003
「は、早く出ていって!」
耳まで真っ赤にしたアリシアが枕を投げつけて追い返そうと必死になっていた。胸はなんとか片手で隠すことに成功している。
「え、でも――」
「いいから出てって!」
「ぶふっ!」
アリシアの投げた枕がミーシャの顔面に直撃した。後ろに少し下がったけれど、追い返すには至らず――
「いたた……ひどいです……、ひどい仕打ちなのです……」
男女の関係に水を差したお前はどうなんだ……と言いたいところだが――
「ミーシャ、服を着るまで外で待っていてくれないか?」
「え、でも……」
「それとも俺の裸を見ながら話でもするか?」
「えっ! いや! それはその……!」
ミーシャは枕でぶつけられた鼻先が赤くなっていたが、その赤らみが顔全体に広がっていく。
正直なところ、ミーシャは空気は読めないダメなメイドだが容姿はいいものを持っていた。金色の髪を肩まで下げて……胸はないが顔は悪くない。つまり――
「俺は別に構わないが?」
ゆっくりと立ち上がり、見えないように、アレが決してミーシャの目に触れないように体の正面をずらしていく。
「そ、外で待ってますから! 待ってますからぁああああ!」
バンッ!
「……はぁ」
とりあえずなんとかなったか……。
あんまりこういうことはしたくないんだが状況が状況なだけに仕方がないか……。
「ねぇゼクス」
「ん……どうし……」
後ろから抱きつかれて背中に柔らかいものが当たる。耳元に彼女の吐息が聞こえ――
「今のうちに逃げよう?」
甘えるような声で言うアリシア。
「……」
俺は――――アリシアと一緒に居たい。
「ね? いいでしょ?」
好きな人に抱きつかれた上にここまで言われたら男として引くに引けない。
「分かった……分かったから」
「ほんとに!?」
嬉しそうな声に自然と俺も嬉しくなる。だが――
「とりあえず服を着ようか」
「う、うん……そだね……」
勢いでくっついていたアリシアは自分の体を見て恥ずかしそうにもじもじしていた。薄いタオルケットを急いで羽織るように全身を隠す。
付き合い始めて二年が経った今でも、彼女の可愛い仕草はズルいと思う。
「じゃ、着替えるね……」
「お、おう……」
ベッドから離れていく音、クローゼットを開けて衣服を取り出し着替える音が耳に伝わってくる。
「こっちにしようかなー……あ、でも、こっちの方がいいかも……」
女の子らしい悩みが生で聞こえてくる。
「……」
もう少し聞いていたいところだが俺も着替えよう。
お、さすがアリシア。ベッドの脇に置いている小さめの机の上に着ていた服をまとめてくれている。
バサッと和服を広げて袖を通す。
「あ、ゼクス待って!」
「どう、し、た――――ってアリシアッ……!?」
ピンク色の下着に胸を手で隠しただけのアリシアがこっちに、ベッドの上に飛び乗ってこちらへとやってきた。
「お、おい……」
たまにこうして見せるおてんばな一面。こんな姿を見られる俺は幸せ者だなとつくづく思い知らされる。しかし、まじまじと生肌を見せつけられるとさすがに照れてしまう……。
「ゼクスの服、新しいの用意してあるから!」
「俺、この服が好きなんだが」
「そう言うと思ってちゃんと同じような服を用意してある!」
どこまで出来た彼女なのか……。
「ありがとう」
「う、うん……」
自然と感謝の気持ちを伝えると、照れたアリシアが髪の毛を指でくるくると遊び出した。髪を触っている手はさっきまで胸を隠していた手――
「アリシア、胸……」
「あっ……、やだっ、ゼクスのえっち……」
頬を膨らませてもう一度隠したアリシア。
え、可愛すぎないか……。
***
アリシアの用意してくれた和服は黒地に赤いラインを走らせたものだった。俺の趣味にもピッタリ合うように選んでくれたらしく、着心地も良い。
帯に刀を携えてと――
「んじゃ、行くか」
「うん!」
「……」
振り返った所に居たアリシアの姿は素晴らしかった。長い髪を一本にまとめたポニーテール、少し襟元の広い半袖の動きやすそうな白いシャツに太ももをギリギリまで露出したホットパンツ姿。国のお姫様とは思えない活発な見た目に心臓がバクバクと音を立てた。
「似合う、かな……?」
目の前に来たアリシアは手を後ろに組みながら問いかけてきた。上目遣いで自信なさげな表情に頬が熱くなる。
「に、似合ってる……」
「ほんとに?」
「ああ」
直視できないくらい似合っている。
「むぅ……こっちを見て言ってくれなきゃやだ」
手の甲で顔を見せないようにしながらチラッと目を合わせる。
「むぅ……」
「か、可愛い……可愛いすぎるから……」
それ以上見つめないでほしい。
「から? から、なに?」
むにゅっと何の気なしに押し付けられる彼女の胸に耳まで熱くなってしまう……。
頭に手を乗せてそっと引き離す。
「その見た目で迫られたら照れるだろ……」
「ふふっ、良かったぁ♪」
ゼクスが頭に乗せた手を、アリシアは両手で握りながら笑顔を見せた。ゼクスの手を撫でるように動かしてご満悦のアリシア。ゼクスはその可愛さに耐えるべく反対の手で口を押さえる。
「なでなでー」
「おい、恥ずかしいって」
「誰も居ないもん♪」
「っ……」
甘え上手なアリシアにたじたじのゼクスだった――
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