6話:BLは学園モノミステリー?



「はー、楽しかったあ」

「お友達とたくさん遊んでもらえると嬉しいです」

「うん! みんなで七色作るんだ!」


 一通り遊んだ風花は、満足顔でリビングの電気をつけた。

 暗いところから急に明るくなったからか、少しだけ目を細めながらユキと会話をしている。


「いいですね。色々試してみてください。取説渡しますね」

「ありがとう! 太陽、保管お願いしてもいい?」

「はい! いただいてもよろしいでしょうか?」

「わかりました、ちょっと待っててくださいね」


 話がまとまると、みんなが見ている中、ユキは再度あの「闇鍋袋」に手を入れた。取説も、その中に入っているらしい。


 なお、先程死ぬほど後悔した太陽は、何が来ても良いように風花の隣で緊張しながら待機している。翼は、すでに目を覆っているではないか。……トラウマになっていないことを、願うばかりである。


「えっと……これじゃなくて、こっちも違くて」


 先程のビニール音はしないので、コンドームではなさそうだ。布の擦れる音もしないし、今度は大丈夫と思っても良いだろう。……多分。


「あー、あったあった。B5サイズなので、保存はしやすいと思いま……」

「……」

「……」

「……」

「あ、それだ。さっき話してたやつ」


 と、またしても別のものを取り出してしまったようだ。しかし、先に出した2つよりはダメージの少ない……いや、少なくないか。


 ユキの手には、冊子がおさまっている。取説と間違えたのは、形がそっくりだから仕方ない。

 だが、なぜそれが袋の中に入っているのか。なぜ、目視しながら出さないのか。小1時間問い詰めたい。


「……吸血鬼の薄い本」

「薄い本ってなに?」

「えっと…………」

「その、ですね……」


 その冊子は、いわゆる「同人誌」と言われているもの。ユキの世界で人気のあるアニメを二次創作した本だ。

 しかも、「R18」と表紙の端に記載されている。とりあえず、ユキが手にして良いものではない。


 風花が質問をしてくるものの、どう答えたら良いのかわからないユキと太陽が、しどろもどろになりながら必死に言葉を探している。一方、


「へー、これか。読んで良い?」

「……お前、よく読めるね」

「言ったじゃん、興味あるって。世間的に、吸血鬼がどう見られてるのか知りたいんだよ」

「……同人誌の内容が世間一般だと思わないほうがいいぞ」


 そんな中、アカネと何故か彬人が興味津々だ。

 だが、彬人は優一に「18禁だから、俺らはダメな」と途中で止められてしまった。


 ありがとう、優一。君が止めなかったら、きっとこのストーリーはここまでで終わっていたよ。


「……え、待って。え?」

「アカネ、どうしたの?」

「……吸血鬼が男だった」

「う、うん?」

「…………相手も男だった」

「あー……」


 1ページ目を開けたアカネは、何か他のものを期待していたのだろう。読むなり、げんなりとした様子で本を閉じてしまった。


「瀬田さん好きそう……」

「なぜ、どっちも男なんだ? 相手役がいないってことか?」

「いや、相手役が男なんだよ」

「……?」


 いわゆる、BLというやつか。


 そもそもBLを知らないらしい彬人が、「女子はどこに行ったんだ?」と首を傾げている。


「女子は元々いないんだよ」

「なんと! ミステリーものだったのか!」

「いや、そうじゃなくて」

「始めから相関図に入ってないんだよ」

「なんだ、イジメか! ということは、学園モノだな!? 最近の学園モノは、イジメがリアルだからな」

「…………もう、それでいいよ」


 京也と優一が説明するも、理解の範疇を超えているのか一向に分かってもらえない。その隣で、翼も「?」を浮かべているではないか。

 ……というか、なぜ2人は知っているんだ?


「読み終わった」

「はやっ!?」

「感想は?」


 彬人に説明している中、アカネは読み進めていたらしい。本をパタンと閉じ、複雑な顔をしている。


「……とりあえず、世間一般の吸血鬼の印象がどうなのかはわかった」

「だから、世間一般かどうかは怪しい」

「……吸血鬼は、男色家だと思われてるんだな」

「いや、それはBLだから……」

「それに、吸血鬼の好きなものは血よりも男の「あーーーーーーーー!! ストオオオオォォオオップ!!!」」

「でも、杭をケ「はああああああああああああああ!!!」」

「僕は、女の方が「うはあああああああああああ!!!」」


 と、ショックを受けたアカネの独り言がかなりアウトなものが多い。それを主人へ聞かせたくない太陽は、1人で騒いでいる。

 そのおかげもあってか、「太陽、今日はなんだか楽しそうだね!」と主人から「労いの言葉」をもらっていた。


「……はは」


 一言で表すなら、「カオス」である。


 自分が招いてしまったこの現状を、一歩引いて風音と一緒に眺めているユキ。


「……次は、オレが荷物検査するから」

「ぜひ、お願いします……」


 と、本物の取扱説明書を握りしめながら、今日一番に実感のこもった言葉を吐き出した。


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