005

「――――――うぅ……さ、触るなぁ……!」

「はっはっは、なんだぁ? 可愛いではないかぁ」

「うぅ……キモイよぉ……ひぐっ……うぐっ……」

「キ、キモイだと⁉ このガキめ!」

「――――おいおい、待て待て……」


 魔王を捕まえていた大男。

 手を上げようとした大男の右腕を掴む。

 腕、太すぎるだろこいつ……。


「だ、誰だ!」

「ゼ、ゼクス……?」

「子どもに手を上げるのはどうかと思うぞ、おっさん」

「なに、を――――って、どこに連れて行く気だぁあああああああ!」

「うるさいなぁ……外だよ外……」


 住んでいる場所で暴れられると困るしな……。


「お、お前! 黒髪にその異様な服! 魔王のゼクスだなぁあああ!」

「だれが魔王だよ……あと、これは和服というんだ……」

「うるさい! 死ねぇええええ!」

「はぁ……」


 左手に持った斧を振り上げる大男。

 勢いよく刃先が俺に向かってくる。


 ――――ガキンッ!


「なにっ⁉」


 右手で引き抜いた刀を当てて相殺する。

 図体がでかいだけで威力はそこまで、といったところか。


「おっさん、振り下ろしが遅い、言葉を発する前に手を動かせ。あと、少女趣味はやめた方がいいぞ」

「クソ! 生意気な! あんな恰好でうろついているおなごが悪い!」


 まぁ、それは同感だ……。

 ここの奴らはすぐに全裸になろうとするし、撫でたらニコニコするし、フウは成長してしまったし……。


「はぁ……、とりあえず外に行くぞ」

「は、放せ! 放せぇええええええええ!」


 入口を開けた瞬間、大男を広場に向かって投げつける。


「うぉっ!」

「あぁ……気持ち悪い……」


 アリシアとかフウとか、可愛いものばかりに囲まれていたからなのか。大男に触った手が嫌悪感で震えている……。


「ぐはぁっ!」


 塀を超えた向こうに尻もちをついた大男。

 さて、行こうか――――


「ゼ、ゼクス!」


 ふと横を振り向き下の方に目を向ける。


「なんだ、魔王か」

「な、なんだってなによ!」

「大丈夫だったか?」

「え……?」

「いや、泣いてるから大丈夫かって」

「え、う、うん……だい、じょぶ……です……」


 魔王はしゅんと大人しく俯いた。


「よしよし、とりあえず、危ないから待ってろ」

「う、うん……」


 俯いたまま撫でられ続ける魔王。

 いつもこう大人しくしてくれれば可愛いんだがな。


「よし、行ってくる」


 魔王がコクっと頷く。

 魔王の頭から手を離してため息を一つ。


「……」


 城の扉を閉めて、と……。


「おーい、おっさん」

「クソッ……魔王め……、悪しき力に手を染めよって……!」

「いや、自力で頑張ったんだが」


 パーティーを組もうと思ったら「服がダサい」とか言われてずっと一人で生きてきたんだが……。

 俺にとっては結構なトラウマなんだが……。

 そういえば、アリシアが居なかったら冒険なんて途中で諦めてたんだよなぁ……、懐かしい……。


「うるさぁあああい! 姫君におなごまで食い漁るとはぁあああ! 独り占めはズルいぉおおお!」

「食い漁るとか独り占めとか言うな……、俺は健全だ」

「うるさいうるさいうるさぁああああああああい!」


 斧を右手に持ちかえて走り込んでくる大男。

 そうか、さっきは利き手じゃなかったということか。


「おっさん、あんたは俺が嫌いなタイプだ。最初から全力を出さない」

「俺もお前のようなガキは嫌いだぁあああああ!」

「はいはい……」


 迫ってくる大男が、一歩踏み込むごとに地面が揺れる。

 しかし、龍の轟音と比べれば可愛いものだ。


「うぉおおおおおおおおお!」

「……」


 右手に持った刀を構えて反撃の準備をする。


「ふんぬぉおぉおおおおおおお!」


 思いっきり振り下ろされた斧を刀で受け止める。威力は申し分ない。だが、斧の重心がブレているせいで威力が弱い。


「そんな刀、へし折ってくれるわぁあああああ!」

「戦いに集中しろ、おっさん」

「なにを言うか!」

「あんた、王様に仕えている剣闘士だろ」

「それがどうしたぁああ!」


 斧を刀身の上に滑らせて力を地面に向けさせる。

 振り下ろした斧がそのまま地面に突き刺さった。


「なにっ……!」


 上から踏みつけて斧の上部全てを地面の中に沈め込む。

 刀を鞘に納めて軽く首を回す。


「これで話が出来る」

「は、話すことなどなにもない!」

「剣闘士のあんたなら俺が誰か知ってるだろ」

「知らん!」

「なにがあんたをそこまで……」

「とにかく、王に頼まれたからお前を殺す!」


 振りかぶった拳が飛んでくる。

 屈んで避けきり、右足で大男の腹部に蹴りを入れる。


「くっ……!」


 一歩ひいた大男の足。すかさず下ろした足を軸に回し蹴りをアゴに叩きこむ。


「ぐはっ……!」


 二歩、三歩、上を向いたまま退いていく大男。

 ノーガードの腹部へもう一度、次は拳で思い切り殴りつける。


「がはっ!」


 どしんと、重たい図体を仰向けに地面に倒れた大男。


「まだやるか?」

「……いや、もういい。お前にはどうせ勝てない」

「助かるよ……っと」


 手を差し出して大男を座らせる。


「もう話をしてもいいか?」

「……ああ」


 一息ついた所で本題に――


「それで、なんでこんなことを?」

「王が……アリシア様が魔王と化したゼクスに誘拐されたと国中に言いふらしている……」

「なんだと……」


 あのクソジジイ……。


「ゼクス、悪いことは言わん……。アリシア様を返すんだ……」

「はぁ……なぜそうなるんだ……」

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