003

 二人をそれぞれの部屋に寝かしたあと――四つの部屋が並ぶ廊下の前で、俺はライと手を繋いでいた。


「ライ、アリシアはどこだ?」

「ん? お姉ちゃんならライの部屋で寝てると思うよ?」

「そうか……」


 俺はやっぱり外で寝るしかないかな。


「あ、そういえば晩飯は?」

「フウが作ってくれてると思うよ!」


 ……あの恰好のまま、料理しているんだろうか。


「――ぜくすー、ぜくすー」


 後ろから聞こえてきたのは、聞き慣れたやる気のない少女の声。

 振り返ってみると、ぽふっと胸の中に自然と埋まる成長したフウが――――


「おい、フウ……」

「ん?」

「エプロンなのは分かるが、シャツはどうした……」


 フウの背中が丸見えだった。一応パンツは身に着けているみたいだが、これはもはや裸エプロンとなにも変わらない……。


「「ん?」」


 上目遣いのフウと目が合った。


「シャツ、きつくてぬいだ」

「だからってその恰好は――」

「パンツも、きつい……」


 パンツに手をかけようとするフウの手を止める。


「ん?」

「いや、『ん?』じゃない……。本当に裸エプロンになってしまう……」

「はだか、えぷろん?」

「いや、気にするな……。フウの服を早く買わないとだな……」


 俺の理性が飛んでしまうかもしれない。


「ねーねー、ぜくすー」

「ど、どうした?」

「ごはんできたよ?」

「お、おお、ナイスタイミングだな」

「フウ、えらい?」

「よしよし、偉いぞ」


 撫でてほしそうに見つめてくるので、とりあえず撫でる。


「ふぅ~♪」

「フウ、ずるーい!」


 フウのエプロンを引っ張るライ。

 フウは俺にくっついたまま動く気配がない。


「いまは、フウのばん」

「と、とりあえず、みんなを起こしに行かないか?」

「もすこしだけー」

「ならライも! ライも撫でてほーしーいぃ!」

「分かった……分かったから……」


 適度に二人を撫でて――――――


「満足か?」

「いちおー」

「ライは満足!」


 ご満悦のようでなによりだ。


「んじゃ、みんなを起こして食卓に行くぞ」

「はーい」

「はーい!」



 ***



 アリシアに魔王、フウにライ、スイとエン、全員でごはんを食べ終え……。アリシアを含めた女の子たちがお風呂に向かって行った。


 男同士ということでエンの部屋に移動。ベッドの上に座るエンを、椅子に座わり少し離れた位置で向かい合う。


「なぁ、エン」

「な、なんだよ」

「お前、あんな子たちに囲まれてムラムラしないのか?」

「は、はぁっ⁉」


 おお、エンの顔が真っ赤になった。


「きゅ、急になにを言い出すんだよ!」

「まぁまぁ、他のみんなは風呂だし気にするな」

「だから、なにをだよ!」


 椅子を少し近付ける。


「で、誰が好きなんだ?」

「ばっ……好きとか! そんなの居ないし! 気になるとか好きとか、別にそういうんじゃ、ないし……」


 目を逸らしながらも照れるエン。


「お前、分かりやすいな……」

「ま、まだなにも言ってないぞ!」

「魔王か?」

「違う!」

「フウか?」

「違う!」

「ライか?」

「違う!」

「んじゃスイか?」

「なっ……!」


 耳まで赤くして……、分かりやすいにもほどがあるだろう……。


「今のはズルいぞ!」


 エンの抗議を無視して――


「ずっと気になってたんだが、実際、お前たちは何才になるんだ?」

「え、えっと……、魔王様が千才超えてて……あとはフウが二百――」

「いや、すまん。やっぱり言わなくていい」

「なんでだよ!」

「なんか、夢が壊れるような気がして……」

「はぁ? よく分からないし!」

「……」


 聞かなければよかった……。

 魔王もフウもロリババアだったなんて……。

 ショックで今日は眠れないかもしれない……。


「お、おい、大丈夫か?」

「いや、大丈夫じゃないかもしれない……」


 子どもだと思ってたのに、俺よりも年上……。


「おーい、顔が死んでるぞ?」

「……」


 椅子から立ち上がってエンを見下ろす。


「お前もジジイなのか……」

「ん? 急になんだよ」

「お前も二百何才のジジイなのか?」

「ん? 二百才なんて龍で言ったらまだ子どもだぞ?」


 ……。


「……二百才で子ども?」

「ああ、魔王と同い年でようやく大人って感じだな」

「それは、本当なのか?」

「嘘ついても仕方ないだろ」


 フウもライも、みんなまだ子ども……。


「あぁ……よかった……」


 年上ということに代わりはないが、龍としてはまだ子どもなら問題ない、ということにしておこう。


「どうしたんだよ」

「いや、なんでもないさ」

「ちょ、急に撫でるな……うぅ……」

「すまんが、撫でるのがクセになっているんだ」

「ふ、ふんっ……クセなら仕方ないな……」


 嬉しそうにするエン。

 こうして頭を撫でていると、なんだか心が優しくなっていく気がする。


「あ、そういえば」

「ん?」

「なんでお前まで、召使いの、女の子の恰好なんだ?」

「そ、それは……」

「スイとお揃いか?」

「ち、ちが! そんなんじゃ!」

「ああ、分かった分かった」

「なな、なにを――――にゃふぁぁ……♪」


 男の子も可愛いもんだな。


 ――――ガチャッ。


「ん?」

「――ゼクスあがったよ!」

「アリシ、ア⁉」


 中に入ってきたのはバスタオル一枚だけのアリシア……。


「あー、もしかしてその子がエンちゃん?」

「エンちゃんって……、僕は――ッ⁉」

「いや、そんなことよりも、アリシア、服はどうしたんた⁉」

「スイちゃんが洗ってくれて、フウちゃんが風で乾かしてくれてるんだー♪」


 ニコニコと近付いてくるアリシア。自然とその大きな胸に目が行ってしまう。

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