5話:魔法光を瞳に映して
「いきますよ。……アイスバレット!!」
ユキは自身の持つ攻撃魔法を、手に持っているイルミネーションへ向けて撃ち放った。すると……。
「わあ! すごい!」
「おお、これは」
「生きてる?」
勢いよく解き放たれた淡い水色の光が、コード状に絡まる電球へと吸収されていく。それはまるで、生き物のようにうねり、自ら光を求めているように見ている人を錯覚させた。
しかし、気味の悪さは全くない。むしろ、リズムに合わせてステップを踏んでいるように見えるからか、心が弾むアイテムとして認識されたらしい。
魔法光を瞳に写し込んだ風花が、キラキラとした視線をそれに送っている。
いや、風花だけではない。彬人も、好奇心を大いに刺激されたのか、負けじと瞳を輝かせている。
「このイルミネーションに、コンセントはありません。攻撃魔法によって、いろんな色に光る仕様なんです。風花ちゃんの世界では、いろんな属性の攻撃魔法があると聞いていたので、ぴったりだなって思って持ってきました」
「嬉しい! ってことは、私が詠唱したら白色になるってこと?」
「やってみましょう。風花ちゃん、ここに向かって攻撃魔法を撃ってみてください」
「うん!」
暗闇と言えども、昼間なため多少の明るさはある。
風花は言われた通り、ユキに向かって杖を持つ腕を上げた。
「wind shot!」
風花の透き通った声と共に、杖の先から白い光の塊が解き放たれる。
狙いを定めたわけではないのに、それは真っ直ぐユキの持つイルミネーションへと向かっていった。
「わあ……」
その光の眩しさに、翼が目を覚ましたらしい。みんなと同じく……いや、みんな以上に真っ白な光を見て目を輝かせていた。
意中の人が作った光である。彼にとって、それは特別なものに違いない。瞬きひとつせず、記憶に刻み込もうと必死になって見ている。
放たれた白い光は、コードの端から端までを駆け巡り徐々に消えていった。
「すっごい! 本当、生き物みたいだね」
「これなら、コンセントの使えない場所でも使えますよ」
「でも、すぐ消えちゃうよね。何回も魔法使ってると、魔力がなくなっちゃう」
「大丈夫です。長く点灯させたいなら、こうするんです。アカネ、持ってて」
「うい」
「先生、やりますよ!」
「はいよ」
ユキがアカネにコードを渡すと、少し離れて風音と並んだ。
何が起きるのかわからないメンバーが、楽しそうにその様子を見ている中、2人は視線を交わし、
「「グレイシャルアイス」」
と、中魔法と呼ばれている攻撃魔法を放った。
それは、周囲の温度を下げる魔法。
体温を奪い、精神的にも追い詰める高度な魔法である。
しかし、今回はその冷たさもイルミネーションの中へ吸収されたようだ。よく見ると、電球が濁り淡い点滅を繰り返している。攻撃の種類によっても、光り方が変わるらしい。
「さっきとあまり変わらないような……?」
「このイルミネーションは、人数が多ければ多いほど光る時間が長くなります。なので、見た目は種類によって多少変わりますが、大きな変化はなしです」
「へえ! じゃあ、月と京也くんが詠唱したら、私が1人でやるより長くなるんだね」
「はい。2人より3人、3人より4人の方が、光る時間が長くなるんです」
そう。このイルミネーションは、魔力に反応する石が込められたもの。故に、複数の魔力が混ざり合った分だけ、持続的に測り続けることのできる代物なのだ。
これなら、電球が切れて交換することもない。
「でも、月と京也くんは同じだけど、私たち属性が違うから難しいかも」
「大丈夫ですよ。属性が違ければ、2、3色で光りますから。むしろ、属性を混ぜた方が綺麗なんです」
「えっ、やってみたい!」
ユキの説明を聞いてやる気を出した風花は、続けて、
「京也くん、一緒にやろう」
「おう」
と、隣に立っていた京也へ声をかけた。
