005

「なな……なんですかあの真っ裸の女の子は!」

「ぜくすー、ぜくすー」

「フウ、お前なぁ……せめて下着を穿いてから……」

「エン、ずるい……」


 指を咥えて物欲しそうにエンを見つめるフウ。

 ミーシャは頬を染めたまま固まっている……。


「え、フウ――――って裸! 服をきろよアホ!」

「ぜくすー、だっこー」

「わわ! くっつくな! その状態でくっついてくるな!」


 フウがエンを無視して抱きついてくる。

 エンの顔にフウの胸があたり、俺の手にもフウの体が当たって……。


「わぁあああ! やめ! フウやめろよ!」

「エン、うるさい」

「ちょまっ……んっ⁉ んんんっ⁉」


 ぎゅっと抱きしめられた結果、エンがフウの胸で押し潰された。


「フウ、エンが……エンが潰れるから離れるんだ……」

「やだー」

「ちょ! ゼクスさん! そんな子とイチャイチャしてていいんですか!」

「え? まぁ、フウたちは子どもみたいなものだし……」


 フウだけは大きくなってしまったが。


「え、子どもって?」


 ミーシャの相手をしている場合じゃない。

 フウによってエンが死んでしまう。


「フウ、とりあえずあの荷物の中に服があるから着替えるんだ」

「きがえたら、なでなでだっこ?」

「ああ、してやるからとりあえず離れてくれ」

「はーい」

「……え、ちょ、こっち来ないで! こっち来ないでくださいよぉおおおお!」

「まてまてー」


 城の中でなにをやってるんだか……。

 いや、そんなことより――


「おい、エン大丈夫か?」

「……」


 エンはぷしゅ~っと頭から湯気をだして伸びていた。

 圧死というよりは昇天したような顔だな……。

 エンも男の子だということか。


「ちょっとゼクスさん! 助けてください! きゃぁああ!」

「ん?」


 声がする方へと向くと、ホールの隅でミーシャに馬乗りのフウの姿が。

 大きな荷物は無残にも、その近くに投げ捨てられていた。


「きゃぁあ! なんですか! なんで私の服を脱がそうとするんですか!」

「きがえるー」

「え⁉ いや! 私じゃないでしょ⁉ 荷物の中にありますから! 服なら荷物の中にありますからぁああああ!」

「こらこらこらこら……なにやってるんだ……」


 エンをそっと床に寝かせて急いで近付く。


「きゃぁあ! やめて! それ以上はやめてぇえええ!」

「おきがえー」


 馬乗りになったフウを引き離して脇腹に抱える。

 ミーシャは無残にもメイド服を引きはがされていた。


「うぅ……もうお嫁にいけない……」


 上半身のメイド服がボロボロになったミーシャ。

 素肌は見えてないが、何者かに襲われたような感じになっている……。


「ぜくす、おきがえー」

「いや、荷物の中からだって言っただろ……」

「ぜくす、にもつっていったもん」

「ミーシャは荷物じゃない……」

「ちがうの……?」

「荷物はあっち、この子はミーシャだ」

「みーしゃ?」

「ああ、そうだ……」


 指を咥えて「むぅ」っと唸るフウ。

 まったく……この天然っ子はなにをしだすか分かったもんじゃない……。


「ミーシャ、大丈夫か?」

「大、丈夫……じゃないです……」

「そ、そうだよな……」


 ゆっくりと上半身を起こしたミーシャが、自分の体を隠すように腕を巻きつける。


「……もうやだ」

「え……?」

「アリシアお嬢様に慰めて欲しかったのにこんな仕打ちあんまりですっ……」


 ボロボロの恰好でフラフラと入口に向かって行くミーシャ。


「お、おい、荷物は――」

「うぅ……もう勝手にしてください……私は出直してきます……ぐすんっ……」


 あのミーシャが完全に戦意喪失しているだと……。

 フウにチラッと目を向けると「ん?」と何事もなかったかのように呆けている……。


「あ、そうだ……アリシアに会わなくていいのか?」

「こんな格好で会えないです……ぐすっ……」

「また服とか持ってきてくれないか?」

「次、きた時はその子を……倒す……」


 振り向いたミーシャの目が――――


「お、おい……そんな人殺しの目でフウを見るなよ……」

「ふんっ……!」

「おい、王城に戻るんだったら――」


 ――――――バタンッ!


「服、を……持ってきて欲しかったんだが……」


 はぁ……。

 まぁ、荷物は置いていってくれたしいいか。


「……」


 真っ裸のフウを脇に抱えながら、ホールで気絶しているエン。

 ここが魔王城だと言っても誰も信じてくれないだろうな……。


「ぜくすー、こしょばいー」

「ああ、すまん」


 優しくフウを下ろす。


「フウ、あの中に着替えがあるからまずは着てこい」

「はーい」


 その間にエンを起こしてやらないと……。

 しゃがみこんでぷにぷにのほっぺたを突いてみる。


「おい、エン、大丈夫か?」

「……お、おぱ……フウのおぱ……が……」


 まだ顔を赤くしているエンが、気絶しながらも幸せそうに寝言を漏らしていた。


「ニヤけてるし起こさなくてもいいか……」


 部屋に寝かせて一人で風呂に入るか。


「ぜくすー」

「お、着替えたか――って……」

「ん?」


 前を開けたままの白シャツに黒いレースのパンツ姿で後ろに立っていたフウ。


「きがえたから、だっこ」

「それを着替えたとは言わん……」

「ぶー」

「拗ねてもダメだぞ」

「なでなで、だめ……なの?」

「っ……」


 潤んだ目で、物欲しそうな目で見られると――


「はいはい、撫でてやるから泣くな……よいしょっと……」

「わーい」

「よしよし……」

「ふぅ~♪」


 この笑顔、絶対に守らなければ……。


「さ、ちゃんと着替えて、エンを起こして風呂だ」

「フウもはいるー」

「フウはもう入っただろ?」

「ぜくすとは、はいってないよ?」

「……」


 裸シャツで見上げてくるフウに対して思わず目を逸らしてしまう。

 俺が童貞だったら確実に殺られていたに違いない。

 小ぶりな胸もいいかもしれない……。いやいや、俺にはアリシアがいるんだ。

 それにフウは子どもみたいなもの。こんなことで欲情するわけにはいかない。


「ぜくす?」

「と、とりあえずちゃんと着替えるぞ」

「はーい」


 黒いレースのパンツは俺の目に悪いので穿き替えてもらい……水色の半袖の服、薄茶の膝丈ほどのスカートに着替え完了。


「これでよし……」


 フウを部屋まで抱っこし、頭を撫でてお別れ。

 ホールに戻ってエンを起こしに……。


「…………」


 今更だが、俺はなにをしてるんだろうか……。

 これじゃ本当に父親みたいじゃないか……。


「……」


 幸せそうに寝ているエンをじっと見つめてみる。

 アリシアも嬉しそうだし、魔王も四天王たちも嫌がっている様子はない。


 むしろ、フウやライは嬉しそうに近寄ってくる。魔王は口調はきついが素直。

 スイは恥ずかしがり屋だがしっかり者。エンも男の子らしいが、撫でると大人しくなる。


「……まぁ、これはこれでいいのかもしれないな」


 俺もこの状況になんだかんだ慣れてしまっているしな……。

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