4話:歩く18禁と揃えました



「次はですねえ……」

「……」

「……」

「……」


 全員が見守る中、ユキは再度大きな袋に手を入れ始めた。すると、先ほどはしなかったガサガサとしたビニール音がするではないか。


 とりあえず、パンツの音ではないことに安堵した太陽。やっと、風花から離れて、変な格好によって凝り固まった身体をほぐすため背伸びをし始めた。


 しかし、それが間違いであったことをこの後思い知らされることになる。


「あったあった。これなんですけど……」


 と、先程同様、お目当てのものを見つけユキは笑顔になった。ゆっくりと袋から手を引き抜くと、そこには……。


「…………見ました?」

「見てない」

「見てない」

「見てない」

「わああああ!!」


 さすがのユキも、赤面顔を披露しているではないか。


 ユキは、それを視界に入れた瞬間、袋の中に戻した。しかし、他の人たちにはバッチリ見えたらしい。

 男性陣全員が、真顔になりながら「見てない」という言葉を繰り返している。特に、主人の目を曝け出させてしまった太陽の慌てようがすごい。


「……風花ちゃん、見ました?」

「うん。びろーんって長かった!」

「……誰か、忘却魔法を」

「無理」

「無理」

「無理」

「無理」

「今の、なあに? お菓子?」


 まさか、何連かに繋がっているだったとは言いにくい。

 救いだったのは、可愛らしい包装、飴玉かラムネが入っているであろう見た目をしていたことか。


 なぜそんなものが入っていたのか、疑問である。


「えっと……。その」

「お菓子ではなくてですね……」

「……?」


 と、風花に嘘がつけない太陽とユキ。しどろもどろになりながら、どう説明すれば良いのかを必死になって考えている。


「……し、親しい間柄で使うというか。一線を超えた相手と使うというか……」

「別に隠すようなもんじゃねぇじゃん。共同作業で使うも「ああぁあああああああ!! ダメですぅ!! 姫さまにはまだ早いですぅ。私を倒してからにしてくださいぃぃ!!」」

「? 知ったっていいじゃん。つけないやつの方が非常識だろ」

「まあ、確かに」

「そういう問題じゃないんですぅ! もっと、段階を踏んで私を倒して段階をおおおおお!!」


 そこに、爆弾のごとく情報を投下するアカネ。と、共感する京也。……を、必死になって止める太陽と、なんだか騒がしい。


 なお、翼と彬人は見事にノックアウト状態である。かろうじて、優一が冷静を保っているといったところ。しかし、それらもここまでである。なぜなら、


「共同、一線を越える……使う? ……あ、わかった!」


 と、今まで難しい顔をして考え事をしていた風花が何か閃いたのか、嬉しそうに口を開いたため。

 男子陣は、彼女を止めるべきなのか、はたまた、自身の耳を塞ぐべきなのか。……いや、多少好奇心があるのか、聞きたがっている様子も窺える。


 そんな中、今度は風花が問題発言を繰り出してしまう。


「それって、相原くんと使えるやつでしょう?」

「………………」

「……あ、翼死んだ」


 翼は、顔面蒼白になったと思ったら、今度は顔を真っ赤にして倒れてしまった。……少々、刺激が強かった、いや、強すぎたらしい。

 いつもなら「モザイク状態」を挟むのだが、それすら吹っ飛ばして倒れてしまったようだ。


「え、風花ちゃん。相原くんと……?」

「だって、今日一緒に黒板消したし、日誌も書いたし。これって、共同作業だよね?」

「…………」

「でも、いつ使うんだろう?」


 と、本人は本来の意味をわかっていない様子。

 一緒にした作業を思い出しているのか、とても楽しそうな顔をして話してくる。更に、


「あと、京也くんとも使えるね!」

「ブッッッ!?」

「ひ、姫さ、ま……?」

「だって、最近話しやすいし。一線を越えるって、もっと仲良くなるってことでしょ?」

「……ゴリラ、生きろ」

「ゴリラよ、永遠なれ……」


 と、今度は京也がノックアウト。

 翼のように倒れはしないものの、完全に精神が削られている。優一と彬人にエールを贈られながら、必死になって素数をつぶやいているではないか。


「あの、言い訳しても良いでしょうか」

「……どうぞ」


 さすがに申し訳なくなったらしいユキがおずおずと手をあげると、その隣で呆れ顔になっていた風音が声をあげる。


「あの、25連勤中のアリスと中身揃えました……」

「あー……あの歩く二次元18禁」

「え、瀬田さんってそうなの?」

「あの人の部屋やばいぞ。確か、吸血鬼モノもあった」

「なにそれちょっと興味ある」

「やめろ。ちょっとでも興味示したら、あの人仕事休んで3日は寝ずにオタクトークしてくるからな。魔警職員の体力舐めんなよ、3徹なんて軽いぞ」

「まじか……。風音さんは経験済ってことね」

「……思い出させるな」


 なんて話をしていると、とりあえず「やばい人と一緒に揃えた」ことは理解してもらえたらしい。「天野さんは悪くない」というお墨付きを全員(ただし、意識のある人のみ)からもらえた。

 太陽なんか「25連勤……」と、ブラック環境に居る彼女に同情しているようだ。


「と、とにかく失礼しました。渡したかったのは、こっちです」

「あ! イルミネーション!」


 大混乱の中、ユキは本来出そうとした長細い紐状のイルミネーションを取り出した。

 なにをどう間違えたら先程のものを出せたのか不明だが、これでやっと話が前に進みそうだ。


 なお、翼は未だに倒れており、京也は口に出すものが素数から円周率に切り替わっている。


「ただのイルミネーションじゃないんですよ! 太陽さん、カーテンおろしても良いですか?」

「はい、どうぞ。外の光を遮断する感じですか?」

「そうですそうです、話が早い!」

「遮光カーテンなので、外の光は漏れにくいです。……これで良いでしょうか?」


 と、先程までパニック状態だったにも関わらず、お願いすればすぐさま行動してくれる様子は、執事そのもの。さすが、プロ級の付き人である。


「ありがとうございます。後は、えっと……。ちょうど近くにいるので、黒田さん、ちょっと消してもらっていいですか?」


 と、今度は部屋の電気を消そうと、スイッチの側にいた京也へ声をかけるユキ。

 しかし、円周率を言うのに忙しかった彼は、どうやら話を聞いていなかったらしい。ユキのお願いに、


「え、誰を?」


 なんて、物騒な発言をしてくる。

 目が死んでいるせいか、いつもよりも迫力がすごい。風花の知り合いでなければ、きっと戦闘が始まっていたに違いない。


「電気です。電気!」

「……ああ。これでどうだ?」

「ありがとうございます」

「真っ暗になっちゃった!」

「これからですよ」


 リビングは、遮光カーテンの隙間から覗く微かな光を除き、暗闇に変わった。すると、


「いきますよ。……アイスバレット!!」


 ユキは、自身の持つ攻撃魔法を、手に持っているイルミネーションに向けて撃ち放つ。




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