004

「私もエンちゃん撫でたいなぁ」

「あ、ああ」


 すっと手をどけてアリシアにエンを渡す。


「ぼ、僕は別に撫でられても……にゃふぁぁ……♪」

「ふふっ、可愛いなぁ♪」

「……」


 隣でエンを撫でるアリシアの頭にそっと手を置く。


「えっ、ゼクス?」

「なんか、久しぶりにゆっくり顔が見れたなと思ってさ」

「そ、そうかな……?」

「ああ」


 アリシアの綺麗な水色の瞳、風呂上がりで濡れた髪、むき出しの肩……。


「アリシア……」


 アリシアの顔をそっと引き寄せて――


「ゼク……んんっ!」


 我慢できるわけがなかった。


「……ん、んんっ!」


 驚いているアリシアに少し長めのキスをして。


 そして――――


「そんな格好で来たアリシアが悪いんだからな……」


 と、アリシアに額をくっつけながら呟いた。


「ご、ごめん、なさい……」


 顔を赤くしたアリシアが謝るが、明らかに欲情した俺が悪い……。


 しかし、ここに至るまでに、フウにされた出来事を思い返せば我慢した方だと、言い訳しておこう。


「俺の方こそすまん、我慢できなかった……」

「ううん、私もその、ゼクスと……したかったし……」

「あ、ああ……」


 こんな、純粋可憐なお姫様が、あのクソジジイの子どもだなんて未だに信じられない。


「ゼクス、その、もう一回……いいかな……」

「ああ」


 もう一度、アリシアの唇を――


「おい、僕のこと忘れてないか?」

「はうっ⁉」

「ッ⁉」


 エンの声に驚いたアリシア。

 そこに加えて俺も驚いてしまいアリシアを押し倒すような形に――


「んぁっ……!」

「……!?」


 アリシアの上に覆い被さり、はだけたバスタオル。俺がキスしていたのはアリシアの胸の先――


「やん……ゼクス、ダメだよぉ……」

「す、すまん!」


 勢いよくアリシアから離れる。

 だが、目下には丸裸になったアリシアの姿……。


「いきなりはダメッ……だよ?」

「いや、これは不可抗力で……」


 恥じらいながらも、両手で大事なところを隠すアリシア。

 くっ……、二人きりなら今すぐにでも、遠慮せずにヤりたいんだが……。


「……」


 横を見るとエンが口を開けて釘付けになっていた。


「はわー……――って、ゼクス! 急に目隠しするなよ!」

「子どもにアリシアの体はまだ早い……」


 というか、見られたくない……。


「アリシア……とりあえず着替えてきてくれないか……?」

「う、うん……、そそそ、そうだよね……!」


 頬を染めてぺたんと座り込むアリシア。

 なるべく体を見ないように努力する――が、男の性で下から上まで、いやでも目が行ってしまう。


 透き通るような色白の肌、魅力的な胸に、顔も可愛いし性格も良い。

 こんな女性がいるなんて、出会うまでは知らなかった。


 立ち上がるアリシアがバスタオルで体の前を隠す。


「ゼクス、その、また……あとで……」

「お、おう……」


 振り返ってそのまま出て行こうとするアリシア――当然、背中から足まで丸見えなわけで。


「アリシア、後ろ隠せてないぞ……」

「え……うそ! あわわ!」


 横を向いたアリシアの顔は今にも泣きそうだった。

 真っ赤になりながらお尻を手で隠して出て行く。


 扉越しに顔を覗かせたアリシアが頬をふくらませてこっちを見つめている。


「どうした?」

「ゼクスのえっち!」

「え――」


 ――バンッ!

 勢いよく閉められた扉にエンの体がビクッと反応した。


「……」


 え、俺が悪いのか……?


