魔王を倒したのに王に「追放する」と告げられたので、お姫様と一緒に魔王城で生活することに~王様が嘘をついた結果、外の世界で俺は魔王になっていたらしい~
忍原富臣
第一話「お姫様と城を抜け出す」
001
最強と呼ばれ魔王を倒した剣士ゼクスは王城に居た。和服姿に右頬に走る傷痕、茶色く光る瞳が偉そうな王様に向けられる。
「ゼクスよ」
「はい」
ふんぞり返って鼻息を漏らすのは小太りの王。
こちとら疲れはててようやく帰って来たってのに、街に帰ってきた途端、兵士たちに捕縛されて今に至る。
己の身一つで四天王である水龍、雷龍、炎龍、風龍を斬り伏せ、魔王と三時間以上にも及ぶ激闘の末に勝利。疲れきった体を宿で休ませる暇もくれずにここに連れて来られた。
「今回の件、誠に大義であった!」
「はぁ……」
「……」
俺の返事に王が眉をしかめた。疲れているのにこんな所で横柄なデブを見ている時間がもったいない。せめて白いドレスを着た銀髪美人な王女様だったら、幾分かマシな返事が出来ただろう。
「ゼクスよ」
「はぁ……」
呼びかけにため息混じりの言葉を返す。
早く宿で寝たい。そんな想いに駆られて目を伏せた。立っていることすらやっとの体、美女にでも抱きつかれれば回復することだろう……。だが、あいにく目の前には気取ったデブが居るだけだ。
「ごほん、ではゼクスよ」
「あぁ、手短にな……」
数段上で椅子に座る王を睨み付ける。魔王も四天王も倒した今、誰も俺を止めることなど出来ない。それは国一番の王であろうと同じこと。
王のが息を吸い込んで膨らんでいく。
「お主をこの国から追放する!」
「……あぁ、あんたの娘を俺にくれ」
どうせ褒美が貰えるだろうと思い、決めていた言葉を口にした。
ん、待てよ……。こいつ今なんて……。
「何を戯けたことを、ゼクスよお主は既に魔王以上の力を持っている! この国に残ることは許さない! 危険だ!」
「誰がこの国を救ったと思っているんだ?」
「それとこれとは話が違う!」
「はぁ……」
疲労と苛立ちから歯を噛み締めると、ギシギシと音がした。
「ふざけたことをぬかすなよ……」
ゼクスは腰に携えていた刀を鞘ごと抜いて杖のようにして体を支える。
まずい……。体力が限界に近づいているようだ……。
「……俺が魔王を倒したのに、見返りもないのか?」
「だから、私から労いの言葉をくれてやっただろう」
王はひじ掛けに両手を置いたままニヤニヤとゼクスを見下ろした。
「この腐れ外道が……」
怒りが沸き上がり左手で鞘を掴み上げる。右手は柄を握って黒い刀身を引き抜いていく。
この世に生を受けて二十五年、これほどの怒りを覚えたのは初めてかもしれない。いや、常日頃の態度にもムカついていたところだったから丁度いい。ビビらせてやろう。
「な、なにをするつもりだ!」
「俺は今、無性に腹が立っている……この刀もお前の血が欲しくてたまらないらしい……」
「ま、待て! 王である私に刃を向けるつもりか!」
焦りだした王が汗をたらしながら体を揺らす。
「汚い茶番に付き合わせやがって……」
「は、話を聞けゼクス!」
「聞く耳持たぬ……」
「お、お前たち! ゼクスを止めろ!」
壁際からぞろぞろと……、数十人の兵士があっという間に王と俺の間に立ちふさがった。だが、その誰もが震えていた。それはそうだろう。幼少の頃から刀を振るい続けて二十年、私に並ぶ剣士など居なかった。こいつらは俺の足元にも及ばない。
「これだけか?」
「ふん! それは倒してから言うセリフで……あって……」
王の言葉が途中で聞こえなくなり、王は口を開けたまま固まっていた。
「……この程度の雑兵に私が止められるとでも?」
言い終えたゼクスの周りで次々と兵士が地面に倒れていく。
ゼクスは瞬く間に数十人の兵士たちに刀背打みねうちをした。その動きが見えていた者はこの場には居ない。
魔物の方がまだ反応速度が速いぞ……。
ゼクスは誰にも聞こえない声でそう呟いた。
ジリジリと王へと近付いていく。
「わ、私を……王である私を殺す気か!」
必死になって逃げようとしているが、椅子に座ったままではどこにも行けない。
「重い腰はさぞかし辛いだろう?」
今度はゼクスが王を見下し、ゴミを見るような目を向ける。
右手にギラリと光る刀が王の瞳に反射した。その目には涙が浮かんで恐怖に震えていた。
ゼクスは刀を振り上げる。
「た、頼む……命だけは……どうか命だけは……」
王の言葉を無視して持ち手の部分をくるりと回す。下を向いた刀の先が今にも王へと振り下ろさんとしていた。
「権力にまみれて肥えた王めが……恥を知れ……」
「や、やめ!」
ガキン……!
王の股の間に突き立てられた刀がその素材を成している大理石を貫く。
「ひぃっ……!」
言葉と共に王は汗と涙、下半身からも汚いものを垂れ流した。刀が汚れる前に引き抜いたゼクスは念のために刀を確認する。
刃こぼれも無し、王の失禁も付いてはいない。
「……これで勘弁しといてやる。次、誰かに頼みごとをする時は気を付けろデブ」
「……」
気絶して聞こえていないか……。
刀を鞘に戻しながら、ゼクスは王の間を去っていく。どうしようもない王を守ろうとした兵士たちを踏まないように気をつけて。鞘を腰に戻したゼクスは首を回した。
「さて、これからどうするかな……」
誰に言うでもなく、耳をほじりながら王の扉を開ける。
「あ……やばい……」
緊張が解けたのか、全身の力が一気に抜けていく。膝から崩れて体が前に倒れだした。
「ゼクス!」
……聞き覚えのある心地良い女性の声。それと共に顔が柔らかいなにかに包まれた。
「ゼクス大丈夫!?」
このたわわな胸は……。
「アリ、シア……」
倒れ込んだゼクスを抱いたのは王の娘アリシアだった。
胸の開いた白いドレスに身を包み、まだあどけなさの残る顔で心配そうにゼクスを見つめる。
「ごめんね……お父様にはちゃんと休んでからってお願いしたのに……」
「……」
アリシアがなにを言っているのか、ゼクスは既に聞こえていなかった。
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