なお、余談だが、その隣の隣にいた翼は、選ばれなかったことにシュンとしているではないか。それに気づいた優一が、笑いを堪えながら励ましている。
「行くよー、wind shot!」
「dark shot!」
2人の声が重なると、すぐに杖の先から光が飛び出してくる。それらは、電球部分に吸収される直前で混ざり合い、雪のような淡い灰色に変化していった。
更に、それだけでは終わらない。
「わあ! 光がダンスしてる!」
「……すげえ。けど、パターンがよくわかんねぇ」
「2種類の属性が混ざり合うと、点滅の仕方が変わるんです。混色で光るだけじゃなくて、今で言うと、白と黒が交互に動いて踊っているような光り方もします」
「なんだか、私と京也くんがダンスしてるみたい」
「そうだな……」
「ぼ、僕も、桜木さんとやりたい!」
京也に嫉妬したらしい翼が、勇気を出して声を上げた。
いつもより優しい表情の京也に危機感を覚えたらしい。顔を赤くしつつ、すでにその手には杖が握られている。
「いいよ! いろんな色を見たい!」
「やった!」
その翼の感情に気づいていないのは、風花くらいだろう。周囲の人たちは、そんな彼の行動に微笑みながら見守っている。
……いや。
「これが、さくらんぼの味というやつか!」
「……表現が古くない?」
「先週、カッコ良い言葉を探して国語辞典を見てた時に見つけたんだ!」
「暇かよ」
「暇じゃないぞ! 和英辞典でも探さないといけないからな!」
「……暇かよ」
と、彬人が茶化しを入れているではないか。……カッコ良い言葉を探して辞典を見るなんて、きっと彼くらいしかしないだろう。
優一のツッコミに、さすがの太陽も吹き出している。
「灰さん、姫さまの光を手に乗せたいのでイルミネーションをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。3色以上混ぜると、一時的に熱くなるので火傷に気をつけてください」
「承知いたしました」
ユキは、持ってきたイルミネーションが交流に使えると思ってはいたものの、ここまで喜んでくれるとは思っていなかった。
予想外の賑わいに、頬が大きく緩んでいく。
「よかったね」
「うん! 持ってきて正解だった」
「ユキは、あの女の子のことが大切なんだね」
「……風花ちゃん、すごく強い女の子なんです。いろんな事情を抱えているのに、今だってあんなに笑ってる」
「……うん。楽しそうに笑ってる」
「前会った時は、無表情でさ。こんな顔して笑うなんて、知らなかった。私、すごく嬉しい」
「ユキも、今日は楽しそうだよ」
それを見ていたアカネが小さな声で声をかけると、ユキも小さな声で会話をする。
彼女は、よく笑うようになった。
感情を取り戻している証拠だろう。
以前は、その感情を取り戻し色々思い出した時を怖く感じた。しかし、今は彼女の笑顔を見てそう思う自分がいないことに気付く。
「……きっと、あの黒田さんとは敵同士なんだと思う。仲間にしては、なんだか周囲がぎこちない」
「そう? 僕には、あの2人がこれからの未来を引っ張っていくように見えるよ。仲間とか敵とかそんな小さな括りじゃなくてさ」
「……そうだと良いな。黒田さん、風花ちゃんのことが大切で仕方ないって顔してる」
「同感」
「ユキちゃん! 一緒にやろう!」
「はい、今行きます」
風花の呼ぶ声に応え、走っていくユキ。その後ろ姿を見て、アカネと、その後ろで話を聞いていた風音が微笑んでいる。
「良い友人に出会えたよ」
「だな」
目の前では、混ぜた後は何色になるのかのゲームが始まっていた。
同色を異なる魔力量で放つとどうなるか気になった風花のために、太陽は月と変わり京也と楽しそうに魔法を使っている。
杖の先端から解き放たれる魔法光は、しばらく止むことを知らずに部屋の中を飛び交った。
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