007

「ま、まさかゼクス、そんな子と――」

「待て待て! んなわけないだろう!」

「でも、お兄ちゃんとかしゅきとか凄いこと口にしてるんだけどっ!?」

「俺が聞きたいよ……」

「ん……」


 寝ていた少女の目がぼんやりと開いた。キレイな緑色の瞳がゼクスを見上げる。


「……」

「な、なんだ?」


 眠たそうな目でアリシアの方を向いた少女。再びゼクスの方を向き直してゆっくりとベッドの上に下り立った。ひょこひょこ、ぺたぺたと素足でクローゼットの前に向かっていく。


 あまりにも変な空気にゼクスとアリシアは口を開けたまま、その少女の行方を追っていた。


「ふぁ~ぁ……」


 クローゼットの中から取り出して着替えを始める少女に、二人は目を見合わせた。


 無言でアリシアが「どういうこと?」と問いかけるが、ゼクスは首を振って「俺にもサッパリ……」と困った顔を浮かべる。


 着替えが終わった少女は白いワンピース姿でゼクスの方を向いた。


「お……おはよっ……」


 目線を逸らし、恥じらいながらの言い方は完全に一夜を共にしたあとの言い方だった――





 ***




 ベッドに腰かけたはいいものの……。


 右手にはアリシアが腕に絡むように座り、左腕にはむぎゅっと可愛らしくひっつく少女。

 なにがどうなっているのか、ゼクスは固まっていた。


「で、その子はなんなの?」

「いや、俺にも分からん……」

「やっぱりロリコンだったのね……」

「いやいや、待て待て待て、どうしたらそうなるんだ」


 ムッとしたアリシアの顔がゼクスに急接近する。

 押し当てられる胸の感触、その反対側ではぺたんこの胸が――――


「お兄ちゃん?」

「え……」


 振り向くと、そこに居たのはつぶらな瞳で見つめる少女。


「さっきからお兄ちゃんってなんなん――――」


 ちゅっ……。


「ああああああ!」

「ん⁉ んんーっ⁉」


 叫ぶアリシア……。それとは別に、少女に口を塞がれたゼクスは声にならない声をあげた。

 柔らかッ――――じゃなくて、一体全体どういうことなんだ!


「っ……、お兄ちゃん……」

「キスしただけでそんなうっとりした顔になるな……っておい……」


 腕にしがみついていた少女はゼクスの胸元に顔を沈めて「ふぅ……」と一息。


「ゼクスゥゥ……」

「うっ……」


 アリシアは涙目になりながら怒りに震えていた。


「ま、お、落ち着け……これは不可抗力で――――んんッ⁉」


 なぜアリシアまで⁉


「こ、これでチャラだもん……」


 俺は役得なんだが……まぁ、アリシアがこれで納得してくれるならいいか。


「それで! あなたは誰なの!」

「フウは……フウだよ?」


 目をこすりながらフウと名乗る少女はアリシアの方へ――――抱きついた。


「え、な、なに⁉」

「おっぱいおかーさん……」

「お、おっぱ……ふぇぇ⁉」


「ブフッ……」


 フウの的確なネーミングセンスにゼクスが思わず声に出して笑う。


「ゼクスのえっち! 変態! ロリコン!」

「えっ……、俺が悪いのか⁉」

「だって、ゼクスは――――って、やぁっ……放してっ……ひゃうっ……!」


 俺から離れたフウは顔をアリシアの胸に沈めた挙げ句……。


「ちょっとゼクス……目を逸らしてないで助けてよ……!」

「いや、その、見ていられないというか……」


 少女がアリシアの服の中に潜り込み、服をめくりあげていくのは色々とマズいと言いますかなんと言いますか……。


「もー! どけようとしても力が強くて離れな――――あんっ!」

「アリシア! 大丈夫か!」

「ちゅー……」

「あ、んんっ……出ない、まだ出ないからぁ……」

「……」


 不意に立ち上がったゼクスが体を伸ばす。


 さてと、ちょっと外の空気でも吸ってくるか……。なにがどう、まだ出ないのかは聞かなかったことにしよう。


「いゃん! ゼ、ゼクス……早く助けてよぉ……ひゃうっ!」


 チラッと横目でベッドの方へ向けると、今にも飛び出しそうになっている下乳。少女の手がするすると下半身に――


「って、こらこら……! そっちはダメだろ!」

「ぅ~……」


 これ以上はマズいので少女の脇腹に腕を巻いて持ち上げた。

 少女が「ぶーぶー」と不満げに声を上げる。


「はぁ……はぁ……んんっ……」


 目元を押さえながら息を荒げるアリシア。

 その体がビクビクしているが――まさか、な……。

 アリシアのことはそっとしておくとして――――


 ベッドに少女を座らせて、向かい合わせになるようにしてしゃがみ込む。


「それで、君はフウだっけ?」

「ふう?」

「君の名前だよ」

「フウはフウだよ?」

「ああ、そうか……」


 話が通じるのか通じないのか分からん……。だが、可愛いことに違いはない。


「おてて」

「ん? なんだ?」

「おてて」

「手を出せばいいのか?」

「うん」


 右手を差し出すと両手でにぎにぎとされた。そしてそのまま頭の上に置いたフウ。


「ぜくす、なでる」

「……?」

「ぜくす、なでるの」

「なんでだ?」

「なんで? きもちいいから?」


 …………。


 とりあえず言われるまま撫でてみる。

 スリスリと手に擦りつけるように頭を動かすフウ。子どもというより、なんだかペットみたいな気がしてきた…………。

 これはこれで可愛いかもしれない……。


「ふーふー♪」


 嬉しいのかどうか分からないが、顔はご満悦なようだった。

 気持ちよさそうに撫でさせてくれるフウに対して、もうちょっとだけ続けてみる。


「ふーふー……ふーっ!」

「――ってなんでそうなる!」


 勢いよく飛びあがったフウに抱きつかれて、ゼクスが床に仰向けに倒れた。


 その上にまたがるフウが、とろんとした目でゼクスを見つめる。


「ふぅ……ふぅ……」

「おいおいおい……そんな目で見るな……そんな目でまたがるんじゃない……!」

「フウ、強い人……ぜくす、しゅき……」


 ぽふっと胸元に倒れ込むフウに思わずドキッとするゼクス。


「――ってか、なんで強いって……」

「フウをたおしたの、ぜくす……」

「……」


 四天王らしき部屋で緑髪の少女、「風」と書かれた部屋のベッドにフウと名乗る少女……。

 そして『フウをたおしたの、ゼクス』という言葉……。


 どう考えても――――――


「お前、四天王の風龍か!?」

「……」

「おい、ここで無視するな!」

「すー……すー……」


 胸元に倒れ込んで狸寝入りする少女。


「このタイミングで寝るな!」

「……だめ、なの?」


 ひょこっと顔を上げてこちらを上目遣いで見つめるフウ。


「…………」

「ぜくす強い……あったかい……カッコいい……」

「こらこらこら……、服を広げて入ろうとするなって……!」


 っていうか、なんで四天王が生きてるんだ……。

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