002

「これは……」


 上から降ってきたのはロリコンが持っていたミスリルの杖。

 ……まぁ、売れば金になるかもしれないし、戦利品ということで貰っておこう。


「フウ、終わったぞ」


 ひょこっと顔だけを覗かせるフウに近付いていく。


「ぜくすつよーい。ぶわぁって、すごかったー」


 目をキラキラさせて興奮気味に抱きついてくるフウ。


「とりあえず部屋に戻って服だ」

「ねーねー、ぜくすー」

「どうした?」

「それ、なに?」

「これはミスリルで作られた杖、らしい」


「フウがもつー」

「持ちたいのか?」

「うん、もちたい?」


 どのタイミングで首を傾げるのか未だに分からない……。


「うーん……」


 一応は魔術師の杖だしなぁ……子どもに持たせるというのは……。


「ぜくすー、かしてー」


 手を伸ばしてジャンプするフウが――可愛い……。

 子どもってこんなに可愛いのか……。

 まぁ、魔力がない状態なら持っても大丈夫だろう。


「ほら、気を付けてな」

「はーい」


 フウが抱きかかえるようにミスリルの杖を身体に引っつける。

 これはこれで犯罪の臭いがしそうだが、取り上げるわけにもいかな――


「フウ、どうした⁉」


 急にミスリルの杖が輝きだし、フウの周りに突風が吹き荒れる。


「フウ! なにしてるんだ!」

「わかんなーい」

「そんな呑気な……くっ!」


 踏ん張ればなんとか耐えられる――が、眩しすぎて見ていられない……!


「眩しっ……!」


 とびきり神々しく光を放ったせいで、目を開けても視界が見えない。


「フウ……?」


 手を前に出しながら探してみる。やっぱり渡すんじゃなかった……。

 これでもしフウになにかあったら……。


 ふにっ……。


「ん……?」


 小ぶりな柔らかい感触。

 ふにふにと、この柔らかい感触は身に覚えが――


「ぜくす、おっぱいすき?」


 目をゆっくりと開けると、そこに居たのは――


「フウ⁉ なんでお前大きくなってるんだ⁉」

「わかんないー」

「お前、それにしても……」


 小さい女の子から成長したフウの姿……。

 身長もアリシアより少し低いかという程度。

 髪も伸びて大人に近付いたように見えるが、女性というにはまだ幼さが残るような顔つきに小ぶりな胸……。


 いやいや、まじまじと観察している場合じゃない。


「ミスリルの杖はどこだ――っていうか服を着てくれ!」

「なんで?」

「可愛く頭を傾けてもダメだ!」


 少女の体ならまだしも、大人に近付いたフウの体は健全な男子なら嫌でも反応してしまう。

 可愛さに、伸びた緑色の髪が美しさを上乗せし始めている……。


「ぜくす、どうしたの?」


 ピタッと体をくっつけてくるフウ。


「……」


 上目遣いの美少女が……。

 これ以上は理性が……。


「ねーねー、ぜくすー」

「あー! もう!」

「ん? ぜくす?」


 裸のフウを抱きかかえて猛ダッシュ。下を見ないように全力で部屋に向かう。


「ぜくすのかお、あかいよ?」

「気にしないでくれ……」

「ぜ……くす?」

「変な位置で名前を区切るな……」

「ぜっくすー♪」

「ちょ……、あんまりその体でくっつくな!」

「みゅぎゅ~♪」


 中身は変わっていないようだが、外見が変わってしまったせいで男の精神衛生上よろしくない……。


 これはフウだ、これはフウなんだ……。



 ***



 フウの部屋の扉をノックする。


「フウ、着替えたか?」

「いちおう?」


 いちおうってなんだ……。


「入っていいのか?」

「いーよー」


 少し不安が残るが――


「入るぞ……」


 扉を開けて隙間から見えたのは――


「……」


 へそ丸出しピチピチのシャツに白パン姿のフウ。


「おい、着替えは……?」

「できたよ?」


 いやいやいや……。


「上は着てるが、下は?」

「おおきくなったから、はいんなーい」

「……そ、そうか」


 服をどうにかしてやらないと、俺の目に悪い……。


「とりあえず、なにか羽織るものはないのか?」

「はおるもの?」

「上着とか」

「うわぎ?」

「あー、もういい、ちょっとクローゼット開け――」

「ゼクス居るの?」


 扉から顔を覗かせたのは――


「ア、アリシア……」

「……ゼクス、その子だれ……かな?」


 笑顔で殺気を放つアリシア。思わず額に汗がこぼれる……。


「フウだよ、一緒にいただろ?」

「確かにフウちゃんに似てるけど、背の高さが違うよ……。それに、その恰好……なに?」


 ああ、やばい。これはやばい……。


 確かに、へそ丸出しの白パン姿の女の子と一緒に部屋にいる状況は、誰がどう見ても不健全だ。


「ア、アリシア、落ち着いて聞いてくれ……」

「ゼクス……」


 アリシアが一歩ずつこっちに近付いてくる。


「ぜくすー」

「おい、フウ! 今は抱きつくな!」

「今は……? 今はってなに?」

「アリシア、落ち着け! 本当にこれはフウなんだ!」

「お城の外を守るって言ったから、一人で寝てるって思ってたのに……そんな子と……」

「ちがう! 誤解だ!」

「もういい! 私はライちゃんと二人で生きていくわっ!」


 泣きながら走り去っていくアリシア。


「……なんでそうなるんだ!」

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