005

「ゼクスここは?」

「ここはだな……」


 森を抜けて荒廃した土地を走り抜けて辿り着いたのは――――――


「魔王が住んでたお城だな」

「え……それって」

「四天王も倒したし魔王も居ないから空き家かなって」


 戦う時に城の中で戦わなくてよかった。四天王たち全員が「我がこんな狭い所で戦うと思うているのか」なんて言われて一人ずつ外で戦闘。魔王は玉座で大きくなる前に倒したし、城が無事で助かった。


「あれ、そういえば」


 四天王たちの龍の死体が無い。


「どうしたの?」


 抱きかかえたままのアリシアがゼクスを見つめながら尋ねた。


「いや、大丈夫だ」


 うん、きっと大丈夫だろう。


「んじゃ、入るか」

「う、うん」


 ゼクスはそのまま歩き出す。アリシアといえば、居心地がいいのか頭をくっつけてにこやかに頬を染めていた。


 城の扉を開ける。ギィッときしんだ音が耳に入り、少しだけ顔がゆがんだ。


 高い天上と埃っぽい空間、なぜか燃え続けている蝋燭が燭台の上で光を放っている。夜になるとお化けでも出るんじゃないかというような、古風なお城。目の前には左右に螺旋を描いて二階へと上がる階段が見えた。


「なんかすごい雰囲気のある場所だね」

「そりゃ、魔王が住んでたからな」

「ベッドとかあるのかな?」


 ……。


「どしたの?」

「いや、なんでも」


 アリシアと二人きりだと歯止めが利かなくなりそうで不安になる……。出来ればベッドは別々の方がいいかもしれないな……。


 階段を上がらずに右側にあった扉の方へと進み中へと入る。長机に白い布が欠けられ、片側だけで十人ほどは並んで座れるような食卓。ここも蝋燭が燃えている。


 ……もしかして誰か居るのか?


「なんだかお城の食卓に似てるね」

「ああ、そうだな」

「ゼクスの反応、なんか冷たい……」

「え?」


 下を向くと、むぅっと頬を膨らませるアリシアの顔。


「すまん、集中してるとつい……」

「ふんっ、もういいもんっ」

「お、おい――」


 アリシアは身軽にゼクスの手を振りほどいて立ち上がった。

 頭が一つ分ほど違う身長差にアリシアがゼクスのことを見上げる。


「手分けして探したほうがいいでしょ?」

「それはそうだが」

「おいっちにー、さんしーっ」


 ゼクスに背を向けて準備運動を始めるアリシアが、足を伸ばしたまま上半身を前へと倒したり戻したりを繰り返す。

 突き出すようなお尻に素肌を晒した生足がゼクスの目に入り視線を泳がせた。


「動きやすい恰好で来てよかったー! ん……、ゼクス顔赤いよ?」

「い、いや、なんでもない」

「ん?」


 近付いて下から覗き込むアリシア、ぷるんと揺れる胸にゼクスの顔がますます赤く染まっていく。


「ねーどうしたのー?」


 生足と尻を無防備に向けられた上に迫ってくるアリシアに、思わず背を向けて歩き出すゼクス。


「俺はこっちを探すよ」


 これ以上アリシアを見ていたら色々と元気になってしまう。


「もー、急にどうしたの?」


 横から顔を覗かせるアリシアが右腕に絡みつく。


「いや、ほんとに大丈夫、大丈夫だから」


 収まれ……静まれ……。


「何をそんなに焦って――」


 アリシアは視線をふと下げた。


「はわ、はわわ!」


 多分、盛り上がっている部分を見てしまったのだろう……。アリシアはパッと絡めていた腕をほどいて距離をとった。


「そ、その、なんで元気なのかな!?」

「好きな人にそんな恰好で無防備にされたらこうなるに決まってるだろ……」

「うぅ……」


 揃って顔を赤くしたまま、二人はしばらく経ってから動き出した。


 ゼクスは二階を、アリシアは一階を見て回る。


 暫く城の中を歩いていると――


「ゼクス! ゼクスー!」


 二階の玉座を見回っていたゼクスをアリシアが呼ぶ。魔王の死体も無くなっていることに違和感を覚えながらも、ゼクスは一階へと下りていった。


 階段下で待っていたアリシアと合流。ゼクスはアリシアに手を引っ張られた。


「アリシアどうした?」

「寝室かな? 四つ並んだ部屋の中にあったよ!」


 四天王たちの部屋だろうか。律儀に四つ並べるって仲良しかよ……。


「ほらここの部屋!」


 水、雷、炎、風と書かれただけの扉は、明らかに四天王たちの部屋だった。


「めっちゃ分かりやすいな……」

「なにが?」

「ああ、いや、こっちの話」


 ゼクスの濁した言葉にアリシアは疑問符を浮かべた後、あまり気にする様子もなく水と書かれた部屋のドアノブを握り締める。


「しかもね――」

「ん?」


 勢いよく開かれた扉の向こうには――


「ふかふかのベッドとクローゼット、女の子みたいなピンク色の部屋なんだよ!」


 え……、あの水龍ってメスだったのか……?


「他の部屋は?」

「他も似たような感じだったかな、でもクローゼットの中に服が入ってたから助かるよー!」


 アリシアがなにも注意を払わずに部屋の中のクローゼットを開けると、そこには可愛らしい洋服が吊り下げられていた。


「……」


 ゼクスが無言で隣の「雷」の部屋を開ける。ピンク色の部屋にベッド、その上には抱き枕……。


「次だ次……」


 「炎」と書かれた部屋も同じくピンク色の部屋にベッドと、なぜかボールが転がっている。四天王がボール遊び……? そんなバカな……。


 「風」と書かれた部屋を開ける。


「ああ、良かった……」


 ここだけは白い部屋だった。綺麗なベッドに木製のクローゼット。机と椅子が素朴な雰囲気を出している。


 あんなピンクの部屋で寝たら変な気分になりそうだし、俺はここで寝るか。


「ゼクスー」

「どうした?」


 部屋の扉から顔だけを覗かせるアリシアに首を傾げるゼクス。


「こんなのあったんだけどさ……」

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