第18話

「ふっ、ちょっと表情を確かめたのさ。俺は今、絶望したような表情はしてないだろう?」

「はい」

 メリシャが元気よく返事をする。

「じゃぁ、大丈夫だ。助けに行こうか、サラを」

 殿下の顔色が変わる。

「サラの居場所が分かったのか?また、助けてと言う声が?」

 そうそう、そういうことになってるからそういうこと。

「サラは、ドラゴンの巣にいる」

 引きこもっているんだよ。

 誰にも会いたくないってんでなー。

 だから、殿下が迎えに行って、好きだーとか叫べば出てくるさ。たぶん……。声、届くのかな?

 近くに行けば届く?

 なんか、声を遠くに届ける系のスキル持ってる人いないのかな?風魔法とか使える人で、魔法を利用して声を運べないものか?

「サラが、ドラゴンに連れ去られたと?」

 いや、違うよ。サラが自分でドラゴンの巣に行ったのだよ。

「アレン様っ!」

 アレン殿下の動きは素早かった。すぐさま、踵を返して走り出した。

 メリシャが名前を呼ぶも振り向きもしない。

 って、どこ行くんだよーっ!

「アレン様……まさか、おひとりでドラゴンの巣へ……行きましょう、師匠!私たちも!」

 メリシャが俺の顔を見る。

「ああ、もちろん」

 危険がないところまでは一緒に行くよ。

 サラもあのままドラゴンの巣にこもっているわけにはいかないだろうし。

 それに、サラを連れ戻すことが陛下に会える条件ならするしかないんだよな。

「ハンナ、私、少し旅に出るわ」

 ずっと近くで俺たちのやり取りを聞いていたハンナが頷く。

「メリシャ様は止めても無駄だと知っています。旦那様からも、メリシャが誰かを救うために旅立つことがあれば……止めずにこれを渡してくれと言われていましたので」

 と、ハンナがポケットの中から1枚のカードを取り出した。

「ハンナ、これは?」

 カードの色は赤。文字が書かれているようだけれど、パッと見ただけでは小さすぎて読めなかった。

「冒険者ギルドに渡してください。呼び出しカードです。強制依頼を発動できます」

 冒険者ギルドで、強制依頼?赤紙かよっ!

「強制依頼?あの、でも、いくら公爵家や皇太子殿下が絡んでいると言っても、正式なものではないから……」

 ハンナがにこりと笑う。

「ああ、これは、私の子供を呼び出すカードよ。親への恩返しをしなさいと言ってあるから、何でも自由に依頼して。護衛くらいには役立つから」

 なんと!

 親から子供への手紙……。親からの強制依頼を発動。子供に拒否権はない……って。ハンナさん……肝っ玉かあちゃんだった。

「ハンナ、受け取れないわ……。親への恩返しというなら、私ではなくハンナが何かを依頼するべきよ」

「ふふ、メリシャ様、私はメリシャ様が大好きです。大好きなメリシャ様を守ってもらうんですから、十分私への恩返しですよ」

「ハンナ……」

 旅……か。

 ドラゴンの巣は鏡テレビで見たことがある。が、実際行くとなると、どうやって行けばいいんだ?

「ぼやぼやしていられないぞ。必要なものを荷造りしてむれメリシャ。俺も準備をしてくる」

 人気のない路地へと身をひそめる。

 鏡テレビにドラゴンの巣を映し出す。

 それから、どんどんと縮尺を変え、どんどん離れていく。

 地図を見る感じだな。森の中にそびえる山の頂上付近の洞穴がドラゴンの巣になっているようだ。森にはワイバーンがわんさと飛び交っているな。

 森には大きな湖がある。形が亀みたいだ。目印にちょうどいい。

 それから、今度は王都……今俺がいる場所を映し出す。ん?俺は映らないのか。

 そこからやはりどんどん縮尺を変え、遠ざかっていく。

 王都が点みたいになったところで、鏡テレビに亀みたいな形の湖も映り込んだ。

「なるほど、北東に進めばいいんだな」

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