「……おい! もういいだろ! 手どけてくれよ!」

「あ、ああ……」

「ったくもう……、みんな出たなら早くお風呂いこうよ……」

「…………」


 久しぶりのアリシアの胸……。


「おい! 聞いてんのかよ!」

「……ん?」

「ん、じゃないよ! お風呂いこうよ!」

「そ、そうだな」

「……どうしたんだよ」

「いや、なんでもない」


 アリシアの胸の柔らかさをエンに伝えるのはまだ早いだろう。


「よし、んじゃ行くか」

「――って、なんで僕を抱っこするんだ!」

「連れて行ってやろうかと思ったが、嫌だったか?」

「い、いやじゃない!」

「そうか、それなら別にいいじゃないか」

「こ、今回だけは特別に抱っこされてやるだけだからな!」

「はいはい、ありがとな」


 エンを抱きかかえたまま風呂場へ向かう。

 城の正面玄関のホールで……。


「あれ、どっちだっけ……」

「お前まだ覚えてないのかよ」

「まだって……、こっちはまだ二日目だぞ」

「ほら、そっちの扉から奥に行って――」


 ガチャリと魔王城の扉が開いた。


「おじゃましまーす!」

「「……え」」


 大きな荷物を背負ってやってきたのは、茶髪のポニーテール……。


「あ! ゼクスさん発見なのです!」


 ビシッと指を差してくるのは、アリシアの召使い……。


「おい、あの召使いはお前の知り合いか?」

「いや、あんな不器用で空気を読まない召使いは知らん……」

「あー! ひどいです! ゼクスさんひどいです! っていうか、その可愛い子はなんですか! まさかアリシアお嬢様との間に⁉ すでにおめでたなのですか⁉」

「なわけないだろうが……」

「んじゃ、なんなんですか!」

「……ミーシャこそ、こんな時間になんなんだ……」


 エンが「やっぱり知り合いじゃんか」と突っ込んでくる。


「そりゃ、もちろん決まってるのです!」


 胸を張ってふんと鼻を鳴らすミーシャ。


「アリシアお嬢様が居ないので、追いかけてきました!」

「……え?」

「ん? どうしましたか?」

「お前、城を抜け出して来たのか?」

「ええ、そうですけど?」


 さも、「当然ですがなにか?」と言わんばかりの顔で見つめてくる。


「もしかしてだが、その荷物は……」

「はい! 私の服とかアリシアお嬢様の服が入ってます! 一応ゼクスさんの服もお持ちしましたよ!」

「お前……」

「なんですか?」

「ダメな召使いだと思っていたが、意外と気が利くんだな」

「ダッ……ダメな召使いってなんですか! これでもアリシアお嬢様専属の召使いですよ!」


 小さいながらに吠えるミーシャ。


「そう言われるとそうだったな……」

「もー、しっかりしてくださいよ!」

「ミーシャにだけは言われたくない……」

「ちょっと! それはどういう意味ですか!」


 ミーシャがプンスカと怒りながら近付いてくる。


「あれ……お前の身長……」

「私がどうかしましたか?」


 成長したフウと同じくらいの身長……、ということは――


「ミーシャ、荷物の中にはお前の服もあるのか?」

「え? そ、そうですけど?」

「よし、よくやった」

「え、なにがですか!?」

「ちょうど服が欲しかったんだ」

「え、私の服が欲しかったんですか⁉」

「ああ、助かった……本当に助かった……」


 これでフウの裸を見ないですむ……。


「ゼ、ゼクスさんって変態だったんですか⁉」

「なぜそうなるんだ……」

「だってまだ幼くて可愛い私の下着や服に興味があるなんて……、アリシアお嬢様とあんなことしながら私も狙ってたんですか⁉」

「そんな蔑んだ目で俺を見るな……、ミーシャに興味はないから……」

「でも、服が欲しいって……」

「ああ、それはだな――」

「ぜくすー」

「……」


 噂をする前に現れたフウ。

 濡れた長い髪を垂らして、綺麗な肌を全てさらしてやってきた……。

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