002
「うっ……」
目が覚めると見覚えのある彼女の部屋だった。
なぜ俺はアリシアのベッドで寝ているんだろうか。
「確か……」
そうだ、俺は王に刀を突き立てて……。
「んん……」
ゼクスはそこでようやく誰かが隣に居ることに気がついた。生暖かい人の感触が体の左側にある。左足は隣で寝ているであろう者の足が絡みついていた。スベスベの生足に自然と目が覚めていく。
「すぴー……すぴー……」
肩の辺りにはアリシアの吐息がかかり、彼女の柔らかい二つの胸が腕を挟むように押し当てられている。
「……アリシア」
目線を向けた先には無防備に寝ている王の娘であるアリシアの無防備な寝顔。直接当たる肌が二人とも裸で寝ていることを教えてくれた。
「ゼクス……」
「起きたか?」
「すぴー……すぴー……」
アリシアは目を開けずに呟き再び寝息を立てる。シチュエーション的には最高と言っても過言ではない。可愛い顔つきに大人びた体つきをしているアリシアは、男なら「一度は抱いてみたい女性ランキングベスト一位」を十六の時から五年間も守り抜いているのだから。
「これは役得だな……」
そう呟いたゼクスも彼女が目的で魔王を討伐していた。
既にアリシアの初めては貰っている。そして、ゼクスも彼女が初めての相手だった。
自然と付き合うことになったのは当たり前であり、王がそれを認めようとしないことも必然であった。非公認の付き合いは二年ほどにもなる。
ゼクスは絡んでいるアリシアを引き離そうと腕を動かした。
「あんっ……」
「そんな声だされたら動かしにくいだろうが……」
ただでさえ好きな相手の肌が触れてるってのに、この状態で艶かしい声出されたらあっちが反応してしまう……。と思っていたが、既にご乱心だったらしい。布団の一部が小さな山を、下半身の辺りから築いていた。
「これでヤらない方が失礼だよな……」
***
ゼクスはベッドから足を出して床につけていた。アリシアに背を向けて気まずそうに頬をかく。
「その、すまない……」
勢いとはいえ寝込みを襲ってしまったことが申し訳ない……。だが、この国一番の女性であり大好きな彼女が隣で全裸で寝ているのに、ヤらないという選択肢はないだろう。
「お、おはよう……ゼクス……」
「あ、ああ……」
部屋がしんと静まり返る。
アリシアは胸元まで布団を手繰り寄せて頬を赤らめていた。細い身体のライン、背筋の反りが綺麗な曲線美を描いている。白い髪がその背中に沿うようにして流れ、青空を映したような瞳がゼクスへと向けられる。
「ねえ、ゼクス」
「なんだ?」
「お父様があなたのことを追放するって……」
「ああ、そうらしいな」
あんな王の元で暮らすくらいならこちらから願い下げだ。アリシアの父親だが正直なところ、俺は傲慢な人間が好きじゃない。
「ねえ」
「どうした?」
「こっちを向いて」
「ん?」
ベッドに手をついてアリシアの方へと振り返る。
「……ッ!?」
唇に柔らかい感触がしたと思えば、アリシアがそっと俺に口づけをしていた。
数秒間のアリシアからのキスに心臓が高鳴っていく。
「ゼクス……」
綺麗な青い瞳が向けられる。シーツの上を滑る彼女の太ももに自然と目が行ってしまう。再び元気になってしまいそうな気配を漂わせる下半身に気が付き、俺は視線を逸らした。
「な、なんだ……?」
「…………て」
「え?」
「私を連れて行って……」
アリシアが寄り添うようにゼクスの胸に顔を埋める。柔らかい彼女の胸が体に触れる。
「……ア、アリシア?」
ゼクスはアリシアが彼女になるまで、一度も誰かと付き合ったことがない。加えて彼は天涯孤独の身、自分を好きになってくれたアリシアのことが何よりも大切だった。そんな彼女に純粋に抱きつかれてしまえば、顔を真っ赤にするのは必然である。
「このままじゃ、ゼクスと離ればなれになっちゃう……」
「でも、それじゃ……」
アリシアへと振り向くと子犬のような眼差しでこちらを見つめていた。少女と女性の狭間をその身に宿したような完璧彼女に、そんな顔をされて迫られたら言葉を失ってしまう。
「ゼクスは私のこと、嫌い?」
「そんなわけないだろ」
「なら、私を一緒に連れてどこか遠くに……」
「俺は追放されるお尋ね者、アリシアはこの国のお姫様だ……一緒に居ることはみんなが許さない……」
口にせずとも理解していた事実をアリシアへと伝える。きっと、この選択肢が正しい。二人で逃げたとしても行く当てもない。
「それでも私はゼクスと一緒に――」
ドンドンドン!
部屋の扉が大きな音を立て、二人はハッと目の前の扉へと目を向けた。
「アリシアお嬢様!」
「な、なに?」
声からしてアリシアの召使いであるミーシャだ。こいつは多分――
「失礼しま――――ってはわわっ!」
全裸の状態を目の当たりにしたミーシャが顔を覆いながら慌てだす。いや、指の間から目が見えてるから……。
「ミ、ミーシャ! 勝手に入って来ないでよ!」
「し、失礼しました!」
ぺこりと頭を下げたミーシャ。だが、辛うじて目を必死に上に向けてこちらを見つめていた。メイド服姿のミーシャはまだ十五歳、男女の裸を見るにはちょっと早い。
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