第二話「生きていた魔王たち」
001
あのあと、なにかによって疲れてしまったアリシアはそのまま寝てしまい、ベッドに座らせたフウと一対一で話をすることができた。
話によると、俺に倒されたあと力を失った四天王たちと魔王は小さくなって魔力を温存することで生き延びることができたらしい。ただ、戦った時の消耗が激しすぎて少女の姿になったしまったとのこと――
「つまり、四天王も魔王も生きてるってことか……」
「そうだよ?」
「まじか……」
椅子の背に顔を乗せるように座っていたゼクスがため息をもらした。
せっかく倒したと思った魔王たちが生きている上に、こんな可愛い生き物だったなんて……。
くりくりっとした目を向ける四天王の風龍――――フウにじっと目を向ける。
「それで他の四天王と魔王は?」
「ちからをうしなったの、だから……ふぁ~ぁ……」
「……だから?」
「おしろをねらうまものとねー、たたかってるー」
「え……なんて……」
「ふぁ~ぁ……まおーたち、まものとせんとうちゅう?」
あくびした後にサラッとすごいこと言いやがった……。
可愛く首を傾けてもその言葉の破壊力は拭いきれないから……。
「でも、力を失ってるんだろ?」
「うん」
助けるべきではないんだろうが、襲われてるなら助けないと……。
「はぁ……、どこで戦ってるんだ?」
「おしろのそと?」
「なんで疑問形なんだ……」
「フウはおしろのなか、まもるのー」
「そうか……」
倒した俺とアリシアを中に入れておいてとんだ言い草だが――
「案内してくれ」
「ん、どうして?」
「弱い者いじめは良くないだろ?」
「えっと……、ぜくす、たすけてくれるの?」
「まあな、元を辿れば俺のせいだ。きっちりその分は守ってやるよ」
「ふぁあ~っ!」
立ち上がったフウの目がキラキラと輝き出す。
今にも飛びついて来そうな構えでこちらをうかがっている……。
「案内してくれ、でも抱きつ――」
忠告をするのが一歩遅れたゼクスの背中にジャンプで張り付いたフウ。
「ぜくす、しゅき……」
「あんだけ喋れてなんで『しゅき』って言うんだよ……」
「おとこ、これでイチコロだって、まおーがいってたー」
そんなアホなことを言う奴と俺は三時間以上も死闘を繰り広げていたのか……。
「いや、今はとりあえず向かうか」
「れっつごー」
気の抜けた声に膝がガクッと曲がりつつも急いで外へと向かう。
あれ、でも……来た時って誰もいなかったような――
***
外へと飛び出したゼクスとその背中にはフウの姿。
城を囲む塀の外には四天王たちと戦った広大な開けた土地があるだけ。
「誰も居ないぞ?」
「ちょっとまってね」
「ん?」
手を前へとかざしたフウが「よいしょー」と空気をデコピンした次の瞬間――
「キャー! スライムいやぁああああ!」
と叫ぶ銀髪の長い女の子。
スライムの粘液が体中に付いてすごいことになっている。
「魔王様! 逃げて! 逃げてぇえええええ!」
馬ほどの大きさのデカネズミに追いかけられながら、銀髪の女の子に向かって叫んでいるのは短い金髪の少女。
「ライも逃げて! 逃げ――――ひゃぁ!」
スライムの伸ばした触手に魔王様と呼ばれた銀髪の女の子が捕まった。
足首一つでぶら下げられ、褐色のお腹が見えている。
「いやぁあ! あのクソ剣士さえ来なければこんなことにはぁあああ!」
「うぅ……! それを今言っても遅いよー! ってうわぁあああ!」
ライと呼ばれた金髪の少女もつまづいてしまい、デカネズミにペロペロされ始めた。
「いやっ……舐めるなぁ! くっ! いやっ……! ま、魔王様たすけてっ!」
「うっ……助けたいのは山々だけど……ひゃうっ……!」
どちらの少女も一瞬でけしからん状態に……。
っていうか――――
「なぁ、フウ」
「なに?」
「……戦っているというよりはじゃれているように見えるんだが……」
ふとした疑問を問いかけてみる。
スライムもデカネズミも冒険者の時は窒息させたり噛みついたりして殺しにかかってくるが、どうやらその気はないように見える。
「でも、まおーもライもすごいことになってるよ?」
「ま、まあ、そうだな……」
これは殺しても良いんだろうか……。
「――あああああああっ! あんたあの時の!」
やばい、宙ぶらりんの粘液べたべたの魔王と目が合ってしまった。
「あんた! 助けなさい! 今すぐこいつを倒しなさい!」
「だから、まお……さま……無理です……って……やぁぁんっ……」
「ライには言ってない! 早く助けて!」
ちらっとライと呼ばれる子を見てみるとヨダレでべとべとにされていた。
さすがに可哀そうになってきた……。
「……」
「ぜくす、たすけないの?」
「なんか、その……やる気が出ないというかなんというか……、触手プレイとネズミに遊ばれているだけなのに邪魔しちゃ悪いかなと……」
「しょくしゅぷれい?」
「ああ、いや……、こっちの話だ。二人とも助けてやるから下りてくれ」
「はーい」
ひょいっと地面に着地するフウを尻目に、刀を抜いて地面に刺す。
「危ないから触るなよ」
「うん、わかった!」
純真無垢な笑顔が眩しい……。が、とりあえずあいつらを助けてやるか。
鞘を手に取って刀のように握りしめる。
「あんた、なんで鞘だけでこっち来るのよ! ちゃんとやっつけ――あぁんっ……!」
悪魔的な薄い衣装がスライムによって脱がされかけている。
これ以上は年齢的にマズい……。
一足踏み込んでスライムの方へと近付き、捕まっている触手の部分を叩ききる。
「ひゃうっ……」
「よしっ……と」
魔王をキャッチして脇腹に抱える。ベチャベチャになっていてあまり触りたくなかったのに触ってしまった……。
せっかくアリシアがくれた服がベタベタに……。
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