騎士団! アリシア姫を返してもらおう!」

「お前たちもクソジジイに言われてきたのか?」

「クソジジ……? 誰だそれは……!」

「あの王様に言われてきたのかって」

「お、王様になんという無礼な口を……!」


 無礼なのはあっちだよクソが……。


「全員でかかるぞ!」


「「「おう!!」」」


「おいおい、騎士団が一対一で戦わないのかよ……」

「魔王相手に一対一などありえない!」

「そりゃ、そうか……」


 あれ……。遠回しにバカにされた気がする……。


「かかれ!」


 かけ声と共に五人が息を揃えて走り出す。


 剣が二人に、斧と槍、双剣か……。後方が杖三人に弓が二人……。


「はぁ……」


 右足を前に左足を後ろへ引く。

 前衛を戦闘不能にして後方まで駆け抜け、武器を叩き落すか気絶させて終了だな。

 刀を握り直し――あれ……?


「――ふふっ、いつまで刀があると錯覚しているんだ?」

「なにっ……」


 杖を持った奴がテレポートで真後ろに……。いつの間にか刀を盗まれていた。

 せっかく苦労して手に入れた武器が……。


「魔王め! 逃がさんぞ!」

「くっ……」


 両腕を後ろから掴まれ――


「武器無しの魔王なぞ、取るに足らん! お前たちやれ!」


 ずいぶん力の弱い奴だな。


「よいしょっと」

「――ぐふっ……!」


 体を前に倒して後ろの巨体を前に降り落とす。


「重いのは鎧だけだな――」

「――死ねぇ!」


 正面から横一線の剣。後ろにバックステップを刻んで――


「――その動きは見切っておるわ!」


 斧を持った男が武器を放り投げてきた。


「はっはっは! 空中では避けれまい!」

「――っと」


 斧の持ち手を掴みキャッチ。


「なにっ……⁉」

「――後方支援いきます! 離れて!」


「「「おう!」」」


 真上から、上空を覆い隠すほどの無数の火の玉と弓矢が……。


「鬱陶しいな……」


 斧を振りかぶって――斬るようにではなくあおぐように風を起こす。


 ――アックス・ストーム疑似旋風


「わ、私達の魔法が……!」

「一瞬にして吹き飛ばされた……⁉」


 ちょっと力を入れすぎたかな。


余所見よそみをしている場合じゃないぞ!」


 後ろからの声。


「ん? おっと」

「くっ、外したか! だが!」


 踏み込みと同時の突き刺すような剣撃。間一髪で避けきり、そのままもう一突きを斧で弾く。

 右に左に振り切って攻撃してくるが、剣撃が生ぬるい……。


「これで……もう一人と……」

「――俺のことを忘れるなよ」

「ッ!」


 隣から双剣を構えた奴が刃を突きたててくる――だが、弾いた剣と一緒にまとめて斧の内側のカーブで絡めとる。


 ――――ガキンッ!


 剣と双剣が宙を舞い地面に突き刺さる。


「くっ……!」

「一度態勢を立て直すぞ!」


「「「おうっ!」」」


 五人が退いていく。


「くっ……人間の姿でここまで強いとは……」

「いや、人間の姿しか持ち合わせていないんだが……」

「我々は今、脅威に立ち向かっているのだ……!」


 帰ってくれればなにもしないのに……。


「全員の力を合わせれば魔王だって倒せる!」

「だから、魔王でもなんでもないって――」

「そうだ! あんな奴に負けるわけがない!」


 あんなやつ……?


「そうだそうだ! 姫を誘拐した変態に負けるわけにはいかない!」


 ……。


「王様も言っていた! あいつはお漏らし屁理屈野郎だと!」


 カチン……。


「おい、お前ら……」


 斧を捨ててゆっくりと近付いていく。


「な、なんだ!」

「――近付けさせないぞ!」


 弓を構える二人だが――


「遅い……」


 後ろに回り込んで頭に蹴りを入れる。


「ケイト! フィーア!」


 そのまま横並びの魔法使いから杖を奪い――


「なっ――」


 後頭部を狙って杖を振りかぶり二人ともノックダウン。一人はさっき倒したから、あと五人……。


「ロット! クインス!」


 鬱陶しい後方はこれで終わりっと……。


「さてさて……」


 杖を肩に乗せて残りの騎士を睨みつける。


「くっ……!」


 武器を持っているのは剣と槍の奴だけだな……。


 ゆっくりと近付きながら――


「本当なら無傷で返してやりたかったが……」

「くっ、近寄るな……!」

「恨むならクソジジイを恨んでくれよ……」

「な、なにを――グハッ!」

「――ガハッ!」

「――ウガッ!」

「――ゴフッ……」


 相手が動くよりも早く、杖を急所に当てて気絶させる。


「あのな……こちとら独りで四天王と魔王倒してんだよ、お前らみたいな集まりに負けてたまるかクソが……」


 杖を投げ捨て、刀を拾いに戻――


「う、動くな!」

「なん……だと……」

「ぜくすーおはよー」


 ……。


 最初に倒した騎士にフウが捕まっていた……。